著者
古澤 之裕
出版者
富山県立大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

無細胞系のHDAC阻害試験から、酪酸によるヒストン修飾の亢進は、おもに Class I HDACを介したものであり、Class II HDAC阻害に対する寄与はほぼないものと推測された。酪酸は時系列的にTregマーカーであるFoxp3を優先的に誘導する事がわかり、主にClass I HDACの中でも、HDAC1およびHDAC3に対する阻害を介して、Foxp3を誘導している可能性が高いと考えられた。
著者
古澤 之裕 工藤 信樹 近藤 隆
出版者
公益社団法人 日本超音波医学会
雑誌
超音波医学 (ISSN:13461176)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.3-13, 2019 (Released:2020-01-15)
参考文献数
34

超音波の生物作用は熱的作用と非熱的作用に分類され,超音波によるDNA損傷は主として非熱的作用によるものと考えられている.胎児診断の安全性の観点から多くのin vitro研究がなされてきた.DNAに生じる変化の検出技術の進歩とも相まって,水溶液内のDNAへの影響および細胞内DNAへの影響とその作用機序が急速に解明されつつある.一方でDNA損傷はその生成のみならず,修復を経た後に残存する損傷が重要であることが判明してきた.本稿では,歴史的背景を踏まえて,超音波照射により水溶液中のDNAに生じる損傷とその生成機序,細胞内に存在するDNAに生じる損傷の生成機序,および細胞応答ついて概説する.また,これらの基礎的な知見から超音波の生体影響研究における課題についても述べるとともに,超音波診断の安全性との関連についても考察する.
著者
石橋 璃子 古澤 之裕 本田 裕恵 渡邉 康春 藤坂 志帆 戸邉 一之 高津 聖志 栗原 新 田渕 圭章 長井 良憲
雑誌
日本薬学会第142年会(名古屋)
巻号頁・発行日
2022-02-01

ヒトの腸内には約40 兆個もの細菌が存在しており、腸内細菌の異常が代謝内分泌疾患の発症と関連することが明らかになっている。近年、抗炎症作用や代謝調節改善作用を示すポリフェノールが、腸内細菌叢に影響することでメタボリックシンドロームを改善することが示されており、天然物由来成分の作用メカニズムの1つとして腸内細菌叢の変動が注目を集めている。我々は、甘草由来ポリフェノールであるイソリクイリチゲニン (Isoliquiritigenin: ILG)が、抗炎症・抗メタボリックシンドローム作用を示すことを明らかにしたが、ILGの作用メカニズムについては不明な点が多い。本研究では、ILGが腸内細菌叢の変化を介して抗メタボリックシンドローム効果を示すか検証した。 野生型C57BL/6マウスに高脂肪食(HFD)を摂餌させて誘導される肥満や糖尿病が、0.5% ILGの混餌(HFD+ILG)により改善した。内臓脂肪組織における炎症マーカーについては、ILGによりCD11cやTNFaの発現が減少し、大腸組織において腸管バリア機能関連遺伝子であるTjp1の発現増加が認められた。さらに、ILGにより腸管のムチン産生の増加も確認できたことから、ILGには腸管バリア機能改善効果があると考えられた。16s rRNAシークエンスによる腸内細菌叢解析では、ILGにより腸管バリア機能向上や抗肥満・高糖尿病効果を示すParabacteroides goldsteiniiとAkkermansia muciniphilaの増加が確認された。 ILGによる抗肥満・抗糖尿病効果が腸内細菌叢の変化によるものか調べるため、HFD群およびHFD+ILG群糞便を用いた腸内細菌叢移植 (Fecal Microbita Transplantation: FMT)を行った。ILG群からFMTを受けたC57BL/6マウスは、HFD群からのFMTを受けたマウスと比較して、体重増加の軽減や、移植8週後の内臓脂肪重量と内臓脂肪組織における炎症マーカーの発現の低下や抗糖尿病効果がみられた。以上のことから、ILGが抗メタボリックシンドローム効果を示す機序として、腸内細菌叢が寄与していると考えられた。
著者
古澤 之裕 藤原 美定 趙 慶利 田渕 圭章 高橋 昭久 大西 武雄 近藤 隆
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第53回大会
巻号頁・発行日
pp.118, 2010 (Released:2010-12-01)

目的:超音波は現代医療において診断のみでなく,がん治療にも用いられている.一定強度以上の超音波を細胞に照射することで,キャビテーションによる細胞死を引き起こすことが観察されてきた. 細胞死誘発の作用機所の一つとしてDNA損傷が考えられており,これまでチミン塩基損傷やDNAの一本鎖切断の生成が認められ,超音波照射後に発生するフリーラジカル,残存する過酸化水素の関与が報告されている.放射線や抗がん剤は,DNAを標的として細胞死を引き起こすことが知られており,損傷の種類,損傷誘発・修復機構等多数の報告がなされているが,超音波に関する知見は非常に限定的で依然不明な点が多い.本研究では,超音波により誘発されるDNA損傷と修復について検討を行った. 方法:ヒトリンパ腫細胞株に、周波数1 MHz、PRF 100 Hz、DF 10%の条件で超音波照射した。陽性対照としてX線照射した細胞を用いた.DNA損傷を中性コメット法,gammaH2AX特異的抗体を用いて検討した.また修復タンパクの核局在を免疫染色法にて検討した.ヒドロキシラジカルの産生をスピン捕捉法にて、細胞内活性酸素をフローサイトメトリーにて検討した。DNA損傷応答経路の阻害剤としてKu55933、Nu7026を適宜用いた. 結果:超音波が放射線と同様、照射強度・時間依存的にgammaH2AXを誘導し,コメットアッセイにおいてもDNA損傷が検出された。修復タンパクの核局在が同時に観察され,照射後時間経過による損傷の修復が確認された.キャビテーションを抑制すると超音波によるgammaH2AXは観察されず、細胞死も有意に抑制された。一方で細胞内外のROSの産生を抑制しても,gammaH2AXの有意な抑制は観察されなかった。超音波によるgammaH2AXはKu55933単独処理のみならず,Nu7026の単独処理によっても抑制された. 結論:超音波がキャビテーション作用によりDNA二本鎖切断を引き起こすことが明らかとなった.また,超音波によってもDNA損傷の修復シグナルの活性化が起こり,DNA-PKが重要な役割を担っていることが予想される.
著者
古澤 之裕
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.15-22, 2017 (Released:2017-01-31)
参考文献数
34

腸内細菌は宿主の免疫系の成熟を促進する一方で,腸内細菌に対する過剰な免疫応答は消化管における慢性炎症の発症の原因となる.こうした病理的な炎症を防ぐため,腸管には免疫抑制能をもつ制御性T細胞(以下,Treg細胞と略)が多く存在している.クロストリジウム目細菌をはじめとして,ある種の腸内細菌には炎症やアレルギーを抑えるTreg細胞を誘導する能力があることが報告されていたが,その分子機構については不明であった.腸内細菌は食物繊維を分解し,多種多様な代謝物を産生していることから,代謝産物の中にTreg細胞誘導に寄与するものがあるのではないかと推測した.そこで,メタボローム法により網羅的な代謝産物の解析とスクリーニングを実施したところ,Treg細胞誘導作用を有する代謝産物として酪酸を同定した.さらに,酪酸は,T細胞のDNAのうち,Foxp3遺伝子の発現調節領域におけるヒストンアセチル化を促進し,Treg細胞への分化を促すことを明らかにした.このようなヒストンやDNAの化学修飾を介した遺伝子発現調節機構はエピゲノム修飾と呼ばれている.腸内細菌によって産生される酪酸は,ヘルパーT細胞のエピゲノム修飾状態を変化させることでTreg細胞を分化誘導することが明らかとなった.酪酸をマウスに与えると,大腸におけるTreg細胞の数が顕著に増加し,実験的大腸炎を抑制したことから,酪酸は腸管の免疫恒常性維持に寄与することが明らかとなった.さらに,宿主側において,腸内細菌定着に応答してTreg細胞の誘導と増殖を制御する因子の探索を試みた.まず初めに,Treg細胞の増殖誘導に必要な分子を同定するため,無菌マウスと腸内細菌を定着させたマウスの大腸Treg細胞の遺伝子発現パターンを網羅的に解析した.その結果,腸内細菌の定着により大腸Treg細胞特異的に発現上昇する遺伝子としてDNAメチル化アダプターであるUhrf1を同定した.T細胞特異的にUhrf1を欠損したマウスを作出したところ,大腸Treg細胞の増殖能および免疫抑制機能の顕著な低下が観察され,その結果,全てのマウスがクローン病(炎症性腸疾患の1つ)に類似した慢性炎症を発症することを見出した.Uhrf1は,標的となる遺伝子領域にDNA維持メチル化転移酵素をリクルートすることでDNAメチル化の維持に寄与する.ゲノムワイドなDNAメチル化解析などの結果から,Uhrf1は細胞周期制御因子であるCdkn1aのプロモーター領域のDNAメチル化を促すことで,その発現をエピジェネティックに抑制し,Treg細胞の増殖をサポートしていると考えられる.本研究より,腸内細菌の定着は,宿主ヘルパーT細胞のエピジェネティクス修飾を促し,大腸Treg細胞の分化,増殖および機能成熟をサポートすることで,腸管免疫系の恒常性を維持していると考えられる.