著者
森 巍 金岡 毅 関場 香
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科学会雑誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.265-273, 1973-04

Prostaglandin F_<2α> は新しい子宮収縮剤として, 又学問的にも極めて興味ある薬剤として最近注目をあびている. しかしながらその産科学的な評価については未だ明確に確立されてはいない. そこで私達は私達の病院に入院した陣痛未発来の妊娠末期婦人185例について, これを Pg F_<2α> 8.3μg/min 注入群, Pg F_<2α> 16.7μg/min 注入群, Oxytocin 8-20 mU/min 注入群の三群にわけ, Balloon 法又は Open-tip 法による子宮内計測により次の観察結果を得た. (1) 陣痛発来効果は Pg の方が Oxytocin よりもややすぐれている. (2) しかし児娩出効果は Oxytocin が Pg に比しすぐれている. (3) Bishop の頚管成熟度別に注入開始から分娩迄の時間をみると, Oxytocin がはるかに Pg よりもすぐれている. (4) 子宮収縮曲線において Pg により誘発される収縮は振幅がやや低く, 収縮時間が長く, 頻度の多いものが多く, Oxytocin は初めから規則的な子宮内圧の大きい, 収縮時間の比較的短かい子宮収縮がみられる. しかし Pg を 16.7/min とすると Alexandria unit でみた子宮活動は Pg も Oxytocin も ほゞ同様となる. (5) しかしながら子宮活動がこの様に高まり, 子宮内圧が高まつてきても, 子宮頚管の開大度や頚管の成熟度の改善率は Oxytocin と比較して Pg ははるかに劣つており, 子宮活動が高まつても分娩を積極的に進行させる効果は Oxytocin がすぐれているものと考えられた. (6) Pg の投与は子宮筋の Oxytocin に対する感受性を増加させ, Pg をあらかじめ投与することにより Oxytocin の priming effect を生ずることが in vivo, in vitro 両方の実験で判明した. (7) Pg の陣痛既発来例に対する陣痛促進効果は Oxytocin より劣つていた. (8) 児の Apgar 指数, 体重減少率, 母体の分娩時出血量は Pg, Oxytocin ほゞ同様である. 以上から, Pg は Oxytocin と比較して, 特にすぐれた陣痛誘発剤とはいえないが, Oxytocin 感受性の低い妊婦, 頚管未熟妊婦, 緩徐な陣痛発来を期待したい妊婦などにはその価値が認められる.
著者
大森 巍
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

テクネチウムおよびレニウム放射性同位体標識医薬品の合成を念頭において,テクネチウムおよびレニウム錯体の配位子置換反応を平衡論的および速度論的に検討した。テクネチウム錯体を用いて研究する際に問題となるテクネチウムの定量を,過テクネチウム酸イオンの還元・配位子置換反応による錯体合成の過程を必要としない過テクネチウム酸イオンをトリス(1,10-フェナントロリン)鉄(II)イオンとのイオン対抽出によってニトロベンゼンに抽出して,そのまま分光光度定量する簡便な方法を確立した。テクネチウム錯体で最近注目されているテクネチウム-ニトリド錯体についで,テトラクロロアルソニウム(TPA)イオンを用いての溶媒抽出法で検討した。テトラクロロニトリドテクネチウム(VI)酸イオンの加水分解反応機構を解明し,加水分解化学種の生成定数を求めた。Tc≡N結合のトランス位の置換活性度について,3,5-ジクロロフェノール(DCP)を用いて検討したが,有機相についてはニトリド基の著しいトランス効果は認められなかった。またDCPはTPAとのイオン対形成の為に,その協同効果も認められず,むしろニトリド錯体の抽出を阻害することがわかった。ビス(アセチルアセトナト)ニトリドテクネチウム(V)の塩基加水分解反応をアセトニトリル溶液中で速度論的に検討し,錯体へのアセトニトリルの置換に伴う水酸化物イオンの攻撃によって,アセチルアセトン錯体は分解するという機構を確立し,それぞれの速度定数を求めることができた。テクネチウム(III)錯体合成の出発物質として注目されているヘキサキス(チオウレア)テクネチウム(III)イオンの過テクネチウム酸イオンからの生成反応機構を,ジメチルチオ尿素,ジエチルチオ尿素など一連の化合物を用いて速度論的に比較検討した。さらにヘキサキス(チオウレア)テクネチウム(III)イオンとジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)との反応を速度論的に検討し,テクネチウム(III)-DTPA錯体の生成機構を確立した。ヘキサキス(チオウレア)レニウム(III)錯体の加水分解反応機構を,分光光度法により検討し,テクネチウム(III)錯体のそれと比較した。この結果からヘキサキス(チオウレア)レニウム(III)錯体のレニウム(III)錯体合成の出発物質としての可能性に関して考察した。これらの結果を基にテクネチウムに関する置換反応について,レビューし,「第1回テクネチウムに関する日ロセミナー」において発表した。