著者
前田 智子 浅川 具美 森田 尚文
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.50, no.11, pp.1139-1148, 1999

スポンジケーキは卵の起泡性を利用した菓子であり焼成後のケーキの組織や品質に生地中の気泡が与える影響は大きいと考えられる.そこで焼成前の生地の気泡, すなわち卵泡沫にバターを直接添加し, 泡沫の性状におよぼすバター添加温度の影響を明らかにした.泡沫は, 卵黄と卵白の両者を含む混合卵泡沫 (卵黄80g, 卵白120g), 卵黄のみの卵黄泡沫 (卵黄80g, 蒸留水105.6g), 卵白のみの卵白泡沫 (卵白80g, 蒸留水40.8g) の3種類を調製した.バターの添加量は30, 50,809とし添加温度は40, 75, 98℃とした.また対照としてバター無添加のものを調製した.<BR>(1) バター添加温度が高くなると, 混合卵と卵黄泡沫の比重および気泡力変動率は小さく, 戻り液量は少なくなり気泡保持と泡沫安定性が高まった.<BR>(2) バター添加温度が高くなると, 卵白泡沫の戻り液量は多くなり泡沫安定性が低下した.<BR>(3) 混合卵泡沫の安定性には卵黄, 卵白単独ではなく, 乳化性の高いLDLを含む卵黄と, 泡沫安定性の高いオボアルブミンを含む卵白と両方の存在が必要であると考えられた.<BR>以上の結果から, 混合卵に高温のバターを添加すると乳化安定性に優れたLDLを含む卵黄が, 油脂となじみの悪い卵白泡沫の破泡を抑制する.さらに卵白よりも低温で完全凝固する熱凝固性に優れた卵黄は, 若干の熱変性を生じ, 気泡膜を強化する結果, 泡沫安定性を高めると推察される.また, 卵白泡沫は油脂 (バター) の添加によって不安定とはなるが, 本来卵黄よりも泡沫安定性の高いオボアルブミンを含む卵白の存在は, 高温のバターを添加された混合卵泡沫の安定性には不可欠であると考えられる.このような卵黄, 卵白両成分の相互作用を考えると, スポンジケーキの調製において高温のバターを添加することは卵黄, 卵白両成分を別々に取り扱う別立て法ではなく, 両者をあらかじめ混合し泡立てる共立て法に用いることが特に有効であると推察される.したがって, 共立て法により調製された生地中の気泡保持と焼成中のケーキバッターの膨化は, 高温のバターを添加することによってより高められると推察され, これは前報の結果をさらに裏付けるものと考えられた.
著者
前田 智子 浅川 具美 森田 尚文
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.571-579, 1999-06-15 (Released:2010-03-10)
参考文献数
15
被引用文献数
2

スポンジケーキの品質を客観的に評価するため, 小麦粉およびバターの混合過程に一定条件での手作業を確立し, バター添加温度の違いが生地と焼成後のケーキの性状におよぼす影響を明らかにした.スポンジケーキの材料配合は小麦粉 100g, 鶏卵 200g (卵黄 80g, 卵白 120g), 砂糖 100g とし, バターの添加量は30g とした.また添加温度はバター添加なしの対照, 40℃, 75℃, 98℃ の 4 試料とした.(1) バターの添加温度が高くなると, 生地の比重は小さくなり, 気泡の消失を抑制したと推察された.(2) バターの添加温度が高くなると, 生地中のバター粒子の分散性は良くなり気泡界面との付着も増加した.その結果気泡膜が強化され気泡の安定化にもつながったと考えられる.(3) バターの添加温度が高くなると, ケーキの膨化率と比容積は大きくなった.(4) バターの添加温度が高くなるとケーキはやわらかくなり, 弾力性に乏しく, 凝集性に富むようになった.(5) 官能評価では, 物性値の結果で特に弾力性に乏しく凝集性に富んだ 75℃ の試料が, 口ざわりと口どけの良さで良い評価を得た.以上の結果から, 高温のバターを添加することで生地に若干の熱が加わり, 卵中タンパク質の加熱変性とデンプン糊化が生じ, 焼成中気泡に十分な熱膨張をもたらしたと推察される.また生地中の水分含量は37.6~38.2% と試料間で有意差は認められなかったが, 添加されたバター中約 16% の水分はその温度が高温の場合には主にデンプンの糊化に使われ, グルテン形成を抑制し, ケーキの物性や官能評価に良い影響をおよぼしたと考えられた.
著者
森田 尚文 姜 又遠 浜渦 善一郎 杉本 温美
出版者
日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学 : oyo toshitsu kagaku = Journal of applied glycoscience (ISSN:13403494)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.23-30, 1999-03-31
参考文献数
19
被引用文献数
4 9

アマランス粉を代替した小麦粉ドウの物性と製パン性についてホームベーカリーを用いて検討した.アマランス粉5%の代替ではパンの比容積は有意に増大したが,それ以上では代替量につれて比容積は明らかに減少した.アマランス10%の代替粉にヘミセルラーゼ1250U以上を添加すると比容積は明らかに増大した.ファリノグラフにおけるドウの安定性はアマランス粉10%の代替により顕著に減少した.ドウの粘弾性(圧縮応力,弾性率,粘性係数)は10%の代替により無添加に比べ明らかに固くなった.SEM観察により,アマランス粉代替ドウのグルテンは固くなることがわかった.乳化剤ステアリル乳酸カルシウム,あるいはヘミセルラーゼをアマランス10%代替した小麦粉に添加すると明らかに比容積を増大することがわかった.