著者
久保田 裕道 本林 靖久
出版者
独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

危機的状況にあるブータンの祭礼芸能の変容実態と、その要因となる社会的環境の変化とを民俗学の手法を用いて調査・分析を行い、画像・映像を併用した報告書を作成する。対象は、タシガン県メラ村を中心とし、その他ブータン各地の事例との比較も行う。方法としては、現状を①形態的変容、②意味的変容、③縮小・休止・廃絶等に分類し、その要因を(a)伝承的必然性(b)社会的要因(c)精神的要因(d)活用的要因等に当てはめて分析を行う。その上で分析結果が、祭礼芸能の保護にどのように結びつくのかを併せて考察し、最終的な無形文化遺産保護の提言につなげる。また、現状での新型コロナウイルス感染症による変容実態をも検証する。
著者
林 靖久
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.g31-g32, 1995-10-25

発癌には多くの要因が関与しているため, 臨床面からその因子を推定し因果関係を明らかにすることは非常に困難である. 現在, 飲酒・喫煙は多くの疫学的および臨床的研究から癌発生に大きく関与し, 口腔癌においても重要な発生因子であると認識されている. しかし, 口腔癌患者の口腔環境についての研究は癌治療が最優先されることや, 口腔癌の発生数が少ないことなどの理由から, ほとんど明らかにされていないのが現状である. 本研究は口腔癌患者の口腔環境の実態を, オルソパントモグラムを用いて分析し, 癌発生を効果的に予防する具体的な方法の手掛かりを探求するものである. 研究対象 1968年から1990年の23年間に扁平上皮癌と診断され初診時のオルソパントモグラムが保管されている, 口腔癌患者454例(下顎歯肉癌223例, 舌癌155例, 口底癌76例)を対象とした. 対照群は1992年5〜6月および11〜12月にかけて本学附属病院歯科放射線科でオルソパントモグラムが撮影された30歳以上の患者390例(腫瘍や嚢胞および炎症で歯や顎骨に著明な変化を認めないもの)である. 研究方法 歯の齲蝕罹患や処置の指標はDMFを参考にし, 一部を改変した. D: Decayは未処置齲蝕, M: Missingは齲蝕により喪失した歯, F: Fillingは処置された過去の齲蝕と定義されているが, 本研究での MissingはX線写真上での喪失歯を意味する. その評価項目は残存歯数, 未処置齲蝕歯率(未処置齲蝕歯数/残存歯数)とした. また歯周組織の重篤度を示す指標として, 歯槽骨の吸収度を植立歯の長さに対応させて0から4まで, 1)レベル0: 歯槽骨頂に白線が認められるか, あるいは歯槽骨の吸収がないもの, 2)レベル1: 歯槽骨頂の吸収が軽度にみられるもの, 3)レベル2: その吸収量が根尖側2/3付近まで, 4)レベル3: 根尖側1/3付近まで, 5)レベル4: レベル3を越える吸収, の5段階に分類した. この基準に従って, 各歯において最も重篤な骨吸収レベルを点数として与え(腫瘍による骨浸潤相当歯は除く), その合計点数を残存歯数で割った値(骨吸収得点合計/残存歯数)を個人の歯周組織の状態の指標とし, これを骨指数とした. これら4群(下顎歯肉, 舌, 口底, 対照の各群)の比較は, 性および年齢で層別化して平均値の一様性の判定を行った. その判定には分散分析を用い, 平均値の一様性に差が認められた場合(P<0.05)にのみ, 各2群間の平均値の差をt検定で検討した. 結果 1)未処置齲蝕率は, 対照群より癌群のほうがやや高い傾向をみたが, 統計的な有意差は認められなかった. 2)歯槽骨頂の吸収程度は, 癌群のほうが進行していた. なかでも口底癌は対照群と比較すると, その吸収程度はかなり進行していた(男性49歳以下群1%以下, 50歳群0.1%以下, 60歳群5%以下, 70歳以上群0.5%以下の危険率で有意差を認めた). 3)癌群中, 舌癌の歯槽骨頂の吸収程度は, 対照群と類似していた. 腫瘍の発生部位で発癌の刺激因子は異なると考えられ, とくに口底癌と下顎歯肉癌は, 歯周疾患の進行が発癌因子の一つと思われた. 以上より口腔癌にかける第一次予防の手掛かりは, 歯周疾患進行の制御と考えられた.