著者
岡崎 健二 楢府 龍雄
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.72, no.619, pp.257-262, 2007
被引用文献数
4

2004年末に発生したスマトラ島沖の地震及び津波により、インドネシアのアチェでは、約22万人が死亡・行方不明、住宅約27万戸が全半壊という甚大な被害を受けた。現在、住宅再建を中心に復興の努力が続けられているが、アチェ復興庁(BRR)による復興プロジェクトの調整は必ずしも順調ではなく、また大量の建設需要に伴う材料不足・労働力不足等により、再建住宅の質の低下も懸念される。地震国であるインドネシアにおいて、耐震性のある住宅を建設し、地震に強い地域社会をつくるまたとない機会でもある。このため、政策研究大学院大学及び独立行政法人建築研究所の共同調査研究として、インドネシアのバンドン工科大学の協力により、住宅(RCフレームのレンガ造が主流)を中心とする建築物の再建の実態を明らかにするため、現地調査、材料試験、構造安全性の評価、ワークショップの開催等を行った。この結果は、以下のようなものである。1.被害地域のニーズを的確に把握しないまま各種の復興プロジェクトが実施されている。また、インフラの配慮がない住宅建設プロジェクトもある。この結果、完成しても入居者がいないといったことが見受けられる。2.援助機関の指示により材料や部品を輸入している場合、将来の維持管理に問題が残る。3.骨材の粒度分布、水セメント比等が不適切なため、コンクリートやモルタルの強度が十分ではない。鉄筋についても、建築基準を満たしていない場合が多い。煉瓦の質も不十分で、水で溶けた煉瓦も見受けられた。このため構造安全性に問題があり、将来の地震時の甚大な被害が懸念される。4.十分な知識と技能を持たない建築労働者により、住宅の質が低下している。5.工事監理も適切に行われていない。災害復興のため、通常であれば必要な建築許可も不要である。6.構造解析のケーススタディ(弾性範囲のモーダル・アナリシス)によれば、適切な設計、材料、施工により、アチェの厳しい条件下であっても、インドネシアの基準類に適合した構造は実現可能である。今後、復興住宅の建設に関して、住民の意識向上、関係主体間の連携の強化、建築技術の普及、建築基準の遵守などに早急に取り組む必要がある。