著者
加藤 宏公 柳澤 博紀 三田村 仰
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.518-527, 2022 (Released:2023-02-07)
参考文献数
15

目的:統合失調症の慢性期にある50代女性患者のアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)参加による価値に結びついた体験の変化のプロセスを明らかにすることでパーソナルリカバリー支援への示唆を得る.方法:A氏に半構造化面接を実施した.パーソナルリカバリーにつながる価値に結びついた体験について質的記述的に分析した.事例を捉える他の証拠源には価値に基づく行動の自己記録を用いた.結果:依存しない老後のため【家事をやらなければならない思いとやりたくない思いとの間で葛藤する】体験があった.ACT開始後【試行錯誤と不安への対処によって尊敬する母を目標に家事に取り組む】体験があり,家事行動が拡大し【家族と仲良く暮らしたい希望を持ち母を意識し家事する機会を増やす】体験を積み上げていた.結論:パーソナルリカバリーという変化のプロセスを共に歩み,主観的で個別的な体験に焦点をあてる支援の重要性が示唆された.
著者
加藤 宏公 柳澤 博紀 奥村 英雄 井上 眞人 三田村 仰
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.249-260, 2021-09-30 (Released:2022-01-12)
参考文献数
17

本研究では、3名の慢性期統合失調症患者に対しグループ介入のアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)を実施し、介入プログラムの効果を検討した。介入はプログラム4回とフォローアップ2回の全6回であり、シングルケースデザインを用いて、アウトカム指標として価値に基づく行動の生起頻度、プロセス指標としてVQ、CFQ、BEAQを測定した。結果、価値に基づく行動の生起頻度は、3名共に有意な増加(p<.05)が認められた(Tau=0.43—0.53)。プロセス指標は、目視分析において介入中は有意な傾向があり、介入後はベースラインのレベルに戻る傾向がみられ、1名のVQ(前進因子)のみが有意であった(Tau=0.69)。以上から、グループACTプログラムは統合失調症のリカバリー支援として各参加者の価値に基づく行動の促進に有効であり、介入後の行動の般化と維持には、段階的な介入方法のさらなる検討が必要である。
著者
柳澤 博紀 杉浦 琢
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.15-23, 2020-01-31 (Released:2020-10-23)
参考文献数
15

チック症状に対する行動療法として、ハビット・リバーサル(Habit Reversal: HR)の有効性が示されているが、音声チックや重症度の高い症例の蓄積が少ないと国内外で指摘されている。本研究では叫び声様の重度音声チック症状を抱えたクライエント(Cl.)に対してHRを含んだ行動療法を実施し、客観的行動指標を用いたうえで単一症例研究法により効果を検証した。Cl.は40代女性、入院後約1カ月の服薬治療も著効なく行動療法を開始した。ベースラインでは1日5時間の測定を4日行い、叫び声の頻度は1日平均93.5回であった。介入は各回約15分程度心理士と共に咳払いを用いた競合反応訓練を練習すること、および同様の練習を日常的に実施する宿題であった。介入は25日間で10回実施した。介入開始後叫び声の頻度は大幅に減少し、約4週で叫び声は生起しなくなりCl.は退院した。介入実施後3年経過後も症状の再発は見られていない。重度音声チック症状に対するHRの有効性が示唆された。