著者
新井 智之 金子 志保 藤田 博曉
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.539-544, 2011 (Released:2012-02-09)
参考文献数
25
被引用文献数
20 10

目的:本研究では決定木分析を用いて,大腿骨頸部骨折患者の歩行自立に関わる要因を明らかにし,歩行自立を判断するためのモデルを提示することを目的とした.方法:対象は大腿骨頸部骨折を受傷し,退院時に歩行能力の評価が可能であった者108例(男性26例,女性82例,平均年齢77.2±12.8歳)とした.検査項目は年齢,性別,Body mass index(BMI),入院期間,術式,骨折分類,脳神経障害の既往の有無,骨折の既往の有無,退院時の理学療法評価として術側と非術側の膝伸展筋力,10 m最大歩行時間,Functional reach test(FRT),Mini Mental State Examination(MMSE)とした.対象者を退院時の歩行能力により,自立群と非自立群2群に分け,両群間で各評価項目における平均値の比較をt検定,χ2検定を用い解析した.また2群間の比較において有意差をみとめた項目を独立変数,退院時の歩行自立度を従属変数とした決定木分析を行った.結果:全対象者108例の内,自立群は55例,非自立群は53例であった.2群間の比較で有意差がみられた項目は,年齢,性別,術式,骨折分類,脳血管障害の既往,術側と非術側の膝伸展筋力,10 m最大歩行時間,FRT,MMSEであった.決定木分析の結果,対象における正分類率85.2%であり交差検証による誤差率は0.042であった.歩行自立の要因として非術側の膝伸展筋力,FRT,MMSE,脳血管障害の既往が選択され,4つの要因により7群に分類される決定木が示された.結論:決定木分析の結果から,大腿骨頸部骨折患者では非術側の下肢筋力から評価し,その値によって動的バランス能力や合併症の有無を確認することで歩行自立を判断できる可能性が示された.
著者
藤田 博曉 潮見 泰藏
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.319-324, 2007 (Released:2007-08-18)
参考文献数
15
被引用文献数
6 3

本稿では,理学療法モデルの変遷を述べ,新たな理学療法介入として「課題指向型アプローチ」,「Motor Relearning Program」について論じた。脳卒中を中心とする中枢神経系の理学療法介入は,単に麻痺の改善を目的とするだけでなく,生活を見据えた実践的な治療が求められている。
著者
丸谷 康平 藤田 博曉 細井 俊希 新井 智之 森田 泰裕 石橋 英明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100928, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】高齢者における足趾把持力の意義については、村田や新井らが加齢変化や性別および運動機能などと影響し、評価としての有用性について報告している。しかしそれらの報告は自作の測定器を用いており、市販された足趾把持力測定器を用いた報告は少ない。また足趾把持力を用いた転倒リスクのカットオフ値を求めた報告も少ない。本研究は地域在住中高齢者を対象とし、足指筋力測定器における加齢による足趾把持力の変化を確認すること、転倒リスクと足趾把持力の関係およびカットオフ値を求めることを目的に研究を行った。【方法】対象は、地域在住中高齢者171名を対象とした(平均年齢71.9±7.6歳;41-92歳、男性64名、女性107名)。測定項目については、Fall Risk Index-21(FRI-21)を聴取し、足趾把持力および開眼片脚立位保持時間(片脚立位)、Functional reach test(FRT)ならびにTimed up and go test(TUG)の測定を行った。FRI-21の聴取はアンケートを検査者との対面方式で行い、過去1年間に転倒が無くスコアの合計点が9点以下の者を「低リスク群」、過去1年間に転倒がある者もしくは合計点が10点以上の者を「高リスク群」とした。片脚立位の測定は120秒を上限に左右1回ずつ施行し左右の平均値を求めた。足趾把持力については、足指筋力測定器(竹井機器社製TKK3361)を用いて左右2回ずつ試行し最大値を求め、左右最大値の平均値を測定値(kg)とした。統計解析において加齢的変化については、対象者を65歳未満、65-69歳、70-74歳、75-79歳、80-84歳、85歳以上に分け年齢ごとの運動機能の差異を一元配置分散分析および多重比較検定を用いて検討した。またt検定により低リスク群、高リスク群の群間比較を行い、足趾把持力および片脚立位、FRTならびにTUGと転倒リスクの関係を検討した。その後、転倒リスクに対する足趾把持力のカットオフ値についてROC曲線を作成し、曲線下面積(Area Under the Curve:AUC)を求めた。解析にはSPSS ver.20.0を用い、有意水準を5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は埼玉医科大学保健医療学部の倫理委員会の承認を得て行われた。また対象に対しては研究に対する説明を文書および口頭にて行い、書面にて同意を得た。【結果】足趾把持力の年代別の値は、65歳未満13.25±5.78kg、65-69歳11.82±5.10kg、70-74歳11.95±5.16kg、75-79歳11.28±3.96kg、80-84歳7.80±3.55kg、85歳以上6.91±3.57kgとなった。一元配置分散分析および多重比較検定の結果、80-84歳と65歳未満や65-69歳ならびに70-74歳との間に有意差がみられた。次にFRI-21による分類の結果、低リスク群は136名、高リスク群35名であり、足趾把持力の平均値は低リスク群11.69±5.19kg、高リスク群9.47±4.42kgとなり、低リスク群が有意に高値であった。一方、片脚立位やFRT、TUGについては有意差がみられなかった。足趾把持力の転倒リスクに対するROC曲線のAUCは0.63(95%IC;0.53-0.72)であった。さらにカットオフ値は9.95kg(感度0.60、特異度0.57)と判断した。【考察】今回、地域在住中高齢者を対象とし、足趾筋力測定器を用いた加齢的変化や転倒リスクに対するカットオフ値を検討した。加齢的変化については、新井らの先行研究と同様に足趾把持力は加齢に伴い低下を来たし、特に75歳以降の後期高齢者に差が大きくなる結果となった。また転倒リスクにおける足趾把持力のカットオフ値は約10kgと判断され、足趾把持トレーニングを行う上での目標値が示された。しかしその適合度および感度・特異度は6割程度であり、転倒リスクを判断するためには不十分である。今後、他の身体機能などを考慮して、さらに検討を重ねることが必要である。【理学療法学研究としての意義】市販されている足趾把持力を用いて地域在住高齢者の年代別平均値を出している報告は少ない。そのため本研究で示した年代別平均値や転倒リスクに対するカットオフ値は、転倒予防教室や病院ならびに施設などでのリハビリテーション場面において対象者の目標設定として有益な情報であると考えられる。
著者
細井 俊希 澤田 豊 加藤 剛平 藤田 博曉 高橋 邦泰 黒川 幸雄
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.111-115, 2011 (Released:2011-03-31)
参考文献数
18
被引用文献数
2 2

〔目的〕回復期リハ病棟入院患者の入院時と退院後の活動量を,活動量計を用いて計測し,退院前後での活動量の変化を客観的に明らかにした。活動量が低下した原因について聴取した。〔方法〕歩行可能な回復期リハ病棟入院患者8名を対象とし,退院前と退院後それぞれ約1ヶ月間の活動量を測定した。また,退院後に活動量が低下した原因について聴取し,ICF分類に基づき分類した。〔結果〕1日平均歩数は,すべての対象者で,入院期間中に比べ退院後に減少していた。また,すべての対象者が退院後に活動量が低下したと自覚しており,考えられる原因は,保健サービス,気候,家族の態度,屋内の移動,動機づけなどに分類された。〔結語〕退院時に対象者やその家族と退院後の目標について十分に話し合い,積極的にデイケアなどの利用を促すようなケアプランを立てることが,リハ回数や外出機会の増加にもつながり,退院後の活動量の低下を防ぐことができると考えられた。