著者
内田 奈緒 水野 木綿 植阪 友理
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.145-158, 2023-06-30 (Released:2023-06-14)
参考文献数
30
被引用文献数
1 1

本研究では,研究者が効果的な語彙学習方略について明示的に指導し,教師が通常授業で方略使用を支援する方略指導実践を行った。その実践を通して,高校生の方略使用の変化と,変化の個人差の背景にあるプロセスについて検討した。実践では,高校1年生1クラス33名を対象に,英単語を他の情報と関連づけながら学習する方略について指導した。指導の効果について,実践開始前の4月から実践開始後の7月,2月にかけて,指導した関連づけ方略の使用が継続的に増えていた。また,指導後方略を普段の学習でよく使うようになった生徒3名とあまり使うようにならなかった生徒2名にインタビューを行った。その結果,方略を使うようになった生徒は,指導を受ける前にもともと自分が使用していた方略の問題を認識し,それと相対化して新たな方略の有効性を認知していた。一方,あまり使うようにならなかった生徒は,指導前の学習について具体的な問題は認識せず,新たな方略について感覚的に,あるいは外的資源に依存して有効性を認知していた。研究者と教師が連携する方略指導の有効性および,元の学習方略と新たな学習方略を相対化することの重要性が示唆された。
著者
福島 健太郎 内田 奈緒 岡田 謙介
出版者
日本テスト学会
雑誌
日本テスト学会誌 (ISSN:18809618)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.45-59, 2021 (Released:2021-12-01)
参考文献数
26
被引用文献数
1

テスト解答データから解答者の学習要素の修得状態に関する情報を引き出す方法として,認知診断モデル(Cognitive Diagnostic Models, CDM)が注目されている.特に,多枝選択型のCDMは誤答時の情報も有効活用できると考えられ,実際にいくつかのモデルが提案されてきた.一方で,多枝選択型CDM をテストへ応用するためには,項目の各選択枝に対して,要求される学習要素を規定したQ行列を事前に設定する必要がある.その作成コストの問題と公開データの欠如から,先行研究でも数値シミュレーション研究にとどまっている例が多く,テスト開発にあたっての実証分析上の知見は乏しいのが現状である.そこで本研究では,Q 行列を付与した英語の多枝選択形式のテスト開発を行い,収集した実データに対してCDM を適用して,どのような診断結果が得られるのかを調べた.結果として,モデルがデータに対する一定の予測力を持つことが確認されたものの,今回検討した倹約的なモデルでは多枝選択形式特有の解答行動を十分反映できていない可能性が示され,さらなるモデル開発への示唆が得られた.
著者
植阪 友理 内田 奈緒 佐宗 駿 柴 里実 太田 絵梨子 劉 夢思 水野 木綿 坂口 卓也 冨田 真永
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.404-418, 2022-12-30 (Released:2022-12-30)
参考文献数
44
被引用文献数
1

自立的に深く学ぶ力の育成は,新教育課程において強調されている重要な教育目標である。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により,家庭で自ら学習する時間が増加したことから,以前にもましてこの力の重要性か゛高まっている。一方で,学習者はこうした力を十分に身につけていないという実態か゛ある。本研究て゛は,大学関係者と高校教員か゛連携し,新型コロナウイルス感染症拡大の影響をうけて休校中であった公立高校において,公立高校1年生33名を対象に,自学自習を支援する「オンライン学習法講座(全6回)」を実践した。本実践を開発するにあたり,オンラインならではの指導上の工夫を導入するとともに,オンラインを前提としない従来の指導法上の工夫をどのように統合すべきかについても検討した。講座を実施した結果,オンラインて゛の実施ではあったが,生徒に講座の趣旨か゛十分に伝わっている様子が確認されるとともに,高い満足度が得られた。また,一部の生徒ではあるものの複数の講座を統合的に利用する様子や,学校現場の指導法の変化も確認された。
著者
内田 奈緒
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.366-381, 2021-12-30 (Released:2021-12-28)
参考文献数
45
被引用文献数
7

本研究の目的は,英語語彙学習において効果的な方略は学年により違いがあるのではないか,また,実態としてはどのような方略がとられているのか,その既定要因は何かを検討することであった。中学1―3年生233名,高校生1―3年生304名を対象に,学習目標,学習観,方略使用に関する質問紙調査および語彙サイズテストを実施した。分析の結果,方略使用については,反復方略は一貫して多く使われる一方,より深い処理を伴う関連づけ方略および表現・活用方略の使用は停滞するか減少する傾向が示された。しかし,語彙サイズと関連づけ方略の間には中3以降で正の相関が見られ,ある程度学習が進んだ段階で関連づけながら学習することの有効性が示唆された。さらに,多母集団同時分析を行った結果,高校生では,学習方略と学習目標から語彙サイズへの影響が見られたのに対し,中学生では語彙サイズへの有意なパスは確認されなかった。特に関連づけ方略が有効となる高校においてその使用が増えていかない実態が明らかになり,そのことを考慮した上で指導する必要性が示唆された。
著者
東 大 内田 奈緒美 坂本 望 牧野 智宏 新井 良和 長嶋 比呂志 大鐘 潤
出版者
公益社団法人 日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第106回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.OR2-28, 2013 (Released:2013-09-10)

Myostatinをコードする遺伝子Mstnは,TGF-βスーパーファミリーのGDFファミリーに属し,骨格筋の分化を制御する。分化後の筋細胞から分泌されたMyostatinは,筋組織の幹細胞であるサテライト細胞の増殖抑制や,筋芽細胞から筋管への分化抑制等の作用を通じて,骨格筋組織の発生と再生を抑制する。Mstn変異または欠損の動物は筋肥大が顕著であり,畜産において家畜の筋肉量増加を目的とした研究などで注目されてきた。しかし,Mstn欠損または機能不全の家畜動物は,体格の違いによって繁殖が困難なことや,飼糧が大量に必要であることなどの問題がある。また,Mstn欠損は脂肪形成を抑制するため,日本で重要とされる食肉としての品質にも問題があると考えられる。Mstnの骨格筋特異的な機能を畜産において有効に利用するためには,遺伝子の欠損や完全な不活性化ではなく,発現量を微調節することが必要であると考えられる。遺伝子プロモーター領域のDNAメチル化は,転写因子の結合を阻害し,発現を抑制する。このDNAメチル化は,可逆的な化学修飾であるため,DNAメチル化状態の改変によって遺伝子発現を調節できる可能性がある。また,改変する度合いによって遺伝子の発現量を調整できると考えられる。そこで,ブタ主要組織におけるMstn転写開始点近傍のDNAメチル化状態とmRNAの発現をバイサルファイト法とRT-PCR法を用いて解析した。その結果,Mstn転写開始点近傍は骨格筋でのみ低メチル化状態であり,mRNAの発現も骨格筋特異的であった。この結果から,Mstnプロモーター領域のDNAメチル化状態とmRNAの発現は逆相関していることが明らかとなり,Mstnはプロモーター領域のDNAメチル化状態の変化によって発現調節されることが示唆された。