著者
柳澤 教雄
出版者
日本鉱物科学会
雑誌
日本鉱物学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.87, 2004

地熱発電所や実験・開発プラントにおいては、アモルファスシリカや炭酸カルシウム、硫化鉱物や鉄鉱物など、さまざまな地熱水由来のスケール鉱物が沈殿する。そのスケールの種類は、熱水の温度、pH、共存成分などに依存する。 ところで、日本の地熱発電所では生産熱水を地下に還元しており、それらが地下で加熱され、一部は再び生産に寄与する。そのプロセスをきわめて早くし、地上から河川水等を注入することで熱を取り出すのが高温岩体発電の考え方で2002年まで日本では肘折などで実験が行われ、現在ではオーストラリアなどで実用化にむけての開発が行われている。また、既存の地下貯留層の多くは、雨水や地下水が、断層亀裂などを通して、長時間かけて地下深部に到達することで形成されている。このような地下還元プロセスの時間の差もスケールの生成に関与している。以下、事例を示す。1)高温岩体システムのように、数時間_から_数日で地上から注入された水が加熱されて地上に戻ってくる場合、地下に到達した時点で100℃以下の低温であるため、その周辺の硬石膏を溶解する。硬石膏は高温で溶解度が低いため、地下の加熱の間に析出される。その際、地下でCa濃度が高いまま地上に達すると今度は、地上の二酸化炭素と反応しカルサイトやアラゴナイトを析出させる。 スケール生成状況は、注入井から生産井までの距離や貯留層の滞在時間にも左右される。その距離が70m前後で数時間の滞在であるHDR-2の場合、熱水ラインのスケールは、循環当初は50-70%がアモルファスシリカであったが、井戸の急速な温度低下がおこって以後は、カルサイトやアラゴナイトが増加し、シリカは1%程度の少量となった。また、3ヶ月のスケール沈積量は40mmと厚いものであった。地上でのSO4濃度は700ppm程度であるが、Ca濃度は140ppm前後であることも、地上でのCaとCO3の反応を示している。 一方、距離が130m以上で数日の滞在であるHDR-3の場合、熱水ラインのスケールは循環期間を通してアモルファスシリカ(70%程度)と磁鉄鉱(10%程度)が主でありで炭酸カルシウムは5%以下であった。また、沈積量も1mm以下と少なかった。これは、HDR2に比べ貯留層内の滞在時間が長く、温度も高いので、貯留層内や坑内での硬石膏の再沈殿がおこり、坑内のCa,SO4濃度はHDR2に比べて1/5程度となり、地上部でCaCO3が沈殿する条件にはならなかったと考えられる。そして、地上部での熱水中のSiO2濃度は、高温のためHDR-2の2倍程度あり、相対的にシリカスケールが主成分となったと考えられる。2)従来型の地熱発電所においても地下還元の影響で温度が逆転する箇所があると、そこに硬石膏が析出する。たとえば、澄川では、半月から1月程度で還元熱水が生産井に達するが、そのような井戸の深度2000m以上で、温度が逆転する箇所への硬石膏の付着が報告されている(加藤ほか(2000))3)地熱発電所の生産が継続する過程で、貯留層の圧力低下に伴い、より浅い部分の熱水や地下水の影響を受けることがある。たとえば、葛根田では、マグマ活動起源の金属元素を含むスケールが沈積する。初期のpHは4程度であったが、生産を継続するうちに、pHが上昇し、温度が低下するとともに、スケールの種類もひ鉄鉱、斑銅鉱から四面銅鉱に変化していくこと、シリカスケールの減少が示されている。