著者
志村 将 楢山 浩生 高國 憲二 中前 万奈美 山本 美帆 山本 祐司 河野 伸吾 本間 伸晴 中谷 祐子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E0441, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】本研究では長期療養型である当院においてPTとして関わりのある移乗・移動能力がQOLにどの程度関与しているのか検討する。【方法】対象は当院入院患者様96名。年齢23~97歳。平均68.3歳。脳血管障害62名、脊髄損傷8名、その他26名。QOLの評価表はSF-36を用い、移乗・移動能力の評価にはFIMを用いた。SF-36は面接法にて測定し、同日にFIMの移乗・移動項目を病棟聴取にて測定した。統計処理は、SF-36下位尺度平均得点をFIM移乗・移動の自立・介助に分けT検定で比較した。SF-36 の下位尺度(身体機能、日常生活機能身体、体の痛み、全体的健康感、活力、社会生活機能、日常生活機能精神、心の健康)とFIM移乗・移動での点数をスピアマン順位相関係数にて比較した。年齢別では、各年代別に分けて当院入院患者様と国民標準値のSF-36各得点をT検定にて比較した。認知面の検討では、認知症が診断されている者、過去のHDS-Rのデータから認知症が疑われる者の群(15名)とそうでない者の群(82名)に分け、両群のSF-36各平均得点とFIM移乗・移動の比較をT検定にて行った。【結果】SF-36下位尺度平均得点をFIM移乗・移動の自立・介助に分け比較をした結果、移乗・移動の自立・介助間で有意な差が認められた(P<0.05)。SF-36下位尺度の比較では、FIM移乗と身体機能(r=0.48,P<0.01)、FIM移動と身体機能(r=0.41,P<0.01)の比較にて相関が認められた。年齢別では、SF-36各得点の国民標準値との比較にて、有意な差は認めなかった(P>0.05)。認知の検討では、FIM移乗・移動得点とSF-36各平均得点の比較で、認知症が疑われない者で有意差(P<0.05)はあるが疑われる者で有意差は認めなかった(P>0.05)。【考察】FIM移乗、移動の自立・介助間で有意な差が認められたことから入院生活における移乗・移動能力は生活の質において重要な要素であることが示唆された。下位尺度においてもSF-36の身体機能得点とFIM移乗・移動得点との相関が認められたことから移乗・移動能力は身体機能得点に影響していることが示唆された。年代別での国民標準値との比較では、有意な差は認められなかったことから当院での入院生活においても全国的に平均なQOLが得られていることが示唆された。しかし国民標準値は70歳代までであり、それ以上の比較が困難であったことから当院入院患者様に合った評価表の検討も必要であると考える。認知面での検討では、認知力低下が疑われる者にQOLとFIM移乗・移動得点の有意差が認められなかった理由として自らの身体面、精神面を正確に把握できていなかったためだと考えられる。【まとめ】今回の研究では、移乗・移動能力という面の運動能力とQOLとの相関が認められました。今後の課題は、認知面の評価を十分に行い、精神面とのつながりを明らかにする。それを踏まえた上で介入前後の比較を検討し、PTとしての関わりに継げていきたいと考えます。