著者
森岡 耕作
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.31-42, 2020-06-30 (Released:2020-06-30)
参考文献数
21

異質な顧客ニーズに対応できる有効な製品戦略であるマス・カスタマイゼーション(MC)の中でも,顧客の構成負担を軽減しうるソリューション提示型カスタマイゼーション(CvSS)が注目を集めており,その有効性が吟味されている。しかしながら,このCvSSに関する既存研究は,第一に,MCについて顧客が知覚する価値のうち限られた種類の価値にしか注目しておらず,第二に,そのシステムを利用する顧客のデザイン・スキルにおける異質性を考慮していない,という問題を抱えている。そこで本論は,第一に,顧客が知覚するMC価値の構造を特定化し,第二に,その価値構造を前提に,CvSSの効果を吟味しようと試みた。サーベイ・データを利用して行った分析(分析1)の結果,享楽性と過程努力とによって構成されるMC過程価値が,選好合致と自己表現性とによって構成されるMC製品価値を高めるということを見出した。そして,実験データを利用して行った分析(分析2)の結果,デザイン・スキルの低い顧客より,デザイン・スキルの高い顧客の方が,MC過程においてソリューションが提示された時に知覚する享楽性が低いということを見出した。
著者
森岡 耕作
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.87-110, 2009-04

論文マーケティング研究における重要な研究領域と見なされるブランド論で先駆的研究を展開したAaker(1991)は,「同種の製品であっても,そのブランド名が付いていることによって価値に差異が生じる」という興味深い命題を提唱した。しかしながら,それに続く既存研究は数多く存在するものの,消費者があらゆる点について同種であると見なす製品を前提にして,その製品に付与されるブランド価値の生成について議論を展開することはなかった。このことを問題視する本論は,消費サイドにおけるブランド価値の生成と変容というダイナミックな現象について,前半部ではN. Luhmannの社会システム理論に依拠しつつ,補完的にLeibenstein(1950)のバンドワゴン効果/スノッブ効果,およびGranovetter(1978)の閾値モデルを援用して,「ブランド価値はバンドワゴン効果を伴う消費者間コミュニケーションよって生成し,他方,スノッブ効果を伴う消費者間コミュニケーションによって崩壊し,さらに,それらの組み合わせによってブランド価値は生成・変容する」ということを説明した。他方,後半部においては,その現象を理解するために,マルチエージェント・シミュレーションを設計・実行した。その結果,既存のブランド論が捨象してきた議論領域においても,ブランド価値が生成・変容しうることを明らかにした。そして,このように展開される本論は,一方では,Luhmann の社会システム理論が既存のブランド論の問題ないし限界を克服するために有用な理論枠組であることを示し,他方においては,ブランド価値の生成・変容という具体的な現象を吟味することによって,それまで一般的かつ抽象的な議論に留まっていた社会システム理論の発展可能性を示唆した。Prior research on brand equity or brand value has assumed that all products are the same in their functions but different in their marketing activities. However, we can assume that products are the same in not only their functions but also their marketing activities, and this assumption has been paid little attention. So, this paper aims to explore how the emergence and collapse of products' brand values resulting in their up-and-down market shares can be possible when all products are same in all aspects. At first, we use Niklas Luhmann's social system theory to explain the emergence and collapse of brand values. Then, we get a constructive understanding of market share dynamics by conducting experiments using multi-agent simulation model. This is the way we imply the frontiers of brand research by suggesting that the social system theory is useful in analyzing the emergence and collapse of brand value.