- 著者
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山田 結香子
地神 裕史
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement
- 巻号頁・発行日
- vol.2009, pp.H4P1229, 2010
【目的】本研究の目的は,立位及び歩行時における足圧分布を測定し,外反母趾変形による足部及び足趾へかかる圧を明らかにすることで,変形の増悪や有痛性外反母趾を引き起こす要因となりうるか検討することである.<BR>【方法】対象は日常生活における歩行に影響を及ぼす疾患のない健常成人女性18名とした.年齢21.6±0.6歳,身長160.1±3.5cm,体重52.9±6.2kg(平均値±標準偏差)であった.足部の形態学的評価として足長,第1趾側角度,アーチ高,アーチ高率,Leg-heel angle(以下LHA)を測定した.今回,X線計測に最も近い外反母趾角測定法とされている第1趾側角度において15°の基準を設け,15°以上を外反母趾群,15°未満を正常群として2群に分配した.足圧分布測定機器(BIG-MAT1/4,Nitta株式会社製)を使用し,静止立位を10秒間測定後,10m歩行路上にセンサーシートを固定し,歩行時に踏むように指示した.数回練習を行い,自然歩行にて3回測定した.前足部に加わる足圧分布を母趾球エリア,母趾エリア,第2~5趾エリア,その他のエリア,に4分割した.更に足趾を除いた部分を均等に3分割し,中間にあたる部分を土踏まずエリアとして,計5エリアに分割した.解析項目は,母趾に対する母趾球の圧を調べるために,それぞれに加わる圧の比率を母趾球/母趾比として算出した.歩行時における解析区画は,蹴り出し時に相当するheel off~toe off(以下HO~TO)とした.なお,各エリアにかかる荷重値を被験者の体重で除して正規化し,各エリアで得られたデータはそれぞれ加算平均した.<BR>【説明と同意】全被験者に対し,本研究の目的及び内容について事前に説明し,同意を得た.<BR>【結果】形態学的評価の結果,足長を除く,第1趾側角度,アーチ高,アーチ高率,LHAの項目で群間において有意差がみられた(p<0.01).母趾球と母趾に加わる圧の比率を母趾球の圧/母趾の圧(母趾球/母趾比)で算出した.静止立位及び歩行共に群間に有意差は得られなかった.しかし,各群でそれぞれ母趾圧に対する母趾球圧の大きさを検討したところ,静止立位では両群において,歩行時では外反母趾群において,母趾に対する母趾球の圧が有意に大きな値であった(p<0.01). <BR>【考察】静止立位及び,歩行における蹴り出し(HO~TO)の際の母趾と母趾球の使用割合を母趾球/母趾比として算出し,群間での比較と母趾圧に対する母趾球圧の割合を検討した.静止立位における体重の全体量は,まず距腿関節で距骨にかかり,そこからアーチの支持点方向へと3箇所に分散されていく.静止立位では足趾への荷重量は小さく,相対的に母趾球の荷重量が大きくなったことが考えられる.変形の増悪や有痛性外反母趾を引き起こす要因となり得る程の圧が加わっているとは考えにくく,外反母趾変形が静止立位時に足趾や足部に及ぼす影響は極めて小さいことが推察された.歩行における蹴り出し時,外反母趾群では母趾球にかかる圧が母趾にかかる圧に対し有意に大きい結果となった.これは外反母趾変形を有する足部では,歩行における蹴り出しの際に母趾球により多くの圧が加わることを示唆している.外反母趾変形では,形態学的変化に伴う母趾作動筋の位置変化により,母趾の機能不全が生じるといわれており,加えて,外反母趾変形を有する者の歩行では,母趾での蹴り出しが消失するとの報告もある.以上のことから,外反母趾変形を有する者は母趾球で踏み切っていると考えられる.この母趾球部での離床が歩行時推進期の度に生じるということは,母趾球部へ日常的に反復的なストレスが加わることになる.外反母趾の疼痛発生のメカニズムは,形態的異常の生じた部分と靴等との外部環境の間に過剰な負荷や異常な圧上昇が生じることによる.このことから,今回本研究で得られた,外反母趾変形を有する者の蹴り出しの際にみられる母趾球圧上昇は,更なる変形の増悪やそれに伴う有痛性外反母趾を引き起こす要因に成り得ることを示唆していると考える.<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究において,第1趾側角度が15°以上の者は,18人中7人みられたが,外反母趾を自覚し何らかの対策を講じている者は1人もみられなかった.このように,外反母趾は身近な問題でありながら,軽度で無痛性の場合,放置されがちである.有痛性外反母趾成因の一つとして,外反母趾変形を有する足部での歩行を検討していくことは,二次的な疼痛の出現や,更なる変形の進行を防ぐ上で非常に重要であると考える.<BR>