- 著者
-
丸谷 康平
藤田 博曉
細井 俊希
新井 智之
森田 泰裕
石橋 英明
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.48100928, 2013 (Released:2013-06-20)
【はじめに、目的】高齢者における足趾把持力の意義については、村田や新井らが加齢変化や性別および運動機能などと影響し、評価としての有用性について報告している。しかしそれらの報告は自作の測定器を用いており、市販された足趾把持力測定器を用いた報告は少ない。また足趾把持力を用いた転倒リスクのカットオフ値を求めた報告も少ない。本研究は地域在住中高齢者を対象とし、足指筋力測定器における加齢による足趾把持力の変化を確認すること、転倒リスクと足趾把持力の関係およびカットオフ値を求めることを目的に研究を行った。【方法】対象は、地域在住中高齢者171名を対象とした(平均年齢71.9±7.6歳;41-92歳、男性64名、女性107名)。測定項目については、Fall Risk Index-21(FRI-21)を聴取し、足趾把持力および開眼片脚立位保持時間(片脚立位)、Functional reach test(FRT)ならびにTimed up and go test(TUG)の測定を行った。FRI-21の聴取はアンケートを検査者との対面方式で行い、過去1年間に転倒が無くスコアの合計点が9点以下の者を「低リスク群」、過去1年間に転倒がある者もしくは合計点が10点以上の者を「高リスク群」とした。片脚立位の測定は120秒を上限に左右1回ずつ施行し左右の平均値を求めた。足趾把持力については、足指筋力測定器(竹井機器社製TKK3361)を用いて左右2回ずつ試行し最大値を求め、左右最大値の平均値を測定値(kg)とした。統計解析において加齢的変化については、対象者を65歳未満、65-69歳、70-74歳、75-79歳、80-84歳、85歳以上に分け年齢ごとの運動機能の差異を一元配置分散分析および多重比較検定を用いて検討した。またt検定により低リスク群、高リスク群の群間比較を行い、足趾把持力および片脚立位、FRTならびにTUGと転倒リスクの関係を検討した。その後、転倒リスクに対する足趾把持力のカットオフ値についてROC曲線を作成し、曲線下面積(Area Under the Curve:AUC)を求めた。解析にはSPSS ver.20.0を用い、有意水準を5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は埼玉医科大学保健医療学部の倫理委員会の承認を得て行われた。また対象に対しては研究に対する説明を文書および口頭にて行い、書面にて同意を得た。【結果】足趾把持力の年代別の値は、65歳未満13.25±5.78kg、65-69歳11.82±5.10kg、70-74歳11.95±5.16kg、75-79歳11.28±3.96kg、80-84歳7.80±3.55kg、85歳以上6.91±3.57kgとなった。一元配置分散分析および多重比較検定の結果、80-84歳と65歳未満や65-69歳ならびに70-74歳との間に有意差がみられた。次にFRI-21による分類の結果、低リスク群は136名、高リスク群35名であり、足趾把持力の平均値は低リスク群11.69±5.19kg、高リスク群9.47±4.42kgとなり、低リスク群が有意に高値であった。一方、片脚立位やFRT、TUGについては有意差がみられなかった。足趾把持力の転倒リスクに対するROC曲線のAUCは0.63(95%IC;0.53-0.72)であった。さらにカットオフ値は9.95kg(感度0.60、特異度0.57)と判断した。【考察】今回、地域在住中高齢者を対象とし、足趾筋力測定器を用いた加齢的変化や転倒リスクに対するカットオフ値を検討した。加齢的変化については、新井らの先行研究と同様に足趾把持力は加齢に伴い低下を来たし、特に75歳以降の後期高齢者に差が大きくなる結果となった。また転倒リスクにおける足趾把持力のカットオフ値は約10kgと判断され、足趾把持トレーニングを行う上での目標値が示された。しかしその適合度および感度・特異度は6割程度であり、転倒リスクを判断するためには不十分である。今後、他の身体機能などを考慮して、さらに検討を重ねることが必要である。【理学療法学研究としての意義】市販されている足趾把持力を用いて地域在住高齢者の年代別平均値を出している報告は少ない。そのため本研究で示した年代別平均値や転倒リスクに対するカットオフ値は、転倒予防教室や病院ならびに施設などでのリハビリテーション場面において対象者の目標設定として有益な情報であると考えられる。