著者
樋脇 治
出版者
広島市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

近年、磁場が生体へ及ぼす作用のひとつとして脳の松果体で産生されるホルモンであるメラトニンの量が磁場により影響を受けることが明らかにされてきている。通常メラトニンは昼間よりも夜間に盛んに産生されるが磁場照射により夜間のメラトニン産生が抑制されることがラット等を使った実験により確かめられている。本研究では、生体への静磁場・変動磁場の影響について特に体内時計の中枢である視交叉上核の電気活動に着目した。磁場が生体へ影響を及ぼす過程には視交叉上核が重要な位置を占めていると考えられるが、まだ磁場と視交叉上核の関連についてはほとんど研究が行なわれていない。まず、静磁場の視交叉上核の電気活動への影響を調べた。強度100μTの静磁場を体軸方向・水平面内で体軸と垂直方向・鉛直方向の3方向に生成した。立ち上がり10秒・立ち下がり10秒・期間5分の磁場を30分間隔でそれぞれの方向に照射した。このときの視交叉上核における自発インパルス数を計測した。その結果、視交叉上核のインパルス数は吻側・尾側・右側・左側方向の水平方向の磁場照射に対して増加するものの背側・腹側方向の鉛直方向の磁場照射に対しては変化しなかった。次に、商用周波数磁場の照射実験として、50Hz,Peak-to-Peak40μTの磁場を照射する実験を行った。地磁気と同程度の強度である40μTの鉛直下向きの直流磁場に加え、50Hz磁場の方向が、体軸と平行な方向(X軸方向)、水平面内で体軸と垂直な方向(Y軸方向)、鉛直方向(Z軸方向)になるように磁場を照射する実験をそれぞれ行った。その結果、Z軸方向に50Hz磁場を照射した実験では視交叉上核の概日リズムに変化は見られなかったが、XおよびY軸方向に50Hz磁場を照射した場合,視交叉上核の慨日リズムに顕著な乱れが観察された。
著者
樋脇 治 上野 照剛
出版者
公益社団法人 日本磁気学会
雑誌
日本応用磁気学会誌 (ISSN:02850192)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.570-575, 1992-06-01 (Released:2013-01-11)
参考文献数
8
被引用文献数
2 2

This study focused on the properties of nerve excitation responding to pulsed electric fields induced by time-varying magnetic fields. We carried out magnetic stimulation of the human brachial plexus by localized and vectorial stimulation using a sequence of rectangular electric fields induced by trapezoidal magnetic fields. The results show that the nerve excitation is suppressed when plateau of trapezoid is shorter than a critical value. We introduced a model to explain this phenomenon. The nerve excitation elicited by magnetically induced electric fields was simulated. A computer simulation shows that the threshold for nerve excitation elicited by the trapezoidal magnetic field decreases with the increase of plateau of the trapezoidal magnetic field.
著者
樋脇 治
出版者
広島市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

体内時計に関連する脳機能に対して電磁界が及ぼす影響について研究を行った。主に、パルス磁界を大脳皮質に照射したときの脳機能の特性について実験および理論的な検討を行った。神経細胞がパルス磁界により膜電位が変化するモデルを用いたシミュレーション解析結果に基づき、大脳皮質がパルス磁界に反応する特性について検討を行なった。大脳皮質には、主に信号の入出力の役割を担っている錐体細胞が大脳皮質表面に垂直に走行しているが、この錐体細胞のパルス磁界に対する反応特性について検討した。その結果、パルス磁界により二次的に誘導される電界の大脳皮質に垂直な成分が錐体細胞の膜電位変化に大きく関与しており、誘導電界の大脳皮質に垂直な成分の大きさの分布を算出することにより大脳皮質がパルス磁界により影響を受ける部位を検出できることを明らかにした。この結果に基づき、一次運動野を対象としてパルス磁界による刺激実験を行い、腕および手の誘発筋電図を指標としてパルス磁気が脳活動に与える影響を評価した。被験者の頭部右側にパルス磁気を8字型コイルにより照射し、左の腕および手から誘発筋電図を表面電極により計測した。その結果、一次運動野内において対象の筋を支配すると推定された部位における誘導電界の脳表面に対する垂直成分が最大となるようにパルス磁気の照射を行ったときに対象の筋に大きな振幅の筋電図が計測されることを確認した。これらの結果より、パルス磁気を脳に照射したとき、大脳皮質のそれぞれの部位における誘導電界の脳表面に対する垂直成分が大脳皮質の機能に影響を与える主な要因であることを見出した。今後、この知見を基にして視交叉上核を含む体内時計システムへのパルス磁界の影響について研究を継続して行なう予定である。
著者
福田 浩士 小田垣 雅人 樋脇 治
出版者
公益社団法人 日本生体医工学会
雑誌
生体医工学 (ISSN:1347443X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.6, pp.684-689, 2008-12-10 (Released:2009-05-22)
参考文献数
8

Using high-density electroencephalography (EEG) , the brain regions involved in tapping of the index fingers were investigated. Subjects were requested to perform voluntary alternate tapping movements with both index fingers as fast as possible. During the task, the tapping mode in which both index fingers moved simultaneously was interlaced. The alternate tapping (A-mode) and simultaneous tapping (S-mode) groups were extracted using a histogram of the inter-tapping intervals. EEG coherence was used to evaluate functional connectivity between cortical regions. Compared with the S-mode, connectivity increased significantly in the A-mode in the mesial-central circuitry including the supplementary motor area (SMA) and the primary motor area (M1) , in the fronto-centroparietal circuitry including the primary somatosensory area (S1) and the premotor area (PM) , and in the fronto-central circuitry including the PM and M1 in the dominant hemisphere. In addition, interhemispheric connectivity increased in the PMs of both hemispheres. These findings indicate that the connectivity involved in the internal onset of the movement (SMA-M1) , in the sensori-motor integration (S1-PM, PM-M1) and in the phase planning (both PMs) is associated with the involuntary switching between A-mode and S-mode.