著者
寺尾 純二
出版者
甲南女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

調理や消化過程で生じる過酸化脂質は最小限に抑える必要がある。そこでネギ属野菜が有する過酸化脂質還元作用を利用することにより、過酸化脂質量低減化法を開発することを目的とした。万能ネギ、長ネギ、タマネギ、ニンニクのうちで長ネギの還元作用が最も強いことを明らかにした。食用油脂のトリアシルグリセロールヒドロペルオキシド(TG-OOH)を人工膵液で加水分解すると遊離脂肪酸ヒドロペルオキシ体(FFA-OOH)が産生したが、長ネギ試料はTG-OOHおよびFFA-OOHどちらとも還元作用を示さなかった。消化管ではネギの還元作用を発揮する活性本体が膵液により消化されて消失すると思われた。
著者
宅見 央子 中村 弘康 釜阪 寛 米谷 俊 灘本 知憲 寺尾 純二 栗木 隆
出版者
一般社団法人 日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.186-193, 2011-04-20 (Released:2017-12-15)
参考文献数
21
被引用文献数
3 2

ヘスペリジンは,柑橘類の果皮に多く含まれるフラボノイドで,多岐にわたる生理作用を有するものの水溶性が極めて低いために食品への利用に制限があった。われわれは,シクロデキストリン合成酵素により,ヘスペリジンにα-1,4結合でグルコースを転移させ,水溶性を高めた糖転移ヘスペリジンの生理活性に着目し,血流改善作用について研究を行ってきた。冷え性をモデルとした試験では,局部急速冷却負荷試験および全身緩慢冷却負荷試験の両方において,糖転移ヘスペリジンが末梢の血流や皮膚表面温度を高く維持する作用がみられた。また,糖転移ヘスペリジンを継続摂取することにより,目の下の「くま」が軽減され,肌のハリや柔らかさが改善する傾向が示唆された。血流改善作用の機構として,血管内皮細胞由来のNO(血管拡張物質)の産生促進作用に関する機構と,自律神経を介した機構の2つの関与が示唆された。実際に,糖転移ヘスペリジンをヒトが継続摂取することで,血流や自律神経に関する項目で体調の改善がみられた。以上の結果より,糖転移ヘスペリジンは,冷えや肩こり,腰痛,肌荒れなどの婦人科疾患の改善をはじめ,人々の健康増進に役立つ成分である可能性が示された。
著者
寺尾 純二 長尾 昭彦
出版者
Japan Oil Chemists' Society
雑誌
日本油化学会誌 (ISSN:13418327)
巻号頁・発行日
vol.48, no.10, pp.1075-1085,1199, 1999-10-20 (Released:2009-11-10)
参考文献数
74
被引用文献数
2 1

食事中に含まれるカロテノイドは消化管から吸収され, 体内の各組織に蓄積することが知られている。しかし, その生理機能については, プロビタミンA活性以外は明らかではない。フリーラジカル捕捉や一重項酸素消去などカロテノイドの抗酸化作用はよく研究されている。しかし, この抗酸化活性が生体内に存在する抗酸化防御系にどの程度寄与するかは明確ではない。一方, 動物実験におけるカロテノイドの抗腫瘍効果は, 細胞増殖抑制や細胞分化誘導作用で説明される。また, 細胞間ギャップ結合を強めることもその抗腫瘍効果に関与する可能性がある。食事由来のカロテノイドの生理機能を評価するためには, その吸収と代謝を理解することが重要である。ビタミンA活性発現に必要な15, 15'-ジオキシゲナーゼは生体組織に広く分布し, 消化管からのカロテノイドの吸収は食事に含まれる共存物により大きく影響される。さらに, その代謝経路は, 酸化反応プロセスが示唆されているものの, まだ明らかにされていない。
著者
寺尾 純二 板東 紀子 室田 佳恵子
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

フィチン酸(Phytic acid:inositol hexaphosphaste:IP6)は.穀類豆類に広く分布し日常摂取する一般的な食品成分であるが.その強力な金属イオンキレート力には潜在的な生理機能性が存在するはずである。本研究は消化管の酸化ストレス抑制に対するフィチン酸の有効性を明らかにすることを目指すものであるがフィチン酸(IP6)とその部分加水分解物(IP5〜IP2)の(1)キレート能(2)リポソーム膜の鉄イオン依存性脂質過酸化反応に対する抗酸化活性,(3)ラット大腸粘膜の鉄イオン性脂質過酸化反応に対する抗酸化活性(in vitro系)の評価を行った。その結果(1)リン酸数に従い,IP2<IP3<IP4<IP5<IP6の順にキレート能が強まった。(2)リン酸数に従い,IP2<IP3<IP4<IP5<IP6の順に抗酸化活性が強まったがIP3以上ではIP6に匹敵する抗酸化活性がみとめられた。(3)IP3はIP6と同程度の粘膜酸化抑制作用を発揮することが明らかであった。さらにラット大腸粘膜の鉄イオン性脂質過酸化反応に対する抗酸化活性をex vivo系で評価することを試みた。フィチン酸投与群と無投与群(対照群)から18時間後に大腸粘膜を採取し鉄イオン誘導脂質過酸化反応を行ったところ,TBARS量,ヘキサナール量.4-ヒドロキシノネナール量においてフィチン酸群が無投与群よりも低値を示した。以上のことは、日常摂取するフィチン酸は実際に消化管での酸化ストレス防御に働くことを示すものであり.食品成分として摂取したIP6が消化管内で腸内細菌由来のフィターゼによる加水分解を受ける過程においても、生じた加水分解物が十分に抗酸化作用を発揮できることを示唆するものである。
著者
寺尾 純二 向井 理恵 中村 俊之
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

フラボノイドに対するプレニル基の導入がその機能性に与える影響を構造活性相関の観点から解明することを目的とした。用いたフラボノイドはケルセチン(Q)とそのプレニル化誘導体である6-プレニルケルセチン(6-PQ)、5'-PQ、8-PQである。プレニル基の位置により疎水性は異なること、疎水性が最も高い6-PQが最も効果的にヒト血管内皮細胞へ取り込まれるとともにヘムオキシゲナーゼ-1の誘導を最も強く促進することを明らかにした。Qはフラボノイドの細胞内標的分子と予想されるカベオリン-1の機能調節作用を有することを証明した。プレニル化フラボノイドの標的分子としてのカベオリン-1の重要性が推定された。
著者
寺尾 純二
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.256-263, 1992-04-25 (Released:2009-05-25)
参考文献数
30
被引用文献数
1
著者
馬場 星吾 寺尾 純二
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.4, no.7, pp.271-277,270, 2004-07-01 (Released:2013-06-01)
参考文献数
46
被引用文献数
1

野菜や果物などの植物性食品に含まれるポリフェノールは生活習慣病の予防に関わるフードファクターとして注目されている。ここではポリフェノールのバイオアベイラビリティーについて, とくにフラボノイド化合物であるカテキン類の生体への吸収代謝と生理活性との関連について最近の研究成果を報告する。ラットやヒトにおいて (+) -カテキンや (-) -エピカテキンは没食子酸が結合したカテキン類に比べて吸収されやすく, 血漿中では主にグルクロン酸抱合体, 硫酸抱合体, メチル化体およびそれらの複合体として存在する。ただし, ラットとヒトではその代謝物分布に相違があり, ヒトでは硫酸抱合体が相当量存在する。カテキン類の生理機能として抗酸化活性が考えられるが, 代謝物においてもカテコール構造が保持されたものは抗酸化力をもつ。また, カテキン代謝物は抗酸化活性以外にもカスパーゼ活性阻害やMAPキナーゼ不活性化による神経細胞のアポトーシス抑制作用を有することが報告された。したがって, カテキン類の機能を正しく評価するためには生体吸収率と代謝変換を考慮しなければならない。
著者
寺尾 純二
出版者
日本ビタミン学会
雑誌
ビタミン (ISSN:0006386X)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.3-11, 2005-01-25
被引用文献数
5 1

1. フレンチパラドックスが巷間の話題となって以来, ワインに含まれるポリフェノールの生理機能性が注目されるようになってきた. フレンチパラドックスとは, 「フランス人では飽和脂肪摂取量が多いにも関わらず冠状動脈疾患の罹患率が低いのは, ポリフェノールに富む赤ワインを摂取するためである」とする仮説である. 赤ワイン中にはポリフェノールが800mg/kg程度含まれるが, その多くはカテキン, エピカテキン, アントシアニジン色素等のフラボノイドやこれらの重合物である. フラボノイドは野菜や果物にも多く含まれているが, 1994年にオランダのHertogらは野菜からのフラボノイド摂取量が多いほど冠動脈疾患による死亡率が少ないという疫学調査を発表した. 40〜59歳の男性12,763人を25年間にわたって観察したSeven Country Studyでもフラボノイドの平均摂取量は冠動脈疾患罹患率と逆相関することが明らかとなった. これらの疫学調査報告から, フラボノイドは抗動脈硬化因子として俄然注目されるようになった.