著者
西口 幸雄
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.1225-1228, 2016 (Released:2016-12-20)
参考文献数
2

PEGは口から食べられない人にとって、きわめて安全で効率の良いエネルギー投与ルートである。PEGが「無駄な長生き」「国民医療費の無駄使い」のシンボルとして社会的にバッシングを受けてからというもの、PEG造設件数は減少した。いわゆる「PEGバッシング」があってから、どのようなことが起こっているのであろうか。代わって経鼻胃管や PICCの件数が増えている。PEG造設件数の減少は診療報酬の改定による造設手技料の減少によるところも大きい。また、在宅においては経腸栄養管理よりも経静脈栄養管理したほうが診療報酬が高いことも一因である。PEGが必要なひとに PEGができない現状であれば、非常に不幸である。PEGバッシングによって、PEGのエンドユーザーには無用の精神的な苦痛を与えていることは、ゆゆしい問題である。これを打破するには、社会に対する PEGの啓蒙と医師に対する栄養療法の教育が必要である。
著者
海道 利実 濱口 雄平 奧村 晋也 小林 淳志 白井 久也 上本 伸二
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.822-828, 2017 (Released:2017-04-20)
参考文献数
32
被引用文献数
1

サルコペニアとは、筋肉量の低下に筋力の低下または身体機能の低下を伴う病態である。その成因によって、加齢に伴う筋肉量の減少である一次性サルコペニアと、活動性の低下 (廃用性萎縮) や低栄養、臓器不全や侵襲、腫瘍などの疾患に伴う筋肉量の減少である二次性サルコペニアに分類される。サルコペニアは生命予後に影響し、特に消化器外科領域においては、手術患者の高齢化による一次性サルコペニアと低栄養や担がん状態、手術侵襲などによる二次性サルコペニアを伴う患者が増加しており、今後、ますます重要な問題となるであろう。事実、最近、消化器領域を中心に、サルコペニアの意義に関する論文が急増している。そのほとんどが、術前サルコペニアは予後不良因子であるという論文である。したがって、今後、サルコペニアをターゲットとした栄養・リハビリテーション介入が、消化器がん治療成績向上の新たなブレークスルーになると期待されよう。

38 0 0 0 OA 便移植

著者
山田 知輝
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.811-816, 2016 (Released:2016-06-20)
参考文献数
39

再発性のClostridium difficile感染症(CDI)に対して便移植を行い90%近い治癒率が得られたとする RCTが発表され、注目を集めている。CDIは抗菌薬使用により、正常腸内細菌叢が減少し、菌交代現象が起こり増殖したClostridium difficileが毒素を産生し腸炎を発症させる病態であり、便移植は健常者(ドナー)から得た腸内細菌叢を含む糞便を投与することで、健康状態の腸内細菌叢を復元し、これを治癒しようとするものである。現在ではその適応や、ドナーの選定・スクリーニング、便の準備や投与方法につき、定まりつつあるがまだ十分ではなく、かつ安全性の問題もある。アメリカでは「便の銀行」が設立され、事前にスクリーニングされた、若くて健康なドナーの便の貯蓄により、より多くのケースで便移植ができるような体制ができつつある。今後は安全性を高めた製剤も開発中であり、日本も含め、その使用がさらに広がる可能性がある。
著者
森 隆志
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.949-954, 2016 (Released:2016-08-20)
参考文献数
38

摂食嚥下に関与する骨格筋群のサルコペニアによる嚥下障害は、サルコペニアの摂食嚥下障害 (Sarcopenic Dysphagia) と呼ばれる。サルコペニアの摂食嚥下障害の直接的な原因は脳卒中等のこれまで明らかに摂食嚥下障害を引き起こす疾患ではなく、フレイルの高齢者に低栄養、侵襲、廃用といったサルコペニアを亢進させる要素が加わる事で摂食嚥下障害が生じると考えられている。嚥下関連筋群の筋肉量・筋力の低下を観測した報告は複数されているがサルコペニアの摂食嚥下障害の明確な診断基準はこれまでなかった。2013年に全身の筋肉量・筋力・嚥下機能を勘案した診断法が提案され、この考え方を発展させた診断フローチャートが研究中である。サルコペニアの摂食嚥下障害への対策としては適切な栄養サポートと運動療法を用いるリハビリテーション栄養管理が有用である可能性がある。
著者
吉村 芳弘
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.959-966, 2016 (Released:2016-08-20)
参考文献数
58

回復期のリハビリテーションを行う高齢者には、脳卒中、大腿骨近位部骨折、廃用症候群が挙げられ、いずれの疾患においても低栄養とサルコペニアが好発する。さらに、低栄養とサルコペニアはともにリハビリテーションの転帰に悪影響を与える。つまり、回復期リハビリテーションを行うすべての高齢者に対して、リハビリテーション単独の介入ではなく、リハビリテーション栄養管理を行うことが必須であると言える。リハビリテーション栄養のアセスメントのポイントは、「栄養障害を認めるか、原因は何かを評価する」「サルコペニアを認めるか、原因は何かを評価する」「摂食嚥下障害を認めるか評価する」「現在の栄養管理は適切か、今後の栄養状態はどうなりそうか判断する」「機能改善を目標としたリハビリテーションを実施できる栄養状態か評価する」の5つである。回復期のリハビリテーションにおけるリハビリテーション栄養に関する先行研究をレビューし、脳卒中、大腿骨近位部骨折、廃用症候群の疾患別のリハビリテーション栄養について考察しつつ、回復期リハビリテーションにおけるリハビリテーション栄養の現状と今後の展望について概説する。
著者
田中 芳明 石井 信二 浅桐 公男 深堀 優 七種 伸行 橋詰 直樹 吉田 索 小松崎 尚子 升井 大介 東舘 成希 八木 実
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.3-12, 2016 (Released:2016-02-27)
参考文献数
71

酸化ストレスは、炎症や感染などを契機として、抗酸化酵素などの体内抗酸化システムや摂取された抗酸化物質による消去を上回って体内で過剰に生成された活性酸素種による酸化損傷力として認識される。即ち、生体内の活性酸素生成系の亢進や、消去系(抗酸化システム)の低下により引き起こされる。酸化ストレスによって生体膜、生体内分子の酸化傷害に起因した臓器障害が進行し、多くの疾病の発症、増悪の原因となることが注目されている。近年、フリーラジカルの捕捉、安定化に寄与する CoQ10やカテキンなどの抗酸化物質、さらには n-3系多価不飽和脂肪酸などの脂質や亜鉛やセレン、クロム等の微量元素、短鎖脂肪酸である酪酸などが NF-κBの活性化を抑制して、炎症反応を制御することが明らかにされてきた。酸化ストレスと抗酸化療法に関して概略する。
著者
苅部 康子 若林 秀隆
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.1526-1530, 2017 (Released:2017-12-20)
参考文献数
20

【目的】ロイシン高配合必須アミノ酸(LEAA)混合物摂取が、介護老人保健施設入所の要介護高齢者の日常生活活動(ADL)改善に有効か検討する。【方法】65歳以上の要介護高齢者(n=30、84.9±5.6歳、男性n=8、女性n=22)を対象とした。研究デザインは前後比較試験。ロイシン高配合必須アミノ酸(必須アミノ酸3g、ロイシン1.2g、30kcal)を通常の食事に加え12週間摂取した。一次アウトカムをFunctional Independence Measure(以下、FIMと略)利得、二次アウトカムをMini Nutritional Assessment Short-Form(以下、MNA®-SFと略)変化量とした。解析方法は、t検定、Mann-Whitney U検定と12週間の変化量とした。【結果】FIM利得とFIMスコアの前後の変化は、FIM利得(4.2±5.8、P<0.01)、FIM運動項目(3.5±4.8、P<0.01)で、有意差を認めた。MNA®-SFの変化量(2.2±2.6、P<0.01)に有意差を認めた。Vitality Index(P<0.01)および左手の握力(P<0.01)に有意差を認めた。【結論】ロイシン高配合必須アミノ酸(LEAA)混合物は、要介護高齢者のADL改善と栄養改善に影響を与える可能性がある。
著者
西岡 心大 髙山 仁子 渡邉 美鈴 漆原 真姫 桐谷 裕美子 肱岡 澄
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.1145-1151, 2015 (Released:2015-10-20)
参考文献数
26
被引用文献数
3

【目的】回復期リハビリテーション病棟における栄養障害の実態、および脳卒中患者における栄養障害の程度が Activity of Daily Living(ADL)帰結や転帰先に与える影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は2012年2月に調査協力施設の回復期リハビリテーション病棟を退棟した患者230名(脳卒中134名、運動器疾患47名、廃用症候群14名、その他35名)で、身体計測値、血液検査値、転帰先、Functional Independence Measure(FIM)を後ろ向きに調査した。【結果】Geriatric Nutritional Risk Indexにより43.5%が栄養障害と判断された。脳卒中患者における入退棟時 FIMは栄養障害群の方が有意に低く、退棟時 FIMを目的変数とした重回帰分析では栄養障害の程度が入棟時 FIMとは独立した説明変数となった(R2=0.734)。また栄養障害が重度であるほど自宅復帰率は低い結果となった(オッズ比 =0.580)。【考察】回復期リハビリテーション病棟では高率に栄養障害を認め、ADL帰結や在宅復帰に影響する可能性が示唆された。回復期リハビリテーション病棟において ADL向上や在宅復帰を果たすためには栄養状態の迅速な評価が重要である。
著者
白石 愛 吉村 芳弘 鄭 丞媛 辻 友里 嶋津 さゆり 若林 秀隆
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.711-717, 2016 (Released:2016-04-26)
参考文献数
35
被引用文献数
1

【目的】高齢入院患者の口腔機能障害の実態ならびに、口腔機能障害とサルコペニア、低栄養との関連性を明らかにする。【方法】2013年6月より10月までに連続入院した65歳以上の患者108名(男性55名、女性53名、平均年齢80.5±6.8才)を対象とした横断研究。改定口腔アセスメントガイド(ROAG)を用いて口腔機能状態を評価し、サルコペニアや栄養状態との関連性を解析した。【結果】軽度の口腔機能障害を59人(54.6%)、中?重度の口腔機能障害を34人(31.5%)に認めた。ROAGスコアに関連する因子として、年齢、サルコペニアの有無、MNA-SFスコア、経口摂取の有無、FIM運動項目などが抽出された。【結論】多くの高齢入院患者に口腔機能障害を認め、口腔機能障害とサルコペニア、低栄養との関連が示唆された。ROAGは入院時口腔機能スクリーニングとして有用性があると考えられた。
著者
古川 健司 重松 恭祐 岩瀬 芳江 三上 和歌子 星 博子 山本 淳子 大塚 藍 阿部 宏子
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.1154-1161, 2017 (Released:2017-08-25)
参考文献数
19

【目的】がんは糖質の取り込みが多いことに注目し、糖質制限の厳しいケトン食を用いて、化学療法併用による臨床での安全性と効果を調べた。【方法】当院の倫理委員会の承認の元、ステージⅣの大腸がん、乳がん患者に対し、ケトン比1.5~1:1の修正MCTケトン食を3カ月摂取し、代謝、栄養状態、QOL、臨床効果を調べた。【結果】9名を対象に検討を行い、非糖尿病患者では、ケトン食によりケトーシスにはなったが、尿中排泄によりアシドーシスは軽度であった。-5.4%の体重の有意な減少を伴ったが、肝・腎機能は保たれ、抗がん剤併用でもQOLを下げず、奏効率67%、病態コントロール率78%で、がんの縮小は、血中総ケトン体値とQOLスコアに相関関係が示唆された。【結論】修正MCTケトン食は、抗がん剤併用でも、3カ月の短期間ではあるが、進行がん患者にも安全な食事療法であり、がんの縮小も血中ケトン体値とQOLスコアに相関が示唆された。
著者
森 みさ子
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.1246-1253, 2015 (Released:2015-12-20)
参考文献数
26

「病棟における栄養の面倒は誰がみるのか?」 難しいテーマである. 在院日数の短縮、医療費削減などが報告されている NSTの活動であるが、患者の生命を支える重要な栄養療法のうち、ほとんどの行為を実施するのは病棟看護師でありその責務は大きい. 看護師にとって栄養管理は特別なことではなく古来より療養上の世話として重要な要素に位置づけられている. チーム医療の重要性が問われている現在、多くの専門職が能力を発揮することができるように必要な情報を提供し、専門家同士の橋渡しをするために看護師は何ができるのか?患者の栄養状態や QOLを真剣に考えて、リソースとして多くの専門家の知恵や技術を発揮していただくことが重要なのではないだろうか. 本項では、専門家同士の連携を強化して質の高い栄養療法を提供するために、看護の実践家としての病棟看護師の役割について、当院における実践例を紹介する.
著者
望月 弘彦
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.1137-1141, 2017 (Released:2017-08-25)
参考文献数
11
被引用文献数
2

身体計測は簡便で非侵襲的かつ経済的であるため、在宅における栄養評価に適している。身長と体重の測定が基本となるが、立位が取れない場合には工夫が必要となり、他の指標を用いた推定式が用いられることがある。脂肪量の推定にはTSFやSSF、脂肪量+筋肉量の推定にはAC、筋肉量の推定にはAMCやAMA、CCが用いられる。CCはBMIとの相関が認められており、BMIが不明な場合は代わりにCCを用いている栄養スクリーニングツールもある。握力は筋組織を機能的に評価しており、最近ではサルコペニアの診断基準の一つとして注目されている。
著者
倉 敏郎
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.1234-1238, 2016 (Released:2016-12-20)
参考文献数
17

胃瘻は生理的で合併症も少なく QOLを維持する、AHNの中でもベストな投与経路である。しかし、マスコミなどによる PEGバッシングの影響で、患者・家族のみならず医療者も「PEGアレルギー」を持つようになり胃瘻のメリットが享受されない誤った選択がされている。適応を議論すべき高齢者の認知症終末期と、良い適応である各種疾患をしっかりと区別した上で倫理問題を考える必要がある。「PEGアレルギー」を払拭し胃瘻を使いこなせる社会づくりは簡単ではないが、PEG・在宅医療研究会や PEGドクターズネットワークが中心となり、あらゆる啓発活動を通じてなされるものと思われる。
著者
橋田 直 若林 秀隆
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.97-101, 2019 (Released:2019-07-20)
参考文献数
25

近年の高齢社会の中で、がん患者においても高齢者の割合が増えてきている。そのため栄養障害やサルコペニアを呈する患者も多く、がんリハビリテーションと栄養療法はより重要なものとなってきている。がんリハビリテーションは機能回復を目指すだけでなく、予防的、回復的、維持的、緩和的の4つの段階に分けられる。周術期や根治を目指した化学療法・放射線療法から進行がん、末期がん患者や、嚥下障害を呈するがん患者においてもリハビリテーション介入やまた栄養療法も同時に必要な場合がある。がん治療と機能回復だけでなく、ADL、quality of life(以下、QOLと略)の向上を目指した介入が望まれる。
著者
藤原 大
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.939-943, 2016 (Released:2016-08-20)
参考文献数
20

リハビリテーション栄養とは、栄養状態も含めて国際生活機能分類 (ICF) で評価を行ったうえで、障害者や高齢者の機能、活動、参加を最大限発揮できるような栄養管理を行うことである。これまでも臨床的な重要性は感じられながら、実質的な取り組みは広まっていなかった。リハビリテーションの対象者には低栄養が多く、低栄養ほど ADLや QOLの回復が得られにくいことが徐々に明らかになり、リハビリテーション栄養管理による効果の向上が期待される。しかしリハビリテーション介入と栄養サポートの併用効果についてはまだエビデンスが不足しており、今後の課題である。リハビリテーション栄養の取り組みは、地域包括ケア時代を迎えた日本の医療・介護をつなぐ key wordになりえる。リハビリテーション栄養チームマネジメントのできる人材育成が重要である。そして世界一の超高齢社会を迎える日本における多くのリハビリテーション栄養管理の実践と研究が、世界へ発信され応用されるべきものになる。
著者
松尾 晴代 吉村 芳弘 石崎 直樹 上野 剛
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.1141-1146, 2016 (Released:2016-10-20)
参考文献数
28

【目的】急性期病院高齢患者における摂食嚥下障害スクリーニング質問紙票 EAT-10 (以下 EAT-10) で評価した嚥下障害の実態ならびに、嚥下障害と低栄養との関連性を明らかにする。【対象及び方法】2015年3月から7月の間に急性期病院に入院した高齢者103人 (平均年齢80±8歳、男性45人) を対象とした横断研究である。EAT-10を用いて嚥下障害を評価し、栄養状態との関連性について相関の解析および多変量解析を行った。【結果】対象者の26.2%が EAT-10で3点以上の評価となり、嚥下障害が示唆された。MNA®-SFでの評価では低栄養を13人 (12.6%) に認めた。多変量解析では EAT-10で評価した嚥下障害は栄養状態の独立した関連因子であった (Beta -0.393. p<0.001) 。【結論】急性期病院入院高齢者の約四分の一に嚥下障害を認め、嚥下障害は栄養障害と関連していた。EAT-10が3点以上の高齢者は嚥下評価と同時に栄養評価を行うべきである。
著者
井出 浩希 工藤 浩 杉森 一仁 松原 美由紀
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.1267-1271, 2015 (Released:2015-12-20)
参考文献数
15
被引用文献数
1

【目的】大腿骨近位部骨折術後患者において、入院期間中の摂食嚥下機能の低下に影響を及ぼす因子を検討することを目的とした。【対象及び方法】当院にて大腿骨近位部骨折に対し手術を施行した26例を対象とした。摂食嚥下機能は入院期間中の食形態を指標とし、食形態が変化しなかった群 (A群) と、食形態の調整または水分にトロミが必要となった群 (B群) について検討した。【結果】A群に比べ B群は入院時 CRP値 (p=0.04) 、施設からの入院割合 (p=0.03) が有意に高かった。入院時血清アルブミン (Alb) 値、入院時 Body Mass Index (BMI) には統計学的有意差を認めなかったが (いずれも p=0.08) 、B群で低い傾向がみられた。【結論】施設からの入院例、炎症を認める症例、入院時 Alb、BMIが低値で低栄養が疑われる症例は、入院期間中に摂食嚥下機能が低下しやすく注意が必要であると考える。
著者
片山 寛次
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.917-922, 2015 (Released:2015-08-20)
参考文献数
29

がんの終末期の体重減少をもたらす複合的な代謝異常症候群,悪液質では,あらゆる栄養療法に抵抗性であり,その病態の解明といろいろな治療法が模索されている.原因としては,腫瘍が分泌する各種物質が,食欲低下と代謝異常・亢進を引き起こしている事が判った.そのステージ分類がコンセンサスを得て,栄養はそのステージに応じて行い,経腸栄養が効果的である.積極的な観血的治療や CART等はステージを改善することもある.また,n-3系脂肪酸,ステロイド,カルニチン,グレリン等,悪液質の病態生理に特異的な治療療法が多く開発されつつあるが,現時点ではいずれも限定的なエビデンスにとどまり,ガイドラインで推奨されるには至っていない.
著者
大村 健二
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.907-910, 2015 (Released:2015-08-20)
参考文献数
36

がん組織が曝される低酸素状態では、それに適応するように様々なタンパクの誘導、遺伝子の活性化が起こる。HIF-1は、その中心的役割を果たす。HIF-1は解糖系の酵素群を誘導し、グルコース由来のアセチル CoAの TCAサイクルへの流入を抑制する。さらに、ピルビン酸からの乳酸の生成を促進する。そのため、ミトコンドリアから細胞質へ流出するクエン酸は、グルタミンなどのアミノ酸由来のαケトグルタル酸から作られたものが主となる。なお、この代謝部分の TCAサイクルは、正常細胞と逆に回転することになる。HIF-1は種々のがん遺伝子を活性化し、同時にがん抑制遺伝子を抑制する。また、VEGFの転写の活性化、血管新生に関与する種々のサイトカインや成長因子をコードする遺伝子を活性化する。このようにがんの進展、増殖、転移に深く関与するHIF-1は、がん治療のあらたな targetとして期待されている。
著者
和田 知子 小蔵 要司 木元 一仁
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.1186-1190, 2018 (Released:2018-12-20)
参考文献数
22

恵寿総合病院回復期リハビリテーション(以下、リハと略)病棟では、2014年7月からリハ栄養チームを立ち上げ栄養サポートを行っている。リハ栄養チームの目的は、患者の不要な体重減少を予防し、骨格筋量を維持(もしくは増加)してリハの効果を高めるための身体作りをすることである。毎週の体重測定で栄養スクリーニングを行い、多職種でリハ栄養カンファレンスを行っている。カンファレンスではサルコペニアの有無、介入時の栄養状態、リハの時間や強度を評価した上でケアプランを作成し、栄養管理やリハプログラムに反映させている。「栄養から見たリハ」と「リハから見た栄養管理」の実践がリハ栄養チームの特徴である。2014年12月から2016年3月にリハ栄養チームが介入した17名を対象に介入後の効果を検証した。リハ栄養チーム介入前後の比較では、摂取エネルギー量が有意に増加(250kcal/日)し、低栄養の割合が76.4%から47.1%に減少した(P=0.058)。回復期リハ病棟におけるリハ栄養チームの活動は、摂取エネルギー量増加に寄与する可能性がある。栄養状態と日常生活動作の改善については今後更なる検証が必要である。