著者
棚橋 薫彦
出版者
国立研究開発法人産業技術総合研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

1 クワガタムシ科における微生物共生関係の解明クワガタムシ科の共生酵母は,雌成虫の菌嚢を介して次世代に伝達され,幼虫が食べる木質バイオマスの消化に密接に関連していると考えられる.本研究では、日本産クワガタムシ科の約40種のうち一部の離島固有種を除いた計32種について,成虫の菌嚢または幼虫消化管に存在する共生酵母を解析・同定した.クワガタムシ科の共生酵母の大半はScheffersonyces属のキシロース醗酵性酵母であったが、特殊な生態を持ついくつかの希少種クワガタムシからは、これまでに知られていない全く新規の酵母群が発見された。また,酵母以外の微生物との共生についても新規の知見が得られた。例えば、フィリピンに生息するクーランネブトクワガタの成虫腸管からはツリガネムシ類に近縁な繊毛虫が見出された。陸上生物に繊毛虫が共生あるいは寄生する現象は大変珍しく、この発見については当年度内に論文化をおこない、Zoological Science誌に受理された。2 共生酵母の地理的分化と遺伝的多様性クワガタムシ共生酵母の大半を占めるScheffersomyces属酵母について、詳細な系統解析を行った。これまで酵母の系統解析に汎用されてきた26SリボソームRNA遺伝子やITS領域はScheffersomyces属内の変異が少なく,共生酵母とホスト昆虫の間の種特異性や,酵母の地理的分化などを調べるためには,これらに替わる新たな分子マーカーを開発する必要があった.そこで,日本産と韓国産のルリクワガタ属の共生酵母を対象として,東京大学および韓国の研究者と共同で,核リボソーム遺伝子のIGS領域における分子マーカーを開発し,その有用性について検討した.また、開発した分子マーカーを用いて、東アジアのルリクワガタ属共生酵母の遺伝的分化について調べた。これらの内容については論文査読中である。
著者
久保田 耕平 渡邉 花奈 川上 華子 深津 武馬 棚橋 薫彦
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.129, 2018

<p> クワガタムシ科の雌成虫は腹部末端付近に菌嚢を持ち、その中に種々の微生物が存在することが明らかになっている。中でも白色腐朽材食性のクワガタムシは分類群に特異的なキシロース発酵性の共生酵母(<i>Scheffersomyces</i>属)を保持している。 演者らは、日本産ルリクワガタ<i>Platycerus</i>属全10種15分類群の各地の個体群から共生酵母を分離した。ルリクワガタ属の遺伝的距離と共生酵母の遺伝的距離をpartial Mantel testによって比較したところ、ホストのクワガタの遺伝的距離および共生酵母の遺伝的距離はそれぞれ産地の地理的距離と有意に相関していた。また、地理的距離の影響を除去すると、共生酵母の遺伝的距離とホストのクワガタの遺伝的距離は有意に相関していた。また、クワガタの系統樹と共生酵母の系統樹は完全に一致しているわけではなかった。これらのことから、日本産ルリクワガタ属とその共生酵母は、完全ではないものの、共進化していることが明らかになった。本講演ではこれらの進化プロセスやその要因に関する仮説を解説する。</p>