著者
北野 信彦 窪寺 茂
出版者
独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

建築文化財の外観塗装材料や色調は、建造物自体のイメージを大きく左右する。そのため、この基礎調査は塗装修理を行う際にも大切である。本研究では、(1)個々の建造物の外観塗装材料の性質や色相、変遷に関する調査を行った。その結果、多用されたベンガラ塗装や漆塗装では時と場所に応じた塗装材料の使い分けが行われていたことが明確になった。そして、伝統的材料や技法を生かした新塗料開発の可能性も手板作成などを通してわかってきた。
著者
今石 みぎわ
出版者
独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本州の社寺に奉納されたイナウは、これまでに石川県で9点、青森県で27点、岩手県で1点が確認されている。2年目である本年は、イナウ奉納の背景を探るため、奉納を行った石川県の廻船問屋に関する歴史資料の分析を進めるとともに、類似資料の所在調査を行った。また、成果と課題の共有のため、5月には石川県で研究会を開催したほか、10月にはイナウ奉納の地元である輪島市で、1月には北海道で開催された一般向けの講座で報告するなど、成果の積極的公表にも努めた。歴史資料については戸澗幹夫氏・濱岡伸也氏(石川県立歴史博物館)、堀井美里氏(株式会社AMANE)などの協力を得て、イナウを奉納した角海家文書、七野家文書等の整理・分析を進めている。この結果、角海家が奉納年代に実際に樺太へ赴いていることなどが史料から裏付けられた。詳しい成果については来年度開催の研究会にて研究協力者と情報共有する予定である。また類似資料の所在調査に関しては、戸澗幹夫氏、堀井美里氏、北原次郎太氏(北海道大学アイヌ・先住民研究センター)とともに9月に新潟県で調査を行った。イナウは発見されなかったものの、蝦夷錦や船絵馬等、多数の北方関連資料について調査・検証を行い、イナウがもたらされた背景となる北方交流の在り方について知見を深めることができた。さらに輪島市では、かつてイナウを所有していたという方から新たに情報提供をいただき、来年度現地調査を行う予定である。
著者
安倍 雅史 ハラナギ ホセイン・アジジ ハニプル モルテザ
出版者
独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

西アジアの肥沃な三日月地帯は、地中海式農耕の起源地として知られている。1990年代には、肥沃な三日月地帯の中でも、西側のレヴァントで最初に農耕・牧畜が開始されたと考古学会では考えられていた。しかし、今世紀に入り急速に発達した遺伝子研究は、対照的に東側のザグロスでも独自に農耕・牧畜が誕生した可能性を示している。筆者は、研究の空白地帯であったザグロス地域における農耕・牧畜の起源、またこの地域からの農耕・牧畜の拡散のプロセスを解明するため、イラン・ザグロス地域を対象に考古学調査を実施した。その結果、中央ザグロスで誕生した農耕文化がどのように東漸していったか、具体的な知見を得ることができた。
著者
久保田 裕道 本林 靖久
出版者
独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

危機的状況にあるブータンの祭礼芸能の変容実態と、その要因となる社会的環境の変化とを民俗学の手法を用いて調査・分析を行い、画像・映像を併用した報告書を作成する。対象は、タシガン県メラ村を中心とし、その他ブータン各地の事例との比較も行う。方法としては、現状を①形態的変容、②意味的変容、③縮小・休止・廃絶等に分類し、その要因を(a)伝承的必然性(b)社会的要因(c)精神的要因(d)活用的要因等に当てはめて分析を行う。その上で分析結果が、祭礼芸能の保護にどのように結びつくのかを併せて考察し、最終的な無形文化遺産保護の提言につなげる。また、現状での新型コロナウイルス感染症による変容実態をも検証する。
著者
島田 潤 渡辺 祐基 小峰 幸夫 佐藤 嘉則 木川 りか
出版者
独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

紙資料を食害するシミ類は、日本の博物館・美術館・文書館に広く分布しており、貴重書の保存において重要な害虫の一つである。これまで国内で知られているシミとは異なる種が博物館と文書館で相次いで確認された。いずれも生息個体数が多いという共通点があったことから、既知種とは生態が大きく異なり強い繁殖力を持つことが考えられる。本研究ではこの未知種に関して、全国の施設での分布状況の把握を行い、本種を特定し、食性や繁殖力などの生態学的な特徴を解明する。さらに、文化財IPMの考え方に基づく有効な新規防除方法の確立を目的とする。貴重書を始めとする紙資料の保存の観点から、早急な調査と対策が必要とされる。
著者
大河原 典子 宮廻 正明 高林 弘実
出版者
独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

明治から昭和にかけて活躍した日本画家上村松園の技法と表現について、作品の科学的な分析と下絵および自叙伝の調査からその特徴を明らかにすることを目的とした。本画2作品を蛍光X線回折、赤外線撮影、顕微鏡撮影を通じて分析したところ、日本画で古くからある顔料と、明治以降新しく使われ出した顔料がともに検出された。また文献資料にある記述と異なり、絹の表からのみ彩色されていることが解った。表現においては同一画面のなかでも人体とそれ以外で技法に意図的な差異があった。作家の原点である縮図帖の分析では、色とモチーフの分類および電子書籍化を実施した。
著者
友田 正彦 大田 省一 清水 真一 上野 祥史 小野田 恵 ファム レ・フイ ブイ ミン・チー グェン ヴァン・アイン
出版者
独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

実物遺構が現存しない14世紀以前のベトナム木造建築の上部構造の解明に寄与することを主目的に、建築型土製品等の考古遺物と現存建築遺構等の現地調査をベトナム北部各省と中国国内で計6次にわたり実施した。これにより、ベトナムにおける中国建築様式の段階的かつ選択的な受容のあり方について新知見を加えるとともに、ベトナム木造建築様式の独自性が李・陳朝期に溯ることを明らかにした。ハノイでの研究会開催や、日越両語による研究論集の刊行を通じ、ベトナム北部出土建築型土製品の調査データも含めた研究成果を公開するとともに、従来あまり知られていなかった研究資料を提供することができた。
著者
佐藤 嘉則 島津 美子 木川 りか
出版者
独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

インド共和国にあるアジャンター石窟寺院には貴重な壁画群が存在する。しかし、石窟内部で広く確認される黒色物質が、壁画上に粘着して土壁そのものを溶解して壁画を消失させるという深刻な被害をもたらしており大きな問題となっている。本研究では、現地から採取した黒色物質の微生物および理化学性解析から、①黒色物質は微生物バイオフィルムであり、②黒色物質のある土壁ではセルロース量が減少していること、などが明らかとなった。かつて石窟内にいたコウモリの糞尿による水分や有機物の供給が微生物バイオフィルムの基となり、バイオフィルム内の微生物がスサを分解して壁画の剥落(消失)が引き起こされていたのではないかと考えられた。
著者
二神 葉子
出版者
独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

文化財の脆弱性評価と地震発生時の救援や被害状況記録、防災へのデータベースの活用についてイタリアを対象として調査したところ、文化財GISによる危険地図を用いて詳細に実施されていた。日本の国宝文化財建造物の地震対策進捗状況と地震動予測地図の認知度について所有者へのアンケートを実施したところ、地震対策の実施は15%、地図の認知度は17%にとどまったが、地震危険度評価は有効との回答は72%にのぼり、活用の必要性が認識されていることがわかった。
著者
亀井 伸雄 友田 正彦 竹内 泰 脇田 祥尚 安福 勝 田代 亜紀子 佐藤 桂
出版者
独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

2009年のスマトラ島沖地震にて被災したインドネシア西スマトラ州の州都パダンにおいて、被災直後から継続的に実施してきた歴史地区文化遺産復興に資する調査研究を、インドネシア側行政機関及び研究者と協力して行った。先行研究成果を踏まえつつ、現地調査・資料収集を通じて、パダン市の市街地構造の変遷と歴史的建造物の特徴及び分布を明らかにし、群として保存すべき文化遺産の価値と現状・課題について整理した。同時に、住民への聞き取り調査から社会組織や生活慣習、震災後の変化等をまとめ、ワークショップ開催により、復興に向けた意見交換を行った。以上をもとに、歴史地区の保存と開発の方向性を提言としてまとめることができた。
著者
加藤 雅人 川野邊 渉 高橋 裕次 稲葉 政満 半田 正博
出版者
独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

紙文化財の修理技術は、工程、手法、道具、材料が様々であり、同じ作業や材料、道具でさえ用語が異なっていることがある。本研究では、これらの用語を調査して分類することにより、紙文化財およびその修復技術という無形文化財に対する共通理解を深めることを目的として行った。最初に調査票の作製を行い、その後情報収集を行った。データベースの検討を行い、htmlの試作を行った。また蓄積した情報を修復用紙の選択に応用した。
著者
皿井 舞
出版者
独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究のもっとも大きな成果は、これまでほとんど知られていなかった京都・神光院薬師如来立像をはじめとする平安時代前期の彫像を実査し、とりわけ本像が9世紀初頭の天長年間(824-834)頃に百姓がつくったものであることを明らかにしたことである。こうした市井の造像のありようを史料から裏付けることによって、官営工房作の像ばかりに注目されがちであった平安時代前期彫刻の多様性を考える手がかりが得られた。