著者
横瀬 利枝子
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.54-62, 2013

本稿では、国のハンセン病患者に対する強制隔離政策が続く中、社会復帰を果たした6名の女性に聞き取り調査を行い、女性退所者特有の苦悩を検討した。その結果、誤った医療政策の影響から、多くの女性は、退所後も子どもを持てないと考えており、子どもを産んだ女性も、周囲からの羨望と嫉妬に苦しんでいた。また、関係性を解体された女性たちは、今も母親との関係回復ができず、他者との関わり方に困惑していた。さらに、女性たちは今、国から受けた艱難と、国費による安堵な生活との狭間で葛藤していた。また療養所の内外を問わず、女性たちは、女性同士の相互監視のような確執に翻弄されていた。疎外は、疎外された人々の中にも生まれている。一方、多くの女性が、夫との関係は、性差も責任も五分五分で、同じ病を経験した同志であると語った。この傾向は男性にも見られた。この意識こそが、これまで女性特有の苦悩が見え難かった所以の一つと推測される。
著者
横瀬 利枝子
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.60-70, 2009-09-22 (Released:2017-04-27)
参考文献数
31
被引用文献数
1

介護の外部化・社会化が進行する現在においても、家族は主要な福祉の担い手と位置づけられており、その介護責任は多くの場合女性が担うことが期待されてきた。認知症は、その進行の仕方や症状には非常に個人差はあるが、様々の精神神経症状および言語・感情・行動・人格の異常・変化がみられる。そのような変化を伴う母親の認知症の介護において、娘介護者特有の喪失感、負担感、母親の認知症発症以前から施設入所決意に到った過程、それに伴う母と娘の関係性の変化を検証・分析した。さらに、それらの状況を通して見えてくる、現在の介護が抱える問題点を明らかにするとともに、娘介護者の負担を軽減し、母娘双方のいのちの尊厳を守り、次世代へ受け継ぐための方策を検討した。その結果、介護施設利用に至るプロセスには娘介護者特有の葛藤と時系列的順序性が見出されること、認知症発症以前から施設入所後の見守りに至る母と娘の関係性には、娘の語りから、4タイプの関係性が抽出され、それぞれの関係性が少なからず介護状況に影響を及ぼしていることが明らかになった。
著者
横瀬 利枝子
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.113-122, 2015

<p> 本研究では、若年性認知症者の配偶者の俳回による行方不明を経験した8名の介護者に、聞き取り調査をおこない、俳回を伴う介護の壮絶な状況、予期せぬ行方不明当時の状況、支援について、本人および介護者の苦闘と倫理的課題を検討するとともに、家族の会などがおこなっている市民主体の共助の取り組みについても検討した。その結果、対象者の誰もが苛酷な24時間介護を続ける中、一瞬の気の緩みによって、配偶者の行方不明を経験していた。警察への捜索願を繰り返しながら、眠れぬ日々の中で、経済的困窮が迫りくる。対象者の誰もが、今生の別れの予感を経験していた。家族が次第に忘れられる事例も多く、患者、家族双方にとって苦闘の日々が続く。しかし、若年性認知症への理解が進まず支援体制が整わない中で、対象者の多くが疲弊し、介護の限界を超えていたにもかかわらず、誰もが自らの介護への内省を語った。市民共助の取り組みも始まっている。</p>