著者
橋本 千絵 古市 剛史
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

ヒトに最も系統的に近いチンパンジーにみられる「妊娠しにくい」形質の進化の解明のため、ウガンダ共和国カリンズ森林保護区に生息する野生チンパンジーを対象に、直接観察によるメスの性行動のデータと、ヒト用妊娠検査キットを用いた妊娠時期の判定とをあわせて分析した。さらに、妊娠検査キットによる妊娠判定を一歩進め、2009年度より尿や糞試料によるホルモン分析の予備調査を行った。
著者
横山 拓真 橋本 千絵 古市 剛史
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第36回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.22, 2020 (Released:2021-04-23)

ボノボは類人猿の中で唯一、メス中心社会を築いている。メスの社会的順位はオスと同等またはそれ以上であり、社会的交渉や性的交渉、遊動の主導権はメスが握ると言われ、このようなメスの特徴が平和的な社会を維持するのに重要だとされている。またボノボは、交尾を繁殖目的だけではなく、食物分配のために行うなど、社会的機能を含むことがあり、メス同士では「ホカホカ」と呼ばれる特徴的な社会的・性的交渉が観察される。さらに、ボノボのメスには「ニセ発情」と呼ばれる、排卵を伴わずに性皮を腫脹させる特徴的な生理状態がある。チンパンジーと比較すると、ボノボは社会構造、社会的・性的交渉、メスの生理状態において大きく異なる特徴を持つ。 これまでの遺伝的研究では、ボノボの子どもの50%以上はアルファオスの子どもであるため、高順位オスは効率的に交尾を独占しているだろうと言われていた。一方で、行動観察からは、ボノボは常に複数のメスが同時に性皮を腫脹させているため、高順位オスは交尾を独占できないだろうとも言われていた。また、「ホカホカ」は社会的緊張の緩和や順位誇示など、複合的な機能があると考えられてきた。しかし、ボノボの社会的・性的交渉をメスの生理状態と行動学の見地から分析した研究は少ない。 本研究では、コンゴ民共和国ルオー学術保護区にて、ボノボの交尾と「ホカホカ」における相手選択の傾向と、メスの生理状態との関連を分析した。その結果、高順位オスは相手のメスの生理状態に関わらず、独占的に交尾をしている傾向が見られた。また、「ホカホカ」では、高順位メスが誘いかけることが多く、他の調査地で見られるような、マウントポジションを取ることによる順位誇示は行われていないことが明らかになった。
著者
橋本 千絵 古市 剛史
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.17-22, 2000 (Released:2009-09-07)
参考文献数
6
被引用文献数
1 2

We captured 26 males for marking with tattoo using a blowpipe dart containing anesthetic. Individuals shot with a blowpipe got temporarily disabled. When these individuals were released still being disabled, members of the same troop showed various attitudes toward them. Only young males of 5 to 9 years old received aggressive behaviors. Aggressors were also young males of 7 to 8 years old, and they showed both aggressive and affinitive behaviors against the disabled individuals. An adult male and adult females showed only affinitive behaviors, and they protected the disabled individuals from the attack by young males. Close and unstable dominance relationships might cause the aggressive interactions between young males.
著者
横山 拓真 安本 暁 古市 剛史
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第35回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.33, 2019-07-01 (Released:2020-03-21)

野生ボノボの研究をしているフィールドサイトは多く、長期的な研究を継続しているフィールドがあるにも関わらず、ボノボがオトナボノボの死体に遭遇した際に示す行動を記述した報告はこれまでになかった。そもそも熱帯雨林に生息するボノボの死体は腐敗が早く、また死期が近い個体は集団遊動についてこなくなるため、発見・観察が困難になると考えられる。離乳前の子どもが死亡した場合、ボノボが死児運びを行うことは少なくなく、また共食いも報告されている。さらに、傷を負って消失した仲間を探すために、集団遊動をした事例も報告されている。また、ボノボは同種の死体だけでなく、他種の死体に対しても多様な反応を示すことがある。本発表の主な目的は、オトナボノボの死体発見時から2日間にわたる定点観察によって記録した、死体に対する仲間の反応を示すことである。死体発見時は、オトナメスとその子どもが死体を触っており、他の仲間は周囲から死体を眺めていたが、フィールドアシスタントが近づくとボノボたちは逃げてしまった。研究者の適切な指示のもと、死体は発見された場所に埋められた。しかし翌日、死体の仲間たちは計二回、その場所に戻ってきて数時間もの間、死体を探すような行動を見せたり、毛づくろい行動や休息をしたりしていた。死体に対する仲間の反応は、ボノボ以外の霊長類でも報告があり、時に情動的な行動を示すこともある。本発表の事例はボノボだけではなく、ヒトにおける死生観の進化について考察するためのヒントになるだろう。
著者
古市 剛史
出版者
明治学院大学国際平和研究所
雑誌
PRIME = プライム (ISSN:13404245)
巻号頁・発行日
no.27, pp.15-19, 2008-03

特集1 : 世界の中の憲法9条 : 9条について考えること
著者
橋本 千絵 古市 剛史
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.259-269, 2001 (Released:2009-09-07)
参考文献数
33
被引用文献数
1 5

We examined the 20-years records of female transfer of wild bonobos at Wamba, D. R. Congo. Most females left their natal group between 6 and 9 years old, and immigrated into new groups between 10 and 12 years. Females seemed to travel several groups before settling in a new group. After settling down, they start reproduction and will not transfer to other groups for the rest of their life. We examined average of coefficient of consanguinity of males with whom females may copulate in new groups. The probability of inbreeding drastically decreases when a female transfers groups, and it decreases according to the amount of intergroup travel. Differences in female transfer pattern between bonobos and chimpanzees seem to be due to the differences in the risks of traveling alone, such as predators, social relationships between females, and high social status of females. The balance between cost and benefit of intergroup transfer may determine philopatric social structure in chimpanzees and bonobos.
著者
橋本 千絵 古市 剛史
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第20回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.20, 2004 (Released:2005-06-30)

これまでの研究から、チンパンジーの交尾パターンには、「高順位オスによる独占的な交尾」、「機会的な交尾」、「コンソートによる交尾」の3つがあるといわれている。ウガンダ・カリンズ森林では、これまで3年にわたって、チンパンジーのメスが高頻度に交尾を行うことが観察されてきた。これまで行った分析によると、オトナオス同士の順位があまり明確でないこと、また、オトナのオスの数が多い(20頭)ということが、このような高頻度交尾の原因になっていると考えられた。本発表では、実際にメスがどのような状況でこのような高頻度交尾を行っているかを明らかにしたい。調査は、2001年から2003年にかけて、ウガンダ共和国カリンズ森林において、Mグループを対象として行った。発情しているメスを終日個体追跡を行った。メスの発情が続いている限りは、連続して追跡を行った。すべての交尾について、その前後のオスとメスとの交渉パターンを記録した。また、5分毎に、対象メスの行動と、周り5m以内にいる個体の行動を記録した。発情メスが見られない日には、非発情メスについて、行動と周りの個体についての記録を行った。発情期間中、メスはあまり採食をせず休息やオスとのグルーミングを行う時間が長かった。発情メスと非発情メスとの行動の違い、1日の中での交尾の頻度や行動の変化、周りにどういう個体がいるか、どういったオスが交尾を行っているのか、という点についても分析を行い、考察する。
著者
古市 剛史 黒田 末寿 伊谷 原一 橋本 千絵 田代 靖子 坂巻 哲也 辻 大和
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

ボノボ3集団と、チンパンジー2集団を主な対象として、集団間・集団内の敵対的・融和的交渉について研究した。ボノボでは、集団の遭遇時に融和的交渉が見られるが、その頻度やタイプは集団の組み合わせによって異なり、地域コミュニティ内に一様でない構造が見られた。チンパンジーでは、集団間の遭遇は例外なく敵対的であり、オスたちが単独で行動するメスを拉致しようとするような行動も見られた。両種でこれまでに報告された152例の集団間・集団内の殺しを分析したところ、意図的な殺しはチンパンジーでしか確認されていないこと、両種間の違いは、環境要因や人為的影響によるものではなく生得的なものであることが明らかになった。