著者
高橋 孝喜 桑田 昇治 徳永 勝士
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

1991年秋に行われた国際組織適合性ワークショップのデータに関して、特に地域差、民族差の観点から解析した。また1992年9月には、シベリアバイカル湖畔のブリアート族におけるHLA調査も行った。これらの結果に加え、昨年までの成果を考え合わせると、東アジアにおいていくつかの特徴的なHLAハプロタイプが異なる分布パターンをとっていることが示された。このような複数のパターンが見られることの解釈として、東アジアにおける民族移動が単純なものでなく、いくつかの異なる先祖集団が異なる時代に異なったルートを経て移住拡散してきた可能性が高いと考えられる。特に日本人の起源と形成過程に関しては、モンゴル周辺や朝鮮半島付近に源を発する民族の影響が主体を成し一部には中国南方の集団からの影響もあったものと推定された。1)B52-DR2を高頻度にもつ集団が中国北方より朝鮮半島を経て北九州や近畿地方に移住してきた。2)B44-DR13で特徴付けられる集団が、朝鮮半島付近より北陸地方などの日本海沿岸に到った。3)B54-DR4を持つ集団は、中国南部に発して、南西諸島や九州四国、本州の太平洋岸に達した。4)B46-DR8をもつ集団はその遠祖が中国南部にあり、朝鮮半島経由かあるいは直接に北九州に到達した可能性が考えられる。今後もより広範かつ詳細な調査を進めて、以上の仮説を検証する必要がある。