著者
栗原 新 小柳 喬 芦田 久 松本 光晴
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

「もう一つの臓器」と呼ばれる腸内常在菌叢を適切に制御し「病気の発信源」である大腸内の環境を最適化することは、健康寿命の延伸に大きく貢献する。本研究課題では腸内常在菌叢の主要な代謝産物であり、健康寿命の延伸に著効を示すことが近年明らかとなったポリアミンに注目し、ヒト腸内に優勢に存在する腸内細菌(ヒト腸内常在菌叢最優勢種)および伝統的発酵食品に由来する乳酸菌のポリアミン合成・輸送機構を遺伝子・タンパクレベルで解明する。次に同定した遺伝子の発現誘導によりポリアミンを高生産する技術を開発し、個別培養・混合培養・マウスモデルを用いて検証するとともに、宿主の健康増進効果を解析する。
著者
石橋 璃子 古澤 之裕 本田 裕恵 渡邉 康春 藤坂 志帆 戸邉 一之 高津 聖志 栗原 新 田渕 圭章 長井 良憲
雑誌
日本薬学会第142年会(名古屋)
巻号頁・発行日
2022-02-01

ヒトの腸内には約40 兆個もの細菌が存在しており、腸内細菌の異常が代謝内分泌疾患の発症と関連することが明らかになっている。近年、抗炎症作用や代謝調節改善作用を示すポリフェノールが、腸内細菌叢に影響することでメタボリックシンドロームを改善することが示されており、天然物由来成分の作用メカニズムの1つとして腸内細菌叢の変動が注目を集めている。我々は、甘草由来ポリフェノールであるイソリクイリチゲニン (Isoliquiritigenin: ILG)が、抗炎症・抗メタボリックシンドローム作用を示すことを明らかにしたが、ILGの作用メカニズムについては不明な点が多い。本研究では、ILGが腸内細菌叢の変化を介して抗メタボリックシンドローム効果を示すか検証した。 野生型C57BL/6マウスに高脂肪食(HFD)を摂餌させて誘導される肥満や糖尿病が、0.5% ILGの混餌(HFD+ILG)により改善した。内臓脂肪組織における炎症マーカーについては、ILGによりCD11cやTNFaの発現が減少し、大腸組織において腸管バリア機能関連遺伝子であるTjp1の発現増加が認められた。さらに、ILGにより腸管のムチン産生の増加も確認できたことから、ILGには腸管バリア機能改善効果があると考えられた。16s rRNAシークエンスによる腸内細菌叢解析では、ILGにより腸管バリア機能向上や抗肥満・高糖尿病効果を示すParabacteroides goldsteiniiとAkkermansia muciniphilaの増加が確認された。 ILGによる抗肥満・抗糖尿病効果が腸内細菌叢の変化によるものか調べるため、HFD群およびHFD+ILG群糞便を用いた腸内細菌叢移植 (Fecal Microbita Transplantation: FMT)を行った。ILG群からFMTを受けたC57BL/6マウスは、HFD群からのFMTを受けたマウスと比較して、体重増加の軽減や、移植8週後の内臓脂肪重量と内臓脂肪組織における炎症マーカーの発現の低下や抗糖尿病効果がみられた。以上のことから、ILGが抗メタボリックシンドローム効果を示す機序として、腸内細菌叢が寄与していると考えられた。