著者
河村 洋子 横田 康成 亀谷 謙 竹田 寛 松村 要
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. MBE, MEとバイオサイバネティックス (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.99, no.493, pp.45-52, 1999-12-11

自己が認識している性,つまり心理学的な性が身体的な性,つまり生物学的な性と異なる症例を性同一性障害と言う.こうした障害の診断やその患者に対する性別再判定手術(性転換手術)の適用の可否の決定には,複数の精神科医による患者との診断面接が基本的手段として用いられているのが現状であり,診断の確実性を向上させるため,心理学的な性を客観的かつ定量的手段により同定する手法の確立が急務とされている.古くから左右大脳半球を連結する脳梁の形状に性差があるといわれ,それが心理学的な性の同定に利用できると期待されてきたが,脳梁形状に有意な生物学的性差があることもいまだ明確にされていない.本稿では,脳梁形状をフーリェ記述子,中心モーメントを用いて記述し,その生物学的性差を調査した.その結果,男性より女性の方が脳梁が有意に前傾している傾向にあることを見出し,脳梁の主軸方位を特徴量として用いる生物学的な性の推定法を提案した.主軸方位の情報を利用しない場合,性別同定における識別率は約60%であることに対し,提案法では約70%の識別率で性別を推定可能であることが示された.このことは,これまで指摘されてきた脳梁形状そのものの性差に加え,脳梁の頭蓋内における配置に大きな性差がある可能性を示唆しており,まったく新たな知見を与えている.
著者
河村 洋子 横田 康成 亀谷 謙 松村 要
出版者
一般社団法人 日本生体医工学会
雑誌
医用電子と生体工学 (ISSN:00213292)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.56-65, 2001 (Released:2011-10-14)
参考文献数
21

Gender identity disorder (GID) is a condition in which sex differs from gender identity. The basic methodology used to diagnose such a disorder involves examination by more than one psychiatrist. It is necessary to develop objective, quantitative criteria for diagnostics in order to improve the credibility of diagnosis, and to aid in decisions as to whether a patient is eligible for sex reassignment surgery. It has long been believed that there are sex-related differences in the shape and size of the corpus callosum (which interconnects the two cerebral hemispheres), and that these differences could form the basis of an objective, quantitative diagnostic technique. Unfortunately, there are, as yet, no established methods. In this study, we used MRI to investigate sex-related differences in the corpus callosum. We described the callosal figures at the midsagittal plane, using Fourier descriptors and central moments to represent the shape. We found that females have stooping corpus callosum relative to males, at a significance level of 10-14. This suggests that sex-related differences in the corpus callosum may consist of differences in the callosal configurations in the cranium, rather than the shape and size of the corpus callosum. Furthermore, using statistical tests (a likelihood ratio test, Kruskal-Wallis test and Mann-Whitney test), we found that most of the GID subjects in our study (MTF, 4; FTM, 11) have a principal orientation of the corpus callosum that is closer to female than male in sex. This means that the callosal principal orientation may qualify as an objective, quantitative criterion for MTF diagnosis.
著者
河村 洋子 横田 康成 亀谷 謙
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. NC, ニューロコンピューティング (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.105, no.659, pp.85-90, 2006-03-10

性同一性障害(以下,GID)の診断では,診断精度向上と迅速な診断を実現するため,心理的性(gender)の客観的かつ定量的な評価法が必要とされる.本稿では,正常男女とGIDを有する被験者の頭部MRIを用いて,正中矢状断における脳梁形状の性差を調査した.まず,脳梁形状をフーリエ記述子で表現し,ソフトマージンをもつ線形サポートベクタマシンを用いて,フーリエ記述子によって張られるベクトル空間において,正常男女の標本群を最も良く分離する超平面を決定した.各被験者の脳梁形状を得られた超平面に直交する線形部分空間に正射影した座標を,正常男女の生物学的性(sex)差を最も顕著に表す特徴量として定義した.さらに,GID患者に対し,この特徴量の値を調べた結果,この特徴量は,生物学的性差ではなく心理的性差を反映することが示された.このことは,提案した特徴量を用いて心理的「性」の推定が可能,更には,GID診断の客観的尺度として利用できることを意味する.
著者
横田 正恵 横田 康成
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. NC, ニューロコンピューティング (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.108, no.383, pp.61-66, 2009-01-12

視野周辺部に,その周辺とは異なる特性を持つ小領域を呈示すると,条件によっては,数秒の間に小領域が消滅し周辺テクスチャが充填されて知覚される現象がfilling-inである.Filling-in時間を計測する実験を行う際,被験者の固視を保つことは重要であり,眼球運動がfilling-inに影響することは知られているが,眼球運動とfilling-in時間との関係は,明らかにされていない.Filling-inの眼球運動への依存性を調べることは,filling-in発生過程の解明に不可欠であり,filling-inの各種特性を考察する上でも重要である.本研究では,filling-in時間を計測する実験を行い,そのときの眼球運動を記録した.その結果を解析したところ,眼球位置とfilling-in時間の間には,正の相関が認められた.また,眼球運動の低周波成分よりも高周波成分が,filling-in時間に強く影響することが分かり,filling-inの発生には眼球運動固視微動が大きく関与する能性が示唆された.
著者
横田 正恵 横田 康成
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. NC, ニューロコンピューティング (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.106, no.501, pp.81-86, 2007-01-19

Filling-inが発生することにより,視覚系では効率的な情報獲得・処理が実現されていると考えられる.その発生機構を解明するために,これまでに視野周辺部で発生するfilling-inを対象に,呈示する動画像に対するfilling-inの発生特性が調べられている.こうした実験では,filling-inの起こりやすさの尺度として,filling-inが起こるまでの時間(filling-in時間)が採用されている.これまでの著者らの研究から,filling-in時間は被験者の固視の状態に影響を受けることが示唆されている.しかし,これまでに眼球運動をモニタリングしながらfilling-in時間を計測した例はなく,眼球運動とfilling-inの起こりやすさとの関連は,明らかになっていない.本研究では,被験者の固視を容易に保つ環状filling-in対象を用い,時空間周波数が異なる複数の動的テキスチャに対しfilling-in時間を記録した.このとき,EOG法により,同時に被験者の眼球運動を記録した,Filling-in時間と眼球運動の関係を解析したところ,視線変位とfilling-in時間との間に弱い相関が認められた.