著者
栗原 新 小柳 喬 芦田 久 松本 光晴
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

「もう一つの臓器」と呼ばれる腸内常在菌叢を適切に制御し「病気の発信源」である大腸内の環境を最適化することは、健康寿命の延伸に大きく貢献する。本研究課題では腸内常在菌叢の主要な代謝産物であり、健康寿命の延伸に著効を示すことが近年明らかとなったポリアミンに注目し、ヒト腸内に優勢に存在する腸内細菌(ヒト腸内常在菌叢最優勢種)および伝統的発酵食品に由来する乳酸菌のポリアミン合成・輸送機構を遺伝子・タンパクレベルで解明する。次に同定した遺伝子の発現誘導によりポリアミンを高生産する技術を開発し、個別培養・混合培養・マウスモデルを用いて検証するとともに、宿主の健康増進効果を解析する。
著者
芦田 久
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.901-908, 2016-11-20 (Released:2017-11-20)
参考文献数
50
被引用文献数
2

消化管上皮細胞から分泌されるムチンは,消化管における微生物の感染防御,あるいは共生に重要な働きをもつことが知られている.ムチンは,コアタンパク質にO結合型糖鎖が高密度に付加した高分子の粘性糖タンパク質である.難分解性であり,基本的には消化管上皮を保護する機能をもつ生体防御物質であるが,腸内の共生細菌に栄養分と棲息環境を提供する共生因子でもある.ムチンのヘテロ糖鎖を利用するためのビフィズス菌のユニークな代謝経路の解明を中心に,ヘテロ糖鎖がかかわる消化管内の微生物と宿主の相互作用について,最近の研究の進展を基に解説する.
著者
山本 憲二 芦田 久
出版者
石川県立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

ニワトリ卵黄より抽出した糖ペプチドまたは糖ペプチドに糸状菌エンドグリコシダーゼ(エンド-M)を作用して遊離した糖鎖を縮合反応または還元アミノ化反応によりアルギン酸やキトサンに多価に重合した糖鎖結合ポリマーを合成し、糖鎖の非還元末端に存在するシアル酸残基にインフルエンザウイルスを結合させて捕捉する新しい概念の感染阻害剤として応用した。阻害剤について動物細胞を用いたインフルエンザウイルス感染阻害能を調べた結果、高い感染阻害活性を示すことを確認した。
著者
芦田 久 加藤 紀彦 川原 彰人 田中 祐樹 梅川 碧里 山本 憲二
出版者
日本応用糖質科学会
雑誌
Journal of Applied Glycoscience (ISSN:13447882)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.137-143, 2009 (Released:2009-10-15)
参考文献数
48
被引用文献数
1 1

エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(ENGase)は,糖タンパク質のアスパラギン残基に結合したN-グリカンのコア部分に存在するN,N´-ジアセチルキトビオース構造に作用し,糖鎖を遊離させるエンドグリコシダーゼである.われわれは土壌より単離した糸状菌Mucor hiemalisより高い糖鎖転移活性を有するENGaseであるEndo-Mを見出し,種々の糖鎖化合物の酵素合成に応用してきた.Endo-M遺伝子のホモログが線虫Caenorhabditis elegansのゲノム中に見出されたため,われわれは真核多細胞生物における本酵素の機能を明らかにする目的で線虫eng-1遺伝子の解析に着手した.リコンビナントENG-1を大腸菌で発現させ諸性質を調べたところ,高マンノース型糖鎖によく作用し,Endo-Mと同様に糖鎖転移活性を有することが明らかになった.またENG-1はN末端にシグナル配列を持たず,細胞質に局在することが示唆された.主に哺乳動物細胞を用いた他グループの研究から,細胞質にはN-グリカン由来の遊離糖鎖(free oligosaccharide; FOS)が存在し,ENGaseはFOSの代謝に関わっていることがFOSの構造解析結果から推測されてきた.そこでこれを直接的に証明するために,野生株とeng-1変異株の線虫のFOSをピリジルアミノ化してHPLC等で分析した.予想どおり,野生株では還元末端にGlcNAcを1残基有するFOS-GN1が主成分であったが,eng-1変異株ではFOS-GN2が蓄積していた.FOSは主にミスフォールドした糖タンパク質が小胞体関連分解される過程で生成すると考えられている.ミスフォールド糖タンパク質は小胞体内腔から細胞質へ逆輸送され,そこでペプチド:N-グリカナーゼ(PNGase)により糖鎖が切り出される.線虫のPNGase(PNG-1)は哺乳動物や出芽酵母由来の酵素とは異なり,PNGase活性を担うトランスグルタミナーゼドメイン以外にチオレドキシンドメインを有していた.大腸菌で発現させたリコンビナントPNG-1はPNGase活性以外にタンパク質ジスルフィドレダクターゼ活性を示したことから,線虫PNG-1はユニークな多機能酵素であることが明らかになった.野生型線虫のFOSを詳細に調べたところ,主要な分子種はMan5GlcNAc1であったが,哺乳動物細胞で報告されているM5B´異性体とは異なり,M5A´異性体であった.哺乳動物においては細胞質α-マンノシダーゼがM5B´を生成すると考えられているが,線虫には細胞質α-マンノシダーゼのホモログは見出されなかった.線虫特異的なM5A´の生成に関わるマンノシダーゼを特定するためにRNAi法を用いて種々のマンノシダーゼをノックダウンした線虫のFOSを解析した結果,ゴルジ内腔のα-マンノシダーゼIや,小胞体内腔のα-マンノシダーゼ様タンパク質EDEMが,線虫特異的M5A´の生成に関与していることが示唆された.