- 著者
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栗山 武夫
- 出版者
- 一般社団法人 日本生態学会
- 雑誌
- 日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
- 巻号頁・発行日
- vol.62, no.3, pp.329-338, 2012-11-30 (Released:2017-04-28)
- 参考文献数
- 66
- 被引用文献数
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伊豆諸島はフィリピン海プレート上に形成された南北に連なる海洋島である。本土から数100kmほどしか離れていないため、種の供給地となったであろう日本本土の生物相との比較も行いやすい。本研究で紹介するのは、伊豆諸島と伊豆半島に生息する被食者(オカダトカゲPlestiodon latiscutatus)の形質が地域によって異なること、その淘汰圧として異なる捕食者相(イタチ:哺乳類、シマヘビ:ヘビ類、アカコッコ:鳥類)にさらされていること、さらにその被食者-捕食者系がどのような進化史をたどってきたのかを分子系統地理学により解明する試みの3 点である。今回は特に、捕食者の注意を引き付け、胴体や頭部への攻撃をそらす機能をもつ尾の色に注目する。オカダトカゲは、異なる色覚をもつ捕食者(イタチ、シマヘビ、鳥類)に対応した尾の色を進化させていることが、至近要因(色素細胞の構造)の解明と究極要因(捕食者の色覚との関係、捕食-被食関係の成立)の考察により示唆された。至近要因の解明により、体色は皮膚にある3種類の色素細胞(黄色素胞・虹色素胞・黒色素胞)の組合せで作られ、尾部の茶色・緑色・青色の割合は反射小板の厚さの異なる虹色素胞と黄色素胞の出現位置が体軸にそって前後に移動することで尾の色の地理的な変異を引き起こしていることが示唆された。また究極要因として考えられる捕食者の色覚と尾の色を比較すると、同所的に生息する捕食者の色覚の違いによってヘビ・イタチには目立つ青色を、色覚が最も発達した鳥類には目立たない茶色に適応してきた結果であることが考えられた。また、各島でのオカダトカゲと捕食者の侵入年代のずれによって、トカゲの尾部の色彩は侵入してきた捕食者に応じて複数回にわたり変化した可能性が高いことが予想された。