著者
野上 由起子 松田 知子 長尾 多美子 島 治伸 山岡 徹 合田 学剛 桑原 知巳
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.106-114, 2019-03-25 (Released:2019-09-25)
参考文献数
15

近年,亜塩素酸水が食品添加物殺菌料として認可され,環境除菌剤としても市販されている.本製剤は塩素系薬剤であるが,刺激性が少なく,有機物存在下でも比較的安定とされている.本研究では亜塩素酸水製剤の病院環境整備剤としての安全性と有効性を検証した.スタッフへの安全面や利便性はアンケート調査により評価した.亜塩素酸水製剤導入前に使用していた薬剤(第四級アンモニウム塩製剤)との比較では,スタッフの手荒れ・湿疹を感じるスタッフの割合は有意に減少した.眼への刺激については,導入後に薬液作製時のゴーグル着用を指導したため,刺激を感じるスタッフの割合は導入前後で変化を認めなかった.薬剤調整時間は30分以内との回答が多く,ゴーグルの着用以外に関しては作業負担に変化は認められなかった.導入後2年間のノロウイルス感染性胃腸炎とClostridioides difficile関連下痢症の院内発生数は減少しており,特に前者については導入後2年間院内発生を認めなかった.これら院内発生数の減少に伴い個人防護具の購入経費は減少したが,亜塩素酸水製剤が高額であるため導入2年後の感染対策経費は年間約22万円のコスト増となった.本製剤の導入に当たっては,効率的な使用計画が医療経済の面で必要である.亜塩素酸水製剤は塩素系薬剤であるが,日常的な病院環境整備剤として有用であると考えられた.
著者
長尾 多美子 桑原 知巳
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.172-178, 2021-05-25 (Released:2021-11-25)
参考文献数
7

2018年2月に障害者支援施設で発生した感染性胃腸炎のアウトブレイク事例について報告する.当該施設は感染管理専門家が不在のため,発生要因の調査依頼を受け分析を行った.集団感染を検知したのは2月6日で,入所者4名と職員1名の合計5名が発症した.その後,2月14日に収束するまでの8日間で入所者20名(全利用者40名)と短期入所者1名,および職員6名(全職員42名)の合計27名が発症した.アウトブレイク期間の後半4日間の発症者の大部分は職員であった(入所者1名,職員4名).入所者の支援記録から2月4日に発熱,軟便,黒色吐物の嘔吐により転院した入所者が確認され,また介助した職員も発症していたことから,本入所者が感染源と考えられた.流行曲線は一峰性であったことから,集団感染検知後の感染対策は機能したと考えられた.本アウトブレイク事例では,①流行期に発熱・消化器症状を呈する入所者への初期対応ができていなかったこと,②発症した利用者の嘔吐や下痢の処理を担当した職員が発症したこと,③利用者の発症が収束した後も職員の発症が継続したことから,感染管理専門家が不在の障害者支援施設等においては「職員に対する継続的な感染対策教育の必要性」が重要であると考えられた.
著者
田中 彩 下野 隆一 今大路 治之 鈴木 基生 桑原 知巳
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.1095-1098, 2016 (Released:2016-10-20)
参考文献数
9
被引用文献数
1

私たちの身体には多数の常在菌が存在し、正常細菌フローラを形成している。このうち腸内フローラは生体機能に深く関与しており、宿主と共生しながら様々な生理作用を示すことが知られている。腸内フローラは疾病の発症にも関連があるとされており、その構成と機能が大きく注目されている。従来は培養法による解析が行われてきたが、近年のシークエンス技術の進歩により腸内フローラの全貌が解明されつつある。腸内フローラの解析は個人の健康指標ともなり得るといわれており、短腸症候群などの腸管不全患者における腸内フローラの構成は健常者と大きく異なると予想される。これらの患者において、腸内フローラを是正し、正常な腸内フローラを形成・維持することは腸管機能を最大限に発揮するために重要であると考える。