著者
西原 克成 森沢 正昭 松田 良一
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

Rouxの言うように、重力など力学が進化の原因とすれば、進化のエポックを代表する動物に、進化で生じたphysicochemical stimuliを異種性に異所性に人為的に与えれば、進化で生じた物質が異種性に、異所性に生ずるはずである。局所の細胞の遺伝子の発現で、間葉系の高次機能細胞が誘導され、この細胞レベルの分化誘導の積み重ねで形態が決まるからである。この手法を研究代表者の西原が開発し、実験進化学手法(Experimental Evolutionary Research Method)と呼ぶ。これにより哺乳類において希望する間葉系高次機能細胞をハイブリッドタイプで、当該動物の細胞遺伝子を使って人為的に誘導することができる。脊椎動物の進化は、形態と機能と分子レベルでそれぞれ異なる。形態の進化は、内臓頭蓋の形態研究を行う以外には究明することが困難である。進化を遡ると、頸部・胸部・腹部・手と足との尾のすべては原索動物に至って、内臓頭蓋の原器、鰓孔のある口の嚢に収斂して、顔の原器のみとなってしまうからである。この動物がムカシホヤであり、脊椎動物の源となる本体であり、同時に顔の源とも言える生き物である。生命の営み(機能)の中心となる細胞レベルの消化・吸収・呼吸・代謝の要は造血巣であるが、この機能の進化は重力対応により腸管から脊髄腔へ移動する。このように形態と機能レベルの進化は、まぎれもなく生命体の生体力学的対応で生じており、Neo-darwinismのいうような進化の様式はどこにも観察されない。実験進化学手法を開発し次の3点につき研究した。(1)顔の源の生物マボヤの幼形進化の人為的誘発(2)人工骨脊髄バイオチャンバーによる軟骨魚類、円口類の筋肉内における造血巣の誘導(3)原始脊椎動物の組織免疫と胎児蛋白の関係の究明実験結果から、世界に先駆けてNeo-darwinismが完全否定され、脊椎動物の進化がLamarckの用不要の法則によることが検証された。本研究で、150年間脊椎動物の生物学を支配したNeo-darwinismの進化論が系統発生学の観察事実によって完全に否定され、力学対応進化学が実験的に検証された。脊椎動物の進化様式はハードのホメオボックスの情報系とソフトの環境因子と呼ばれる情報系の二重支配であったことが検証された。
著者
森沢 正昭 小笠原 強 林 博司
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1985

61年度の研究により単一の成功まで精製されたニジマス精子の運動関始の〓絡的な引き金をひくと考えられている15Kタンパン質について精製タンパク質及び15Kタンパク質の抗体の精子運動装置,軸系の運動性に対する影響について調べた. その結果,強い界面活性剤処理によって運動性も乗った軸系が15Kタンパク質を添加することにより運動性を回復すること,15Kタンパン質の抗体は15Kタンパン質のリン酸化を抑制すると同時に軸系の運動性も阻害することが明らかとなり,15Kタンパク質のリン酸化が真に粒子運動開始機構の重要なステップであることが示唆された. 一方,Protein kinaseの非特異的阻害試薬は15Kタンパク質を含む軸系上の全てのリン酸化タンパク質のリン酸化を抑制し,同時に軸系の運動も抑えること,Tyrosine kinaseに特異的な阻害試薬は15Kタンパク質のリン酸化のみを抑え,軸系の運動も抑えることなどから,CAMPは直接Tyrosine kinaseを活性化するのではなくCAMP→普通のProtein kinaseの活性化→tyrosline kinaseのリン酸化と活性化→15Kタンパン質のリン酸化という過程を経て精子運動開始が起ると考えられる. 更に種々のProteaseがCAMP無しで独果に精子運動開始を誘起すること,protease阻害試薬,基質が精子運動性を抑制する事からproteaseの精子運動開始への寄与が強く示唆された. 現在,上記三要因の軸系タンパクのリン酸化に対する影響について調べており,その結果の解析が3サケ科魚粘で精子運動開始機構の全貌が解明されることが期待される. 又,海産無稚動物,哺乳類についても15Kタンパク質の検索を行い,ウニ等では本タンパン質の存在が確認された. K^T/Ca^<Zr>→CAMP→Protein kinase→154タンパク質のリン酸化→Proteaseの関子というカスケードが多くの動物に共通の精子運動関始機構であることが明らかとなることはそう遠い将来ではないと考えられる.
著者
森沢 正昭 大竹 英樹 稲葉 一男 雨宮 昭南
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1991

◇精子運動能獲得機構に関しては、HCO_3^-,cAMP,pHは鞭毛運動装置に作用することが明らかにされた。また、太平洋を回遊中にシロサケの回遊過程における精子の成熟度、運動能獲得度の変化についての研究調査が行われた。◇精子運動開始についてはサケ科魚類精子運動開始タンパク質(MIPP)を見い出し、その抗血清およびモノクロナール抗体を作成し抗体が鞭毛運動装置の運動を阻害し、また、蛍光抗体法を用いてMIPPが鞭毛基部で存在することを明らにした。即ち、精子鞭毛運動調節部位が鞭毛全体でなく特定の部位にあることを初めて明らかにした。◇海産魚および淡水魚では、外部浸透圧増減の繰り返しが精子鞭毛運動の開始・停止の繰り返しを引き起こすという貴重な発見がなされた。また、浸透圧の増減は精子内のK^+濃度及びpHの増減を引き起こし、この細胞内変化が鞭毛運動装置に直接作用し精子運動を調節していることが示唆された。更に、多機能型プロテアーゼ(プロテアソーム)が精子運動性を調節していることを初めて示すことが出来、その作用機序および鞭毛における分布について蛍光抗体法,生理生化学的手法を用いて明らかにした。◇精子活性化機構については、ニシン卵由来のニシン精子活性化物質(HSAPs)の完全精製に成功し、cDNAクローニングをほぼ完了した。現在HSAPsの受容体および細胞情報伝達機構についての解明を始めている。◇精子走化性に関しては、ユウレイボヤで卵より精子活性化及び誘引能を持つ精子活性化走化性物質(SAAP)を見い出し、その精製をほぼ完了した。精製物質は常に精子活性化能と走化性能を持つことが、また、精子活性化にはCa^<2+>とcAMPが、精子走化性にはCa^<2+>のみが必要であることが明らかとなった。即ち、1つの分子が両方の作用を兼ね備えているが、2つの機能は全く異なった機構のもとに制御されているという初めての証拠が得られたことになる。