著者
林崎 義映
出版者
埼玉医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

法医学実務における骨の鑑定は、現在もなお重要であり続けている。身元特定の第一歩としての性別判定は、その確定にDNA検査が必要であるが、骨の保存状態によってはDNA検査ができない場合があり、形態学的な判定の精度を高める必要がある。一般にDNAを用いない性別判定には、形態観察法と数値計測による方法とがある。前者は、熟練者の的中率は高いものの、客観性・再現性に問題が生じる。後者は全体や特定の部位の大きさを計測する方法がほとんどで、骨の複雑な形状を十分に反映しておらず、熟練者の形態観察に精度で劣るものが多い。男性の骨が大きく、女性の骨が相対的に小さいといった傾向がそのまま判断基準となり、中間的な大きさの骨を男女それぞれに正確に分類することはうまくいっていないものが多い。本研究の目的は人骨に対してフーリエ解析を実施することにより、客観的かつ骨形態を十分に反映した高精度の性別判定法を確立することである。フーリエ解析は画像解析の分野で広く用いられているが、その特性は複雑な骨形態の解析にもよく適している。また、本研究では死後CT画像を対象としてフーリエ解析を実施しているが、実際の骨を写真撮影などして二次元情報に落とし込むよりも、再現性・証拠保全性・易作業性といった点で優れている。頭蓋骨に関して鼻根部から冠状縫合までの正中線の形状(スブナジオン-ブレグマ間)をち抽出し、解析したところ、肉眼的な形態観察法と同等程度の的中率(83%~90%)が得られ、国際学会で報告した。最終年度には、実務に即した運用を検討し、誤判定率(10~17%)をより減らすため、男女2群に分けるのではなく、判断保留群を加えた3群に分けることにした。その結果、誤判定率を1%まで下げることができたが、同時に74%の判断保留が生じた。判断基準の設定にはなお検討を要する。