著者
塚本 和正 町田 和彦 稲 恭宏 栗山 孝雄 鈴木 克彦 村山 留美子 西城 千夏
出版者
日本衛生学会
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.827-836, 1994-10-15 (Released:2009-02-17)
参考文献数
28
被引用文献数
6 9

動物の過密飼育(crowding)は,心理社会的なストレッサーとされているが,従来の方法は飼育面積を一定にし,個体数のみを変化させているため,個体数の増加と1匹あたりの占有スペースの狭少化という2つの要因が複合されたものであるといえる。そこで本研究ではケージ内の個体数とケージのサイズの両方を変化させるという方法をとり,免疫能に及ぼす影響を追求した。またケージ内の動物の構成メンバーの変化が及ぼす影響についても検討を加えた。実験1ではマウスをまずケージあたり4匹ずつに分けて14日間馴化飼育し,その後ケージあたり4匹(Control群),小スペースあたり4匹(Crowding-I群),ケージあたり16匹(Crowding-II群)の計3群に無作為に分け7日間飼育を行った。結果は以下の通りであった。(1) 体重に群間で有意差は認められなかった。(2) 総白血球数に有意差は認められなかったが,Crowding-II群にリンパ球百分率の有意な低値,そして好中球百分率および絶対数の有意な高値が認められ,ストレッサーの継続負荷による白血球構成比の変動が示唆された。(3) 好中球NBT還元能ではCrowding-II群に低値を示す傾向が観察され,細菌貪食能ではCrowding-II群に有意な低値が認められた。一方Crowding-I群では,NBT還元能,貪食能ともにCrowding-II群ほどの低下は認められなかったが,いずれもControl群とCrowding-II群の中間の値を示す傾向がみられた。これらの結果から,個体数の増加によるマウス相互間の心理社会的要因の複雑化がストレッサーとして重要な意味をもつことが示唆された。実験2ではマウスをまずケージあたり5匹ずつに分けて14日間馴化飼育し,その後ケージあたり5匹(Control群),小スペースあたり5匹(Crowding-(1)群),ケージあたり20匹(Crowding-(2)群)の3群に分けたが,Control群とCrowding-(1)群はケージ内のマウスの数と構成メンバーは馴化飼育と同一にし,ケージへの移動のみを行った。群分け後2日目に抗原としてSRBCを腹腔投与し,7日間飼育を行った。結果は以下の通りであった。(1) 体重にはいずれの時期も有意差は認められなかった。(2) 特異免疫反応として測定したPFCおよび抗SRBC抗体価は,群間に有意差は認められなかった。なおマウスの産生した抗体はIgMであると考えられた。(3) 血漿中のIgM濃度に有意差は認められなかったが,Crowding-(1)群が高値を示した。またIgG濃度では,Crowding-(1)群に有意な高値が認められた。(4) 好中球NBT還元能は,エンドトキシン刺激時では有意差は認められなかったがCrowding-(2)群が低値を示し,細菌刺激時ではCrowding-(2)群に有意な低値が認められた。また好中球の細菌貪食能においてもCrowding-(2)群に有意な低値が認められた。一方Crowding-(1)群はControl群に比べて,有意差は認められなかったがいずれも高値を示した。このように,マウスの構成メンバーを変えず飼育面積の狭少化のみを施して過密にした場合は,同様にマウスの構成メンバーを変えなかった対照群に比べ,免疫能が亢進する傾向が観察された。一方ケージ内の個体数を増やして過密にした場合は,条件設定は実験1とは異なるが,好中球機能の顕著な低下が認められた。本研究は7日間という短期間のストレス負荷の結果であり,今後より綿密な実験デザインを設定し長期間の検討を行いたいと考えている。