著者
森口 茂樹 福永 浩司
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.147, no.4, pp.206-210, 2016 (Released:2016-04-09)
参考文献数
20

近年,うつ病患者の増加は深刻な社会問題であり,なかでも,うつ病治療薬であるparoxetine,fluvoxamineなどの選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitors:SSRIs)が治療効果を示さない難治性うつ病患者の増加が注視されている.私達は,sigma-1受容体欠損マウスがうつ様症状を発現することから,難治性うつ病治療におけるSSRIsに代わる新しい治療標的としてsigma-1受容体賦活化作用を提唱している.Sigma-1受容体は,神経細胞の小胞体に局在し,inositol 1,4,5-triphosphate(IP3)受容体を介して小胞体からミトコンドリアへのカルシウム輸送を担う分子シャペロンである.私達はcalcium/calmodulin-dependent protein kinase IV(CaMKIV)欠損マウスにおいて,うつ様症状の発現と海馬歯状回におけるadult neurogenesis(神経新生)の低下を見出しており,CaMKIV欠損マウスを難治性うつ病のモデルマウスとしてsigma-1受容体作動薬の効果を検討した.CaMKIV欠損マウスのうつ様症状はsigma-1受容体に親和性のないparoxetineは改善効果を示さないが,sigma-1受容体に親和性の高いfluvoxamineは有意な改善効果を示した.さらに,CaMKIV欠損マウスに対して,sigma-1受容体アゴニストであるSA4503がうつ様症状を改善した.FluvoxamineおよびSA4503によるCaMKIV欠損マウスのうつ様症状の改善効果には,神経新生と密接に関与するprotein kinase B(Akt)およびextracellular signal-regulated kinase(ERK)の活性化,続いてbrain-derived neurotrophic factor(BDNF)の産生亢進が関与していた.私達の研究結果は,sigma-1受容体賦活化が難治性うつ病の治療法になる可能性を示している.
著者
森口 茂樹 福永 浩司
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

申請者らは既存の認知症治療薬であるメマンチンの新しい作用機序として、KATPチャネル抑制作用を発見した。そこで申請者らはKATPチャネル発現細胞を用いて、メマンチンとは異なる構造を持つシーズ化合物(アダマンタン誘導体)をスクリーニングして、メマンチンに比べて強力にKir6.2チャネルを抑制する化合物(本剤)を含む化合物群を創製した。本剤は、マウスによる実験で強力なKir6.2チャネル抑制作用による認知機能改善効果(AD中核症状)に加えてKir6.1チャネル抑制作用によるうつ症状・不安症状・攻撃症状などのAD周辺症状(BPSD)を改善することが確認された。