著者
柴 里実
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.231-245, 2022-09-30 (Released:2022-10-20)
参考文献数
30
被引用文献数
2

問題解決の失敗後に自分の思考過程を振り返り,次の問題解決に役立つ知識を獲得することは,効果的に学習を進めていくために必要である。一方,先行研究では,振り返りを通して自分の間違いから適切に学ぶことができない学習者の存在も指摘されている。そこで本研究では,問題解決の失敗後の振り返りにおいて,学習者がどのような知識を学んでいるのかという振り返りの質を検討するために,メタ認知的方略「教訓帰納」に焦点を当て,学習者が引き出した教訓の質を評価した。教訓の質を評価するために新たな評価基準を作成し,中学2年生を対象に,文章題を題材とした教訓帰納課題と質問紙調査を実施した。評価された教訓の質得点と数学の学業成績との関連の検討と,数学教師による評価結果との比較検討から,本研究で作成した評価基準が教訓の質を捉えるために有用といえることが示された。また,参加者が引き出した教訓の質の評価から,自分の間違いを的確に分析することや,問題解決の転移に役立つ汎用的な知識を抽出することが困難であるという実態が示された。さらに,教訓の質と学習者特性との関連を検討した結果,意味理解志向や失敗活用志向などの深い認知処理を重視する学習観が,質の高い教訓の引き出しにかかわっている可能性が示唆された。
著者
植阪 友理 内田 奈緒 佐宗 駿 柴 里実 太田 絵梨子 劉 夢思 水野 木綿 坂口 卓也 冨田 真永
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.404-418, 2022-12-30 (Released:2022-12-30)
参考文献数
44
被引用文献数
1

自立的に深く学ぶ力の育成は,新教育課程において強調されている重要な教育目標である。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により,家庭で自ら学習する時間が増加したことから,以前にもましてこの力の重要性か゛高まっている。一方で,学習者はこうした力を十分に身につけていないという実態か゛ある。本研究て゛は,大学関係者と高校教員か゛連携し,新型コロナウイルス感染症拡大の影響をうけて休校中であった公立高校において,公立高校1年生33名を対象に,自学自習を支援する「オンライン学習法講座(全6回)」を実践した。本実践を開発するにあたり,オンラインならではの指導上の工夫を導入するとともに,オンラインを前提としない従来の指導法上の工夫をどのように統合すべきかについても検討した。講座を実施した結果,オンラインて゛の実施ではあったが,生徒に講座の趣旨か゛十分に伝わっている様子が確認されるとともに,高い満足度が得られた。また,一部の生徒ではあるものの複数の講座を統合的に利用する様子や,学校現場の指導法の変化も確認された。
著者
植阪 友理 植竹 温香 柴 里実
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.175-191, 2021-03-30 (Released:2021-11-16)
参考文献数
30

近年,「子どもの貧困」の問題が脚光をあびるようになり,社会的関心も高まっている。その一方で,貧困をテーマとした論文が『教育心理学研究』に掲載されたことはなく,学会としてこの問題に正面から取り組んできたとは言い難い。一方,他領域,他学会等では,課題はあるものの活発な議論や活動が行われつつある。本稿では,日本における貧困家庭の子どもの支援について,研究知見や官民の取り組みを概観するとともに,そこでの課題を乗り越えるため,著者が生活保護受給者世帯を支援するNPOと連携し,数年にわたって行ってきた学習支援の実践を取り上げる。この実践は,認知心理学を生かして学習者の自立を目指す「認知カウンセリング」の知見を活用しようとする試みである。目に見えて大きな成果が得られているとは言い難いが,確実に変化は見られている。この実践を記述することを通じて,心理学的発想や「認知カウンセリング」の知見は貧困家庭の子どもの支援においてなぜ受け入れられにくいのかという原因を考察するとともに,心理学に基づく支援が活用されるためには,支援者にどう学んでもらうことが効果的なのかを実践を踏まえて提案した。