著者
佐藤 健一 小林 量作 計良 圭一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P3068, 2009

【目的】麓(1982,1989)の研究によると、利き足には機能的利き足(以下、機能足)と力発揮の利き足(以下、支持足)に分けられる.前者はボールをける足で右足が多く、後者は高跳びなどの踏み切り足とされ左足であることが多い.本研究の目的は、左右及び利き足の違いによって片脚立ち保持時間に影響を及ぼすか検討することである.<BR>【方法】対象は本学およびA専門学校学生588名(男性394名、女性194名、19.5±1.7歳)の内アンケートにおいて骨・関節障害の記載者を除いた463名(男性316名、女性147名、19.5±1.6歳、身長168.1±8.2cm、体重61.1±9.5kg)である.対象者に開眼・閉眼片脚立ち時間の測定およびアンケートを実施した.片脚立ち時間の測定は上限を120秒とし、開眼、閉眼において左右各2回行い最長時間を代表値とした.アンケートは、年齢、身長、体重、運動器疾患の有無、車酔いの頻度、めまいの有無、機能足(ボールをける足)、支持足(高跳びの踏み切り足)である.統計解析にはSPSS Ver.12を使用し、一元配置分散分析、対応のないt検定、有意水準5%未満とした.なお本研究は新潟医療福祉大学倫理委員会の承認を得て対象者全員から書面による同意を得た.<BR>【結果】(1)利き足の割合は支持足右42.7%、左52.9%、左右4.3%.機能足右92.6%、左5.2%、左右2.2%で、利き足の組み合わせは9通りみられ、最も多かった組み合わせは支持足左-機能足右49.5%、次いで支持足右-機能足右39.3%であった.(2)片脚立ち時間の性差は、開眼・閉眼とも認められなかった.(3)車酔い、めまいのアンケート結果と片脚立ち時間及びロンベルグ率(閉眼片脚立ち時間 / 開眼片脚立ち時間)の比較でも有意差は認められなかった.(4)左右の片脚立ち時間では、開眼(右117.3秒、左118.8秒)、閉眼(右55.8秒、左60.7秒)のいずれも左右差が認められた.(5)支持足および機能足の左右差では、支持足における閉眼片脚立ち(右50.6±38.9秒、左65.2±44.0秒)のみ有意差が認められた.(6)ロンベルグ率における支持足、機能足の左右差においても支持足(右0.4±0.3、左0.5±0.4)のみ有意差が認められた.<BR>【考察】片脚立ち保持時間については支持足が左であることが他の条件(支持足が右、機能足が左など)よりも有意に長く、特に閉眼片脚立ちで顕著であった.これは、姿勢バランスの視覚による補正が断たれることで顕在化したものと考えられる.また、閉眼では全体的に標準偏差が大きいことから、片脚立ち保持時間の測定には利き足の個人差が影響すると考えられる.
著者
神田 舞子 小林 量作
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100696, 2013

【はじめに、目的】 バランス機能検査の1つとして,片足立ち検査が頻用されている.高齢者では安全を考慮し,開眼片足立ち検査が多く用いられている.一方,加齢的,健康的条件をより適切に反映することから,閉眼片足立ち検査を推奨する報告もある(Potvin,1980).特に高齢者では視覚への依存度が高く,夜間などの暗環境では視覚情報の低下により転倒のリスクが考えられる.そのため,閉眼片足立ち検査は,暗環境や視覚情報の低下を考慮したバランス能力の指標となり得る. 本研究では,閉眼片足立ち練習が,閉眼片足立ち時間の向上にどのような影響を及ぼすか検証することを目的とした.【方法】 対象は運動器疾患のない健常女性40名のうち,閉眼片足立ち時間が40秒以下(東京都立大学身体適正学研究会,2000)に該当する者20名を介入対象とした.年齢は20.3±0.9歳,身長は160.1±4.4cm,体重は53.3±4.8kgであった.対象者に対し,介入前に開眼・閉眼片足立ち時間,足趾圧迫力(足把持力測定器),足底二点識別覚,下肢筋パワー(可動式床反力計)を測定した.事前の片足立ちの結果より左右の足を比較し,低下している側の足を練習足とし,他側を非練習足とした.練習足は合計120秒の閉眼片足立ち練習を1日3回,週3日,3週間行った.そして,介入後及び介入後3ヶ月,介入後6ヶ月に再び介入前と同様の項目を測定した. 統計処理は,介入前後の比較では対応のあるt検定,練習足と非練習足の比較と,介入前後の変化量の比較では対応のないt検定を行った.介入による経時的変化の比較では一元配置分散分析を行った.有意水準は5 %未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 倫理的配慮は,厚生労働省の「臨床研究に関する倫理指針」に則り,全ての対象者に対し事前に本研究の目的及び内容を十分に説明し,全員から書面にて同意を得た.【結果】 1.閉眼片足立ち時間における,介入前(ベースライン)の練習足と非練習足の比較では,練習足が19.0±10.2秒,非練習足が28.4±12.4秒と有意差を示した.他の項目については有意差を示さなかった. 2.運動介入後,閉眼片足立ち時間は練習足で52.3±8.4秒,非練習足で45.3±13.6秒とどちらも有意に向上した.他の項目は有意差を示さなかった.また,介入後3ヶ月では練習足50.5±10.0秒,非練習足47.7±12.9秒,介入後6ヶ月では練習足44.9±12.0秒,非練習足45.2±13.4秒であった.介入後6ヶ月は介入前より有意に向上していたが,介入後よりは有意に低下した. 3.閉眼片足立ち時間の介入前後での変化量の比較では,練習足が33.3±8.6秒,非練習足が16.9±11.2秒と有意差を示した. 4.練習足における介入期間中の経時的変化において,120秒に達するまでの回数は1日目が5.3±2.4回,最終の21日目には3.3±2.0回となった.11日目4.2±2.4回から有意に減少がみられた.また,片足立ち練習の1回目の保持時間は1日目が30.6±25.7秒,最終の21日目には60.1±35.6秒となった.11日目46.2±33.2秒から有意に向上がみられた.【考察】 本研究では,3週間の閉眼片足立ち練習を練習足で行った.運動介入後,練習足,非練習足ともに閉眼片足立ち時間が向上し,介入後6ヶ月においても向上が維持されている結果となった.練習足の閉眼片足立ち時間の向上は,練習が3週間と短期間であること,足趾圧迫力,足底二点識別覚,下肢筋パワーに変化がないことから,片足立ちバランスの調整機能が運動学習されたと考えた.また,一度学習した閉眼片足立ち時間は練習をしていなくても6ヶ月間維持されていた.このことから,より難易度の低い運動課題は,一度獲得されるとその運動課題を練習しなくても維持されやすい可能性が考えられる.一方,今回非練習足でも閉眼片足立ち時間の延長がみられたことは,支持足以外の頭部,体幹,骨盤などは練習足と共有していることや運動学習の両側性転移の影響が推察される.また,両側性転移については上肢の巧緻動作や筋力増強においての報告が多い.本研究では,多くの要因が関わっているバランス能力にも運動学習の両側性転移が起きた可能性が示唆された.これらのことより,閉眼片足立ち練習により運動の特異性の原則を基に,閉眼片足立ちバランス能力が向上したと考える.【理学療法学研究としての意義】 閉眼片足立ちは転倒のリスクが考えられるため,本研究の練習方法を高齢者に安易に適応することは避けなければならない.しかし,高齢者においては,暗環境などの視覚情報の低下が転倒を引き起こす要因となり得る.したがって,安全性を保証した条件での閉眼片足立ち練習は,理学療法プログラムの1つとなり得る.
著者
福田 泉 小林 量作
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.35, no.5, pp.261-266, 2008-08-20
被引用文献数
3

足把持筋力は立位姿勢の制御,高齢者の転倒リスク要因として注目されている。本研究の目的は若年健常者を対象に足把持筋力トレーニングの効果を検証することである。対象は運動器疾患のない若年健常者24名(男性10名,女性14名,平均年齢21.8±1.0)で,身長,体重,体脂肪率,足把持筋力,10m全力歩行,ファンクショナル・リーチ,最大1歩幅,閉眼片脚立位保持時間,等尺性膝伸展筋力を計測した。さらに年齢,性別,足把持筋力,10m全力歩行速度についてマッチングしたペアを組んだのち,無作為に介入群と対照群の二群に割り付けた。介入群は週に3回の足把持筋力トレーニングを行い,対照群には何も実施しなかった。6週後に両群について再計測を行った。その結果,トレーニング開始後3週目より,介入群の足把持筋力対体重比,10m全力歩行速度,歩幅について有意な変化がみられた。これらの知見から運動器障害に対する足把持筋力の検査とトレーニングの有用性が期待できる。
著者
小林 量作 地神 裕史 椿 敦裕 古西 勇
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3P3352, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】 Timed Up & Go Test(以下,TUG)は,最初にMathiasら(1986)がGet Up & Go Testとして「肘付き椅子から起立,3m歩行,180°方向転換,3m歩行,着座」の質的・主観的な5段階評価法として開発し,次にPodsiadloら(1991)が至適速度の所要時間を計測する方法に改変したものである.現在,TUGは複合的な動作能力の測定として国際的に用いられている.しかし,各運動相の時間が全所要時間にどの程度影響しているか明らかになっていない. 本研究の目的は,TUGの5つの運動相の時間を測定して,全所要時間への各運動相の占める割合を明らかにすることである.【方法】 対象は日常生活に影響するほどの骨関節障害のない在宅中高齢者,大学生,地域スポーツ参加者115名である.男性28名,女性87名,年齢は45歳から86歳まで,平均68.4±7.6歳である.方法は,椅子座面を離殿したら計時を開始,起立相,歩行往路相,方向転換相,歩行復路相,着座相の5つの運動相に分け,椅子座面に着座して計時を終了とした.各運動相の所要時間は赤外線センサーとコンピュータを連動した機器を作製し,床上約15cmの赤外線を下腿部が横切ることで0秒~9.99秒~99.9秒まで自動計時できるようにした.原則2回測定して早い時間を採用した.全ての被験者からは書面による同意書を受けている.【結果】 1. 全所要時間平均6.4秒,起立相0.4秒,歩行往路相1.9秒,方向転換相1.2秒,歩行復路相2.1秒,着座相0.9秒であった. 2. これを全所要時間に対する各運動相の割合は起立相5.9%,歩行往路相29.5%,方向転換相18.6%,歩行復路相32.2%,着座相13.9%であった. 3. 各運動相を3つに統合すると起立着座19.8%,歩行往復61.75%,方向転換18.6%となった.【考察】 これまで,TUGは起立・歩行・方向転換・着座の複合的な動作能力として考えられてきたが,本研究からは、各運動相が等しい割合ではなく,大まかに起立・着座が2割,歩行が6割,方向転換が2割と考えられ,歩行速度を強く反映していることがいえる.そのためる先行研究によるTUGと歩行速度との有意な相関はこれらの割合の影響を受けたためと考える.後半の歩行復路相及び着座相が歩行往路相,起立相よりも遅くなるのは,椅子に腰かけるために減速することや体幹を回旋しながら着座することで時間を要していることが考えられる.また、自宅のような狭い空間でのTUG測定を考えた場合、計算上3m直進歩行路を1mに短縮すると、起立・着座速度が33.4%,歩行速度が35.1%,方向転換速度が31.5%になる.このようなことから狭い空間でのTUG測定が可能なTUG1m版の検討も意義あると考える.
著者
長岡 輝之 江原 義弘 小林 量作 関根 裕之 大西 秀明
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.299-304, 2009-10-20

【目的】本研究の目的は,滑り易い床面での歩行で,滑らないようにどのような身体機能を発揮しているのか,そのメカニズムを明らかにすることである。【方法】健常成人男性20名を対象とした。赤外線カメラ9台を含む三次元動作解析装置と床反力計を使用し,滑り難い床面での歩行および滑り易い床面での歩行を計測した。得られたデータより,股関節モーメントと床反力の作用線の関係を検討した。【結果】滑り易い床面での歩行では,床反力の推進力と制動力が滑り難い床面に比べ有意に小さくなり,逆に股関節の屈曲及び伸展モーメントのピークは有意に大きくなっていた。また,ピークは両側支持期であり,前方支持脚の伸展モーメント,後方支持脚の屈曲モーメントが増加していた。【結論】左右の下肢で前後に挟み込むようにすることで股関節モーメントを大きく発揮させていた。その結果床反力作用線が股関節軸から離れ,より鉛直に近く保持する戦略が用いられ,推進力と制動力を減少させていることが今回の研究で確認できた。