著者
柴山 雄一
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科学会雑誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.18, no.12, pp.1435-1444, 1966-12

正常分娩の子宮収縮を知るため, Balloon法により, Planimeter値, 振巾, 及び収縮回数の分娩経過による変化を計測し, これ等を統計的に観察して, それぞれの基準曲線を得た. また, 子宮収縮剤であるOxytocinの分割注射並びに点滴静脈内注射の効果について研究し, 次の成績を得た. I. 分娩時子宮収縮の時間的経過(i) (a)Planimeter値: 平均値及び分散ともに時間経過に従つてバラツキに大小があつた. 平均値は, 分娩前50分まではほゞ安定し, 140~100mmHg分であつて, 分娩前40分になると148mmHg分とやゝ増加し, 分娩前30分値167, 20分値173, 10分値191mmHg分と上昇する. (b)振巾: 時間的経過につれて平均値及び分散が均一でない. 振巾はあまり一定の傾向の変化は認められないが, 分娩前6時間の収縮が平均47.2mmHgと比較的高く, 5~4時間値37.8mmHgと低くなり, その後, 2時間半までは40~45mmHgである. その後, 再び38mmHgに低下し, 38~40mmHgが分娩前40分まで続く. 分娩前30分になると, 49mmHgと上昇する. 振出の異常に高いのは96mmHgであつた. (c)収縮回数: 分娩前6時間までは10分間3回であるが, 2時間から4回以上となり, 分娩前50分では4.7回, 20分値4.9, 10分値5.5回と増加した. 回数の少い場合は1.1回以下, 多すぎるのは7~8回以上である, (ii)過強陣痛として, Planimeter値300mmHg分, 振巾80mmHg, 収縮回数7回以上が該当し, 微弱陣痛は, Planimeter値50mmHg分, 振巾10mmHg, 回数1回以下である. (iii)初産と経産とでは, Planimeter値収縮回数は殆んど差がないが, 振巾のみが, 分娩前2時間から50分までの間で経産婦が大きくなつている. (iv)分娩に要する子宮収縮のPlanimeter値は, 初産婦5956, 経産婦2775mmHg分. 振巾の合計は, 初産婦10586, 経産婦5221mmHg, 収縮回数は, 初産婦254回であり経産婦では119回であつた. II. 分娩時Oxytocin分割注射並びに点滴静脈内注射による子宮収縮増強(i) 0.5単位及び1.0単位の効果は顕著であるが, 1.5単位以上の使用は, 単に前回注射の効力の維持に過ぎない. (ii)分割注射は0.5~2.0単位を30分おきに皮下注射したが, 0.5単位皮下注射により10分間で, 収縮回数1.6回, Planimeter値54.8mmHg分の上昇を見, 20分後には振巾が増加したが回数は増加せず, 振出は30分後には最高の12.9mmHg増加となつている. 即ち, Oxytocin皮下注射によりまず収縮回数が増加し, 少し遅れて振巾が増加する. Oxytocinを増量追加すると, 振巾は増加するが, 回数は殆んど変化しない, Planimeter値は回数とほゞ同じ傾向を示す. (iii) Oxytocin点滴静脈内注射による子宮収縮は, 10分後には平均73.9mmHg分と著明に増加し, 0.5単位皮下注射のときの値に近い. 20分後79.7, 30分後77.2, 40分後69.9とやゝ下降し, 50分86.8, 60分99.0mmHg分と再び上昇する. 10mU/分の速度によるOxytocin点滴静脈内注射は, 自然分娩に近い収縮を示している. 即ち, 分娩時間を基準にしてみると, 分娩前40分値がやゝ高いが, その他は分娩1時間前はOxytocin点滴静脈内注射による子宮収縮は自然分娩に近い収縮である.