著者
林部 敬吉 阿部 圭一 辻 敬一郎 雨宮 正彦 ヴァレリ ウイルキンソン 松王 政浩
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

心理学的視点と教育工学的視点から、日本伝統工芸技能の修得過程の分析、外国の技能研修制度と修得過程の分析および両者の修得過程における異文化間比較、さらに暗黙知である技能の修得を促進するわざことばの調査を通して、伝統工芸技能修得の認知的なプロセスの特徴を明らかにし、この認知的モデルに依拠した効果的な技能修得の方法と支援について提案することを目指した。陶磁器、指物、筆、硯、染色、和紙、漆器、織物など主に伝統工芸産地指定を受けた親方と弟子に対しての面接と取材調査、ドイツのマイスター制度とデュアル制度の現地調査、浜松の楽器製造産業における技能の継承についての取材調査、さらにすべての伝統工芸産地指定約220箇所の伝統工芸士に対して、「わざことば」のアンケート調査を実施した。伝統工芸士に対する取材調査では、実際の工程でのもの作りをビデオおよび3次元ビデオに録画すると共に、主要な「わざ」の手指の型を3次元カメラで取得した。企業については、工芸技能の世代間継承の方法、実態について調査した。これらの調査と分析の結果、次のことを明らかにできた。(1)「わざ」の伝承は、一種の徒弟方式である「師弟相伝」で行われる。技能伝承の基本は、技能の熟練者(親方)の模範を継承者(弟子)が観察・模倣するにあり、また継承者の技能習得を助けるものとして「わざことば」が存在する。技能伝承を効果的にするには、伝承者と継承者との間に信頼にもとつく人間的な紐帯が形成されることが大切である。2)日本の徒弟制度とドイツのマスター制度を比較すると、日本のそれの良い点は、極めて優れた技能保持者を生み出せるのに対して、ドイツのそれは、一定の技能水準をもつ技能者を育てることができることにある。徒弟制度の悪い点は、技能の修得過程が明文化されていないことで、教え方が親方の独善的なものに陥りやすい。デュアル制度の短所は、名人といわれるような技能の伝承が行われにくく、獲得した技能が一代限りで終わる点である。(3)企業における「わざ」の伝承でも、「師弟相伝」方式が採用され、技能の熟練者と継承者が相互信頼に基づき相互啓発しながら行われる。この場合、弟子の技能習得を助けるものとして「伝承メモ」(熟練者)と「継承ノート」(継承者)を介在させることが重要である。(4)「わざことば」は、技能の枢要な事項を比喩的あるいは示唆的に表現したもので、それ自体が技能の内容を余すところなく記述したものではないが、しかし技能上達のヒントともなるべきものである。
著者
林部 敬吉 雨宮 正彦 中谷 広正
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、日本の伝統工芸技能の伝承方式を、楽器製造、鋳型成型、板金成型、印刷産業などの諸工業での世代間継承に生かすための方策について研究した。「わざ」の伝承には、習熟者と伝承者との間で暗黙知から暗黙知、暗黙知から形式知、形式知から形式知への交換と循環があり、暗黙知-暗黙知過程での継承者が作成した「継承ノート」、暗黙知から形式知過程で熟練者が作成した「伝承ノート」が継承と-伝承を効果的に媒介していた。本研究では、これらの「伝承ノート」と「継承ノート」を電子化した「伝承-継承WEBNOTE」を試作し、継承者と伝承者の間をつなぎ「わざ」の交流の場として知識を共有できる機能を持たせた。ここでは、技能を図解し、その要点を記すと共に、熟練者は継承者にコメントを、継承者は熟練者に質問することが可能である。このWEBNOTEでは、伝承-継承過程を記録・保存し、また誰でも他者が修練を積む過程を参照できる。
著者
林部 敬吉 辻 敬一郎 中谷 広正 阿部 圭一 東山 篤規
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

研究成果は次の通りである。1.バーチャル・リアリティ空間における視覚特性について人工的に出現させたバーチャル・リアリティ空問の視覚特性が自然空間とどの程度類似しているかを、双曲空間特性、ホロプター特性、大きさ恒常性、奥行距離特性についてそれぞれ測定した。その結果、両眼視差、パースペクティブ、テクスチャ、陰影を奥行手がかりとした条件では、視覚特性で比較する限り、自然空間は限定的にしか再現されず、また個人差も大きいことが明らかにされた。2.バーチャル・リアリティ技術を応用した対象の3次元可視化についてVR技術を用い3次元可視化したときの視覚特性を考慮した次の3通りのシステム、すなわち人間の脳の3次元可視化システム、室内デザイン支援システム、初等プログラミング教育支援システムを開発した。人間の脳の3次元可視化システムでは、人間の脳の全体と部分が立体的に知覚できるようにし、同時に、脳の構造と機能とが理解できるように工夫された。室内デザイン支援システムでは、VR空間内に置かれた様々な対象(イス、机、棚など)をデータグローブを使用して仮想的に移動し配置(デザイン)させることができ、もし対象とデータグローブとが接触すれば、接触判定を行い、同時に接触したことをユーザーに視覚的、聴覚的信号で知らせて使用者の利便性を高めた。初等プログラミング教育支援システムでは、小学生や中学生等に対してバーチャル・リアリティの技術を利用することでプログラムするとはどういうことかを理解させ、同時にプログラムの結果を、ミニカーやミニロボットをプログラムに従って動かして確認することができるようにした。