著者
小林 量作 地神 裕史 椿 敦裕 古西 勇
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3P3352, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】 Timed Up & Go Test(以下,TUG)は,最初にMathiasら(1986)がGet Up & Go Testとして「肘付き椅子から起立,3m歩行,180°方向転換,3m歩行,着座」の質的・主観的な5段階評価法として開発し,次にPodsiadloら(1991)が至適速度の所要時間を計測する方法に改変したものである.現在,TUGは複合的な動作能力の測定として国際的に用いられている.しかし,各運動相の時間が全所要時間にどの程度影響しているか明らかになっていない. 本研究の目的は,TUGの5つの運動相の時間を測定して,全所要時間への各運動相の占める割合を明らかにすることである.【方法】 対象は日常生活に影響するほどの骨関節障害のない在宅中高齢者,大学生,地域スポーツ参加者115名である.男性28名,女性87名,年齢は45歳から86歳まで,平均68.4±7.6歳である.方法は,椅子座面を離殿したら計時を開始,起立相,歩行往路相,方向転換相,歩行復路相,着座相の5つの運動相に分け,椅子座面に着座して計時を終了とした.各運動相の所要時間は赤外線センサーとコンピュータを連動した機器を作製し,床上約15cmの赤外線を下腿部が横切ることで0秒~9.99秒~99.9秒まで自動計時できるようにした.原則2回測定して早い時間を採用した.全ての被験者からは書面による同意書を受けている.【結果】 1. 全所要時間平均6.4秒,起立相0.4秒,歩行往路相1.9秒,方向転換相1.2秒,歩行復路相2.1秒,着座相0.9秒であった. 2. これを全所要時間に対する各運動相の割合は起立相5.9%,歩行往路相29.5%,方向転換相18.6%,歩行復路相32.2%,着座相13.9%であった. 3. 各運動相を3つに統合すると起立着座19.8%,歩行往復61.75%,方向転換18.6%となった.【考察】 これまで,TUGは起立・歩行・方向転換・着座の複合的な動作能力として考えられてきたが,本研究からは、各運動相が等しい割合ではなく,大まかに起立・着座が2割,歩行が6割,方向転換が2割と考えられ,歩行速度を強く反映していることがいえる.そのためる先行研究によるTUGと歩行速度との有意な相関はこれらの割合の影響を受けたためと考える.後半の歩行復路相及び着座相が歩行往路相,起立相よりも遅くなるのは,椅子に腰かけるために減速することや体幹を回旋しながら着座することで時間を要していることが考えられる.また、自宅のような狭い空間でのTUG測定を考えた場合、計算上3m直進歩行路を1mに短縮すると、起立・着座速度が33.4%,歩行速度が35.1%,方向転換速度が31.5%になる.このようなことから狭い空間でのTUG測定が可能なTUG1m版の検討も意義あると考える.