著者
横山 拓真 橋本 千絵 古市 剛史
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第36回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.22, 2020 (Released:2021-04-23)

ボノボは類人猿の中で唯一、メス中心社会を築いている。メスの社会的順位はオスと同等またはそれ以上であり、社会的交渉や性的交渉、遊動の主導権はメスが握ると言われ、このようなメスの特徴が平和的な社会を維持するのに重要だとされている。またボノボは、交尾を繁殖目的だけではなく、食物分配のために行うなど、社会的機能を含むことがあり、メス同士では「ホカホカ」と呼ばれる特徴的な社会的・性的交渉が観察される。さらに、ボノボのメスには「ニセ発情」と呼ばれる、排卵を伴わずに性皮を腫脹させる特徴的な生理状態がある。チンパンジーと比較すると、ボノボは社会構造、社会的・性的交渉、メスの生理状態において大きく異なる特徴を持つ。 これまでの遺伝的研究では、ボノボの子どもの50%以上はアルファオスの子どもであるため、高順位オスは効率的に交尾を独占しているだろうと言われていた。一方で、行動観察からは、ボノボは常に複数のメスが同時に性皮を腫脹させているため、高順位オスは交尾を独占できないだろうとも言われていた。また、「ホカホカ」は社会的緊張の緩和や順位誇示など、複合的な機能があると考えられてきた。しかし、ボノボの社会的・性的交渉をメスの生理状態と行動学の見地から分析した研究は少ない。 本研究では、コンゴ民共和国ルオー学術保護区にて、ボノボの交尾と「ホカホカ」における相手選択の傾向と、メスの生理状態との関連を分析した。その結果、高順位オスは相手のメスの生理状態に関わらず、独占的に交尾をしている傾向が見られた。また、「ホカホカ」では、高順位メスが誘いかけることが多く、他の調査地で見られるような、マウントポジションを取ることによる順位誇示は行われていないことが明らかになった。
著者
横山 拓真 安本 暁 古市 剛史
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第35回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.33, 2019-07-01 (Released:2020-03-21)

野生ボノボの研究をしているフィールドサイトは多く、長期的な研究を継続しているフィールドがあるにも関わらず、ボノボがオトナボノボの死体に遭遇した際に示す行動を記述した報告はこれまでになかった。そもそも熱帯雨林に生息するボノボの死体は腐敗が早く、また死期が近い個体は集団遊動についてこなくなるため、発見・観察が困難になると考えられる。離乳前の子どもが死亡した場合、ボノボが死児運びを行うことは少なくなく、また共食いも報告されている。さらに、傷を負って消失した仲間を探すために、集団遊動をした事例も報告されている。また、ボノボは同種の死体だけでなく、他種の死体に対しても多様な反応を示すことがある。本発表の主な目的は、オトナボノボの死体発見時から2日間にわたる定点観察によって記録した、死体に対する仲間の反応を示すことである。死体発見時は、オトナメスとその子どもが死体を触っており、他の仲間は周囲から死体を眺めていたが、フィールドアシスタントが近づくとボノボたちは逃げてしまった。研究者の適切な指示のもと、死体は発見された場所に埋められた。しかし翌日、死体の仲間たちは計二回、その場所に戻ってきて数時間もの間、死体を探すような行動を見せたり、毛づくろい行動や休息をしたりしていた。死体に対する仲間の反応は、ボノボ以外の霊長類でも報告があり、時に情動的な行動を示すこともある。本発表の事例はボノボだけではなく、ヒトにおける死生観の進化について考察するためのヒントになるだろう。