著者
森下 義亜
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.39-54, 2013 (Released:2016-07-02)
参考文献数
30
被引用文献数
1 1

高齢化が世界最高水準で進行する日本の都市では,高齢者が社会・生活保障 の対象となり,各種の対策によって彼らの社会的孤立や孤独死・孤立死のリス ク軽減が図られている。しかし,高齢者の抱える健康面の問題および高齢者へ の支援制度のあり方をおもな関心事とするこうした従来の視点がある一方で, 高齢者の地域社会への主体的参加のあり方も多方面で議論されている。退職や 子どもの他出を経た高齢者は役割縮小過程にあるが,その8割以上は健康な自 力生活者であり,自らの意志で地域社会に多様なかたちで参加して新たな役割 を得,生きがい増進を図ることができるからである。 本稿では地域性と共同性に着目する社会学の伝統的コミュニティ論の立場か ら,札幌市での高齢者の地域社会参加の現状と課題を考察する。同市をはじめ とする都市では,従来の地域社会参加経路としての自治会の機能は減退傾向に あり,それを補完・代替する新たな社会参加経路が求められている。検討する 札幌市の2事例では,高齢者が自己充足や対価の獲得ではなく多世代交流こそ を目的として自ら培った経験・知識を主体的に活用する活動を創始し,それが 地域社会のコミュニティ形成過程で有効に機能している。本研究はこれを高齢 者主体の「交流型義捐的社会参加」によるコミュニティ・モデルとしてその特 徴と課題を考察し,高齢者の地域社会での生きがいづくり研究の流れに位置付 けたい。
著者
森下 義亜
出版者
北海道大学大学院文学研究科
雑誌
研究論集 (ISSN:13470132)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.375-389, 2012-12-26

コミュニティは社会学の鍵概念の一つであり,さまざまに理解・解釈され ながらも,古くて新しい研究テーマとして社会学研究の伝統を占めてきた。 同概念は近年,再び多方面で用いられている。現代都市では,高齢者の社会 的孤立などの種々の課題への対処のためにコミュニティ概念の有効性が認識 されているからである。しかし地域社会での施策が多様化・増加するにもか かわらず,コミュニティの減退や喪失が危惧されているという逆説的現状が あり,高齢者については孤独死・孤立死の問題も起きている。これを踏まえ, 本稿では地域社会でのコミュニティ形成が困難な要因を探ることを目的とす る。 そのためにまず,社会学におけるコミュニティ概念の理論研究の内容を整 理する。そこから読み取れるのは,コミュニティの解放による個人主体の社 会的関係の多様化がみられる一方で,地域社会での集合的なコミュニティの 形成・再生が困難になっているという,現代都市コミュニティの課題の本質 である。 この課題にはコミュニティ形成を目的とする地域社会構造も関連してい る。コミュニティ形成の起点となるのはアソシエーションであり,本研究の 調査地である札幌市では町内会・自治会,および市民活動団体が混在してい るが,近年の同市のコミュニティ形成施策によって,両者が協働する枠組み が整備された。しかしながら現段階では市民活動団体は地域社会システムを 担うまでにはなっておらず,事例としてとりあげる白石区においては,その 枠組みの中心となっているのは町内会・自治会である。その運営や活動はお もに高齢者が担っており,社会参加の観点での意義は小さくない。 しかし低下する加入率や活動参加率から,コミュニティ形成の枠組みが形 骸化している面が指摘できる。また人口構成や町内会・自治会加入率の高低 などの地域特性によらず,全市一律のコミュニティ形成の枠組みとなってい ることも課題の一つであると考えられる。今後の調査では,同枠組みをどの ように活用し,急速に高齢化する札幌市におけるコミュニティ形成をいかに 実現するかを研究する必要がある。