著者
金子 正範 山野 茂 塚原 亜希子 志摩 朋香 鈴鹿 正顕 入澤 明子 大森 桂一 箕輪 和行
出版者
北海道歯学会
雑誌
北海道歯学雑誌 (ISSN:09147063)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.72-81, 2016-03

【目的】本研究の目的は,北海道大学病院における歯科異物の誤嚥と誤飲の発生傾向,対応および経過を調べ,対応の適切性と誤嚥と誤飲の防止策について検討することである. 【対象と方法】2006年から2013年までに歯科異物を誤嚥または誤飲した疑いがある患者43名が歯科放射線科のデータベースから選択された.本研究ではそれらの症例の診療録および放射線検査画像をもとに検討を行った. 【結果】43例中で誤飲が32例で発生していたが,全症例で誤嚥発生は無かった.誤飲例の性別は男性20例,女性12例であった.誤飲例の平均年齢は57.6才であり,最年少は8才,最年長は79才であった.誤飲例のうち60代以上の患者が59%を占めていた.嚥下機能に影響すると考えられる病歴や手術歴を有する者は10例(31%)であった. 誤飲物はメタルインレー7例,メタルクラウン6例,コア4例,歯科用切削・研磨バー4例,歯牙3例,その他が8例であった.修復物の試適時・装着時の誤飲が11例(34%)で最も多かった. 1例は画像検査前に異物を吐き出していた.内視鏡により異物が摘出されたのが3例で,うち,2例は食道から,1例は胃からであった.23例で異物排泄が確認されたが,5例では腹部エックス線撮影による排泄確認がなされなかった.排泄確認までの日数は平均8.8日,最短3日,最長51日であった.誤飲による体調不良の訴えはなかった. 【結論】歯科治療時には常に誤飲のリスクがあると考えられる.歯科異物の脱落を防ぐことが誤嚥・誤飲予防のために重要である.修復物の試適・装着時の誤飲が最も多かったことより,修復物にフロスを結紮や接着すること,ガーゼや歯科用吸引カニューレで咽頭を覆うこと,異物が直接咽頭に落ちにくい体位や頭位を患者にとらせることなどの対策を行うことが推奨される.高齢者や手術後および脳疾患などで嚥下機能に影響があると考えられる患者には既知の誤嚥・誤飲予防策を徹底的に行うことが重要である.誤飲後の対応は概ね良好だが,消化管に誤飲した後の排泄確認を徹底するべきであると考えられた.
著者
森 桂一
出版者
千葉大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:05776856)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.89-99, 1958

1 Characteristics of adolescence 思春期の特色 われわれが思春期とよぶ子供から成人への移行期は,批判的な時期であると同時に情緒的緊張の時でもあることを忘れてはならない。従って新鮮で生き生きとした創造的表現に導くのにむしろ好適の時期であることを考えねばならない。若いものたちが自分自身の潜在力や周囲の世界というものに気づく始めての時であり,それに対して彼等は青年独特の熱情をこめて反応を示し始めるのである。2 The First duty of education of adolescents 思春期教育の第一任務充分な精神的成熟というものは必ずしも生理的成長に伴わない。しばしばこの時期の複雑な問題の故に人間の身体だけが成長し心は未熟といぅことにもなりがちである。だから教育者の最初のつとめは彼等の生得的な創造能力を逃さないよう均衡のとれた思春期たらしむべく助力を送ることである,この心やりはacademicな適合,技術的訓練に先行すべきものである。3 The Full scope of art in education 教育に於ける芸術の広領域,芸術といぅものは人生経験の諸反応を形に現わすことだと理解された。又すべての個人の精神的肉体的潜在力の具現,成就の可能性を暗示するものである。従ってすべての芸術,音楽,劇,物真似等も絵画,彫刻,建築等と同様に考慮の中に入れるべきである。これについては多数の支持者があって次期総会のテーマに, artからartsへの問題としてとりあげられることになった。4 The Furtherance of moral education by art 芸術による道徳教育の助長,道徳的,倫理的教育は円満な人格発展の中核であることに間違いない。勿論芸術それ自身が道徳を創造するわけでぱない。然し少くとも人生に対してこれから遠ざけたり,又これを破壊したりするものではなく,芸術による教育は道徳の構成的要因を数多用意しているものであることは事実である。本来芸術的達成には心と身体の同時的訓練が要請されている。従て表現の可能性の為道具や材料の統御ということも必要になってくる。尚芸術は社会の道徳的思想を人間の心の中へ伝達したり保持したりするに有効な手段であることも銘記しなければならない。5 The practical element in art appreciation 芸術鑑賞の実利的要素,人類的教養の立場からも,個人の住む特別社会の立場からも鑑賞指導は教育に磨きをかける意味で基本的要素である。かって〓々我々は諸種の芸術を組合せる形でこの目的達成を実証して来た。諸種の芸術を組織的に結合して刺戟暗示を与えるのにも思春期は最適の時機であろう。然し純粋な理論的指導では鑑賞の目的はとげられない。充全な鑑賞に先立って材料や道具に関する初歩的な理解をさせたり又制作意慾に捲込むことも大切である。創造的活動によって青少年が一つのものをしあげたという達成感,満足感は他の抽象的指導では到底望み得ないことであろう。6 Art as a corrective to the lack of balance in contemporary education 同時代の教育の均衡欠如を是正する為の美術,ある傾向として特に目立つ西欧教育の中で一方純粋知識の達成を目指すものや,又一方技術訓練の熟達に傾くものがあるが,普通教育としての均衡を正しく保つためにも芸術の必要を強調せねばならぬ。芸術を通しての教育という概念は教育に全体として働くカリキュラムの統一完化という解釈に於て成立する。7 The unifying function of art in education 芸術教育の統一的機能芸術は従来の盛沢山のカリキュラムと張合って別な分科と解するのでなく,思春期教育に対して他と同格の基礎的要素であると解すべきである。芸術部門の中でも他の色々な学習と同じ創造過程へ,融合させてゆくのが本来ですべて只指導上の便宜でそれらが分けられていると解したい。8 The place of art in the curriculum 教科中芸術の位置 青少年の教育でアートの重要な理由として学校時代全体を通じてこれがカリキュラムや,学校の空間,建物又その育てる人々の内で最も好適な時機に与えられるということが根本問題である。尚この分野の才能が深く身についていなければならぬという認識をもたせなければならない。すべての生徒は更に芸術的諸学習が効果的に受けられるよう,設備材料等その選択範囲を広く用意されなければならない。9 Conclusion 総括 美術は一般教育に於て青少年の成熟助成の為最も効果的な手段である。