- 著者
-
栃内 新
- 出版者
- 北海道大学
- 雑誌
- 一般研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1993
一昨年度・昨年度と同様に,材料としてアフリカツメガエル純系(Xenopus laevis, JJ)とその近縁種で細胞マーカーをもち,多数の比較的大きな斑紋を持つ近交系(X. borealis, BB),およびJJとBBの第一代雑種(JB)を用いて模様パターン形成の解析実験を継続した.斑紋は成体型の皮膚が完成する変態後期に出現する.通常どおりの時間で変態した個体には比較的大きめのスポットが少数出現するが,変態が遅れたものでは変態までに要する時間に応じてスポットの大きさが小さくなり数も増加する.逆に変態を早めることにより,時間に応じてスポットの大きさが大きくなるとともに融合したりして数が減少することもわかった.JB個体ではJ系とB系の中間型の斑紋が形成される.斑紋は主に黒色素胞の拡がり具合で認知されるが,斑紋部分で数が少なく分布深度も深い黄色素胞,および斑紋部分にはほとんど存在しない虹色素胞の働きも無視できない.つまり,皮膚の中におけるこれらの細胞の3次元的分布およびその細胞質の拡がり具合が斑紋形成の基盤をなしている.これらの色素細胞の分布・分化運命,そして生理的状態を決めているものが,斑紋パターン形成を支配している要因であるといえる.斑紋形成を支配する要因の分布状態(プレパターン)は幼生atage56あたりで形成されたものが変態期に可視化されることがわかった.斑紋のプレパターンが出来上がる時期に筋肉層の表面に分布していた黒色素胞が真皮および表皮に移動して侵入する.プレパターンを支配すると考えられる筋肉層などからの働きかけの実体を探るための移植実験は継続中である.フラクタル解析を用いたコンピューターシミュレーションでは,斑紋によく似たパターンをつくり出すことに成功したが,磁性体形成の際のイジング・モデルの方がより適切であるという可能性が出てきたため,検討中である.