- 著者
-
栗田 英幸
- 出版者
- 愛媛大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2006
特に1970年代以降、途上国において、天然資源の豊かさと社会的繁栄との間に負の相関関係が顕著に見られるようになってきている。この現象は、「資源の呪い」と呼ばれ、さまざまな社会科学の分野において、メカニズムと処方箋の積極的な解明努力が行われてきた。その結果、「資源の呪い」研究は、不安定な資源収入に大きく規定されたマクロ経済管理の失敗へと収斂してきている。「資源の呪い」現象が、マクロ経済管理の困難さ故に民主制度の軽視と汚職を生じさせ、結果として「呪い」現象を生じさせているというのである。しかし、資源諸国において民主制度を変質させ、汚職を一般化している要因は、マクロ管理の失敗のみではない。ミクロから見るならば、資源開発という膨大な被影響住民の意思の無視を伴わざるを得ない特徴が、民主制度の進展を妨げ、変質させる、もうひとつの大きな要因なのである。本研究は、フィリピンの鉱山、ダム、石炭火力発電所、灌漑に関する開発プロジェクトの事例を整理し、大規模資源開発が合意形成の困難さ故に民主制度を変質させていることを、論理的およびケーススタディーの積み上げから説明した上で、NGOの近年のグローカルに張り巡らされたネットワークを通した活動から得られるようになってきた民主制度変質修正に関する成果を通して、「資源の呪い」克服の処方箋として、地域住民を起点とし、NGOのネットワークを媒介として多国籍企業本国や消費国の市民とつながり、民主主義や環境、人権を正当化の根拠として機能するグローカルネットワークが必要であることを明らかにした。