著者
植阪 友理
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.80-94, 2010
被引用文献数
17

自己学習力の育成には, 学習方略の指導が有効である。中でも, 複数の教科で利用できる教科横断的な方略は, 指導した教科以外でも活用できるため有用である。指導された学習方略を他の教科や内容の学習に生かすことは「方略の転移」と呼べる。しかし, 方略の転移については, 従来, ほとんど検討されてきていない。そこで本研究では, 方略の転移が生じた認知カウンセリングの事例を分析し, 方略の転移が生じるプロセスを考察する。クライエントは中学2年生の女子である。非認知主義的学習観が不適切な学習方法を引き起こし, 学習成果が長期間にわたって得られないことから, 学習意欲が低くなっていた。このクライエントに対して教訓帰納と呼ばれる学習方略を, 数学を題材として指導し, さらに, 本人の学習観を意識化させる働きかけを行った。学習方法の改善によって学習成果が実感できるようになると, 非認知主義的学習観から認知主義的学習観へと変容が見られ, その後, 数学の異なる単元や理科へ方略が転移したことが確認された。学習方略を規定する学習観が変容したことによって, 教科間で方略が転移したと考えられた。また, 学習者同士の教え合いが多いというクライエントの学習環境の特徴も影響したと考えられた。
著者
植阪 友理
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.80-94, 2010 (Released:2012-03-27)
参考文献数
41
被引用文献数
27 17

自己学習力の育成には, 学習方略の指導が有効である。中でも, 複数の教科で利用できる教科横断的な方略は, 指導した教科以外でも活用できるため有用である。指導された学習方略を他の教科や内容の学習に生かすことは「方略の転移」と呼べる。しかし, 方略の転移については, 従来, ほとんど検討されてきていない。そこで本研究では, 方略の転移が生じた認知カウンセリングの事例を分析し, 方略の転移が生じるプロセスを考察する。クライエントは中学2年生の女子である。非認知主義的学習観が不適切な学習方法を引き起こし, 学習成果が長期間にわたって得られないことから, 学習意欲が低くなっていた。このクライエントに対して教訓帰納と呼ばれる学習方略を, 数学を題材として指導し, さらに, 本人の学習観を意識化させる働きかけを行った。学習方法の改善によって学習成果が実感できるようになると, 非認知主義的学習観から認知主義的学習観へと変容が見られ, その後, 数学の異なる単元や理科へ方略が転移したことが確認された。学習方略を規定する学習観が変容したことによって, 教科間で方略が転移したと考えられた。また, 学習者同士の教え合いが多いというクライエントの学習環境の特徴も影響したと考えられた。
著者
内田 奈緒 水野 木綿 植阪 友理
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.145-158, 2023-06-30 (Released:2023-06-14)
参考文献数
30
被引用文献数
1 1

本研究では,研究者が効果的な語彙学習方略について明示的に指導し,教師が通常授業で方略使用を支援する方略指導実践を行った。その実践を通して,高校生の方略使用の変化と,変化の個人差の背景にあるプロセスについて検討した。実践では,高校1年生1クラス33名を対象に,英単語を他の情報と関連づけながら学習する方略について指導した。指導の効果について,実践開始前の4月から実践開始後の7月,2月にかけて,指導した関連づけ方略の使用が継続的に増えていた。また,指導後方略を普段の学習でよく使うようになった生徒3名とあまり使うようにならなかった生徒2名にインタビューを行った。その結果,方略を使うようになった生徒は,指導を受ける前にもともと自分が使用していた方略の問題を認識し,それと相対化して新たな方略の有効性を認知していた。一方,あまり使うようにならなかった生徒は,指導前の学習について具体的な問題は認識せず,新たな方略について感覚的に,あるいは外的資源に依存して有効性を認知していた。研究者と教師が連携する方略指導の有効性および,元の学習方略と新たな学習方略を相対化することの重要性が示唆された。
著者
植阪 友理
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.313-332, 2009 (Released:2010-09-10)
参考文献数
47
被引用文献数
9

The development of students' learning skills is an important topic in the school curriculum. However, the development of these skills has not been a strong point in the traditional Japanese educational system. To address this problem, a cognitive model based on findings from cognitive psychological studies has been put forward as a useful perspective from which students' learning skills can be improved. The new approach based on the cognitive model is “Cognitive Counseling”, in which counselors well-versed in the cognitive model personally tutor students experiencing difficulties in the cognitive aspects of their studies (e.g., memorizing, problem solving, and motivation). Although this activity is basically the same as personal tutoring, it places a greater emphasis on problems that have not been sufficiently examined in previous psychological studies or in schools, and its objectives include the development of new psychological studies and educational practice aimed at solving the identified problems. This paper focuses on one particular problem that has been identified in cognitive counseling: that of students not using diagrams spontaneously even though they receive sufficient demonstrations of diagrams use in class. The paper examines the possibility that cognitive counseling can be used in stimulating new perspectives for psychological studies and in the development of the school curriculum.
著者
西村 多久磨 瀬尾 美紀子 植阪 友理 マナロ エマニュエル 田中 瑛津子 市川 伸一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.197-210, 2017 (Released:2017-09-29)
参考文献数
40
被引用文献数
4 8

本研究では, 中学生を対象に学業場面に対する失敗観の個人差を測定する尺度を作成した。その際, 子どもにとって身近で回答しやすい失敗場面を想定し(問題場面, 発表場面, テスト場面, 入試場面), これらの場面の高次因子として「学業場面の失敗観」を想定するモデルを提案した。中学生984名から得られたデータに対して探索的因子分析を行った結果, 失敗観は「失敗に対する活用可能性の認知」と「失敗に対する脅威性の認知」の2因子から構成されることが, 各場面に共通して示された。また, これら4つの場面の高次因子として「学業場面の失敗観」を想定したモデルの適合度は十分な値であった。この結果から, 高次因子モデルによって失敗観を測定するアプローチの妥当性が支持された。さらに, 理論的に関連が予想された変数との相関関係も確認され, 尺度の妥当性に関する複数の証拠が提出された。最後に, 作成された尺度を用いた今後の研究の展望について議論がなされた。
著者
大塚 雄作 柴山 直 植阪 友理 遠藤 利彦 野口 裕之
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.209-229, 2018-03-30 (Released:2018-09-14)
参考文献数
62
被引用文献数
1 1

現在進められている高大接続改革の進展の中で,「学力」をどう捉え,どう評価すべきかといった基本的な部分で,十分な理解が共有されているとは言い難いことをしばしば経験する。調査と選抜試験という評価・測定の目的の違いが安易に軽視されたり,形成的評価に適合する手法や,子どもに必要とされる非認知的要因などの評価が,短絡的に選抜における学力評価などに適用されようとしたりする。 評価・測定は,目的や対象にふさわしい評価手法を状況に応じて選択するということが重要であり,それは高大接続改革のみならず,教育心理学研究においても基本とすべきことである。本討論では,以下の諸点に関して,教育心理学研究の領域における研究事例を紹介しつつ論じていくこととする。(a)大規模学力調査において,目的と設計仕様との整合性の担保,個人スコアと集団スコアの使い分け,データ収集デザイン等が重要という点について。(b)日常的な学校教育実践において,どのような形成的評価が有効に機能するのかについて。(c)子どもの発達に影響を及ぼすと思われる人生早期に培われる「非認知」的な心の性質に関わる研究動向と課題について。
著者
深谷 達史 植阪 友理 田中 瑛津子 篠ヶ谷 圭太 西尾 信一 市川 伸一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.88-104, 2016-03-30 (Released:2016-04-11)
参考文献数
24
被引用文献数
16 11

学習者同士の教えあいは, 内容の理解だけでなく, 日常的な学習場面における効果的な学習方略の使用をも促す可能性がある。本研究では, 学習法の改善を企図した2つの教えあい講座の実践を報告した。2010年度の予備実践では, 理解することの重要性や教えあいのスキルを教授したにもかかわらず, 生徒の問いが表面的である, 教え手が聴き手の理解状態に配慮しないという問題が確認された。これらの問題は, 生徒が「断片的知識/解法手続きを一方的に教える」という教授-学習スキーマを保持するために生起したものと考えられた。そこで, 2012年度の本実践では, こうしたスキーマに働きかける指導の工夫を取り入れ, 「関連づけられた知識を相互的に教えあう」行動へと変容させることを目指した。高校1年生320名に対し, 講演を中心とした前半と2回の教えあいを中心とした後半(計6時間)の教えあい講座を行った。教えあいの発話と内容理解テストの分析から, 理解を目指したやり取りがなされ, 教えあった内容の理解が促進されたことが示された。また, 説明することで理解状態を確認する方略や友人と教えあいを行う方略の使用が講座により増加したことが明らかとなった。
著者
大桃 敏行 秋田 喜代美 村上 祐介 勝野 正章 牧野 篤 藤村 宣之 本田 由紀 浅井 幸子 北村 友人 小玉 重夫 恒吉 僚子 小国 喜弘 李 正連 植阪 友理 市川 伸一 福留 東土 新藤 浩伸 齋藤 兆史 藤江 康彦 両角 亜希子 高橋 史子 星野 崇宏 伊藤 秀樹 山本 清 吉良 直 星野 崇宏 伊藤 秀樹
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

日本を含めて多くの国で多様化や競争、成果に対するアカウンタビリティを重視するガバナンス改革が行われてきた。また同時に、単なる知識や技能の習得からそれらを活用する力や課題解決力、コミュニケーション能力などの育成に向けた教育の質の転換の必要性に関する議論が展開されてきた。本研究の目的はガバナンス改革と教育の質保証との関係を検討しようとするものであり、成果志向の改革では、広い能力概念に基づく教育において評価がどこまでまたどのように用いられるのかが重要な課題となってきていることなどを示した。
著者
植阪 友理 鈴木 雅之 市川 伸一 Manalo Emmanuel 和嶋 雄一郎 小山 義徳 瀬尾 美紀子 植阪 友理 Manalo Emmanuel
出版者
東京大学大学院教育学研究科附属学校教育高度化センター
雑誌
Working Papers
巻号頁・発行日
vol.1, 2012-08-31

科学研究費補助金基盤研究B「学習方略の自発的利用促進メカニズムの解明と学校教育への展開」(代表 Emmanuel Manalo)
著者
市川 伸一 南風原 朝和 杉澤 武俊 瀬尾 美紀子 清河 幸子 犬塚 美輪 村山 航 植阪 友理 小林 寛子 篠ヶ谷 圭太
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.333-347, 2009 (Released:2010-09-10)
参考文献数
15
被引用文献数
8

COMPASS is an assessment test based on the cognitive model of mathematical problem solving. This test diagnoses components of mathematical ability which are required in the process of understanding and solving mathematical problems. The tasks were selected through the case studies of cognitive counseling, in which researchers individually interview and teach learners who feel difficulty in particular learning behavior. The purpose of COMPASS is to provide diagnostic information for improving learning process and methods of class lessons. Features of COMPASS include: The time limitations are set for each task to measure the target component accurately; questionnaires are incorporated to diagnose orientation toward learning behavior. The present paper aims to introduce the concept and the tasks of COMPASS to show how cognitive science contributes to school education through the development of assessment tests.
著者
植阪 友理 内田 奈緒 佐宗 駿 柴 里実 太田 絵梨子 劉 夢思 水野 木綿 坂口 卓也 冨田 真永
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.404-418, 2022-12-30 (Released:2022-12-30)
参考文献数
44
被引用文献数
1

自立的に深く学ぶ力の育成は,新教育課程において強調されている重要な教育目標である。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により,家庭で自ら学習する時間が増加したことから,以前にもましてこの力の重要性か゛高まっている。一方で,学習者はこうした力を十分に身につけていないという実態か゛ある。本研究て゛は,大学関係者と高校教員か゛連携し,新型コロナウイルス感染症拡大の影響をうけて休校中であった公立高校において,公立高校1年生33名を対象に,自学自習を支援する「オンライン学習法講座(全6回)」を実践した。本実践を開発するにあたり,オンラインならではの指導上の工夫を導入するとともに,オンラインを前提としない従来の指導法上の工夫をどのように統合すべきかについても検討した。講座を実施した結果,オンラインて゛の実施ではあったが,生徒に講座の趣旨か゛十分に伝わっている様子が確認されるとともに,高い満足度が得られた。また,一部の生徒ではあるものの複数の講座を統合的に利用する様子や,学校現場の指導法の変化も確認された。
著者
植阪 友理 植竹 温香 柴 里実
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.175-191, 2021-03-30 (Released:2021-11-16)
参考文献数
30

近年,「子どもの貧困」の問題が脚光をあびるようになり,社会的関心も高まっている。その一方で,貧困をテーマとした論文が『教育心理学研究』に掲載されたことはなく,学会としてこの問題に正面から取り組んできたとは言い難い。一方,他領域,他学会等では,課題はあるものの活発な議論や活動が行われつつある。本稿では,日本における貧困家庭の子どもの支援について,研究知見や官民の取り組みを概観するとともに,そこでの課題を乗り越えるため,著者が生活保護受給者世帯を支援するNPOと連携し,数年にわたって行ってきた学習支援の実践を取り上げる。この実践は,認知心理学を生かして学習者の自立を目指す「認知カウンセリング」の知見を活用しようとする試みである。目に見えて大きな成果が得られているとは言い難いが,確実に変化は見られている。この実践を記述することを通じて,心理学的発想や「認知カウンセリング」の知見は貧困家庭の子どもの支援においてなぜ受け入れられにくいのかという原因を考察するとともに,心理学に基づく支援が活用されるためには,支援者にどう学んでもらうことが効果的なのかを実践を踏まえて提案した。
著者
植阪 友理
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.227-231, 2018-09-01 (Released:2019-02-28)
参考文献数
33
著者
植阪 友理 鈴木 雅之 清河 幸子 瀬尾 美紀子 市川 伸一
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.397-417, 2014-02-20 (Released:2016-08-10)
被引用文献数
4

全国学力調査の結果などを受け,教育現場では日本の子どもの学力について,「基礎基本はおおむね良好,活用に課題」と論じられることが多い.しかし,認知心理学を生かした教育実践では,基礎基本が必ずしも十分ではない可能性が指摘されている.そこで本研究では,これらの実践的な知見や認知心理学を参考に開発された,構成要素型テストCOMPASS(市川ら2009)を中学2年生682名に実施し,もし一般的な社会の認識とは異なり,基礎基本が十分なのではないとするならば,特にどのような学力要素が不十分であるのかという実態について検討した.また,調査対象となった生徒の数学担当教師15名に,中学2年生にとって「十分満足」「やや不十分」「極めて不十分」と考えられる基準を評定するよう求めた.教師が評定した基準と,COMPASSの実施結果を比較した結果,数学的概念の不十分さ,基本的な文章題において演算を迅速に決定する力の弱さ,問題解決方略を自発的に利用する力の不十分さなどに課題があることが明らかとなった.これらの結果は,日本の子どもの学力に対する従来の捉え方に再考を促すものである.
著者
深谷 達史 植阪 友理 太田 裕子 小泉 一弘 市川 伸一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.512-525, 2017 (Released:2018-02-21)
参考文献数
40
被引用文献数
1 5

近年の教育界では,基礎的な知識・技能の習得と活用に加え,自立的に学習を進める力として学習方略の習得が求められている。「教えて考えさせる授業」は,この両者の育成を目指したもので,(a)教師が意味理解を重視して基本事項を説明する,(b)ペア説明などで学んだことを生徒が確認する,(c)発展的事項を協同で解決する,(d)授業で学んだことをふり返るという4段階からなる。本研究では,研究授業や講演を含む,教えて考えさせる授業を中心とした算数の授業改善に取り組んだ公立小学校において,導入間もない1年目と導入から時間が経った2年目の比較を通じて,児童の学力と教師の指導がどう変わったかを検証した。全国学力・学習状況調査の結果,2年目の方が,算数A問題とB問題の成績が高く,算数Aの標準偏差が低かった。また,問題解決時の図表活用方略の使用を調べたところ,2年目の方が,図を使わずに不正解のケースが少ない一方,図を使って正解に至るケースが多かった。さらに,教師が指導案を作成する課題において,的確な働きかけを表す指導案得点が2年目の方が高い傾向が見られた。考察では,これらの成果を生んだ理由などを考察した。