著者
土井(大橋) 雅津代 榑林 陽一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.4, pp.194-198, 2009 (Released:2009-04-14)
参考文献数
25

過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:IBS)は,機能性消化管障害に分類され,便通異常(便秘や下痢)と慢性的な腹痛(内臓知覚過敏)を伴う疾患である.IBSの発症原因を特定することは難しいが,社会ストレスあるいは腸管内の感染・炎症が引き金となり,自律神経系や腸管内神経系に支障を与え発症するのではないかと考えられている.薬物治療は,消化管運動異常を改善する対症療法が主であり,慢性腹痛に対しては未だ治療法は確立されておらず,患者のQOLを低下させる原因となっている.基礎研究においては,IBSに類似した病態モデルの作成が急務であったが,近年になってストレスや炎症を利用した内臓知覚過敏モデルが作成され,内臓知覚過敏改善を目的とした創薬研究に応用されている.本稿では,IBSに伴う内臓痛覚過敏症の特徴につい概説すると共に,IBSの新しい病態モデルについて紹介する.
著者
大橋 雅津代 佐藤 靖 岩田 博司 河合 光久 榑林 陽一
出版者
Japanese Society of Veterinary Science
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.69, no.12, pp.1223-1228, 2007-12-25
被引用文献数
4 23

2、4、6-trinitrobenzene sulfonic acid(TNBS)をラットの近位大腸内に投与すると、遠位大腸の伸展刺激に対する痛み感受性の有意な増大が認められた。TNBSに直接暴露された近位大腸には粘膜壊死と炎症性細胞浸潤が認められ、組織中ミエロパーオキシダーゼの有意な増加が認められた。一方、遠位大腸には粘膜壊死は発生せず、ミエロパーオキシダーゼ含量の増加も認められなかったが、トルイジンブルー陽性粘膜型肥満細胞が有意に増加していた。さらに遠位大腸組織を器官培養し、粘膜型肥満細胞脱顆粒の特異的なマーカーであるrat mast cell protease-2(RMCP-2)の遊離量を測定したところ、TNBS処置ラットでは正常対象値と比較して有意なRMCP-2遊離量の増加が認められた。また、肥満細胞安定化作用を持つデドキサントラゾールの皮下投与によりTNBS誘発大腸過敏は有意かつ用量依存的に抑制された。以上の成績から、脱顆粒亢進を伴った大腸粘膜肥満細胞浸潤によるメディエーター遊離亢進がTNBSによる大腸過敏症の発現に関与していることが示唆された。