著者
橋本 良二 玉泉 幸一郎
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.153-162, 1995-03-01
被引用文献数
2

22年生スギ林分の20個体について、樹冠下の幹の枝節解析を行うことにより、樹冠底高や樹冠長のほか、地上部各器官の重量、成長量、枯死・脱落量の経年変化を調べ、林冠の発達過程や器官成長様式の推移を議論した。個体の純生産率は、樹冠葉量の増減や樹冠構造の転換により変化し、「減少-安定-上昇-安定」の経過をたどる。このことから、林冠発達過程は、純生産率の変化を根拠として明確に4期に区分される。個体の幹成長への物質配分率は、純生産率と樹冠新葉率の関数として表され、前者が大きく後者が小さいほど高い値をとる。幹配分率は、林冠発達過程の第1期では新葉來の低下により上昇する。第2期以降では、幹配分率は純生産率の影響を強く受けそれと同様の変化パターンを示し、第2期で安定、第3期で上昇、第4期で安定の傾向を示す。第4期における幹配分率は、0.40〜0.65の範囲にあり、個体間差は純生産率の変動にほぼ支配され、上、中、下層木間のちがいは極端な被圧木を除けば明らかではない。
著者
阿部 信之 橋本 良二
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.632-638, 2005-05-31
被引用文献数
2 3

上層木を強くすかした林地にコナラ果実を播き付け, 落葉被覆が実生の発生と成長に及ぼす影響を調べた。また, 圃場で, 落葉被覆が地表下3cmの土壌の温度とpF値に及ぼす影響を調べた。落葉被覆の影響は, 土壌のpF値に対して顕著であった。被覆量200gm^<-2>以下では土壌乾燥は急速に進んだ。一方, 400gm^<-2>以上では土壌乾燥は大きく抑制された。実生の発生率は, 被覆量90gm^<-2>では5%であったが, 被覆量180gm^<-2>および360gm^<-2>ではともに40%を示した。1成長期を経た実生重は, 被覆量によって異なり, 360gm^<-2>では180gm^<-2>に比べ20%近く大きかった。実生重については, 果実重や実生発生時期のほかに, シュート伸長様式が関与しており, 落葉被覆は実生発生時期と二次伸長の促進にかかわっていた。厚い落葉被覆は, 実生発生時期を遅らせるが, 二次伸長を促進した。厚い落葉被覆がもたらす土壌の湿潤性が, 二次伸長の促進を通して, 実生の成長量を増加させると考えた。
著者
橋本 良二 山口 礼子 佐藤 典生
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.81, no.3, pp.169-177, 1999-08-16

岩手県鴬宿地方のミズナラ-ヒバ林におけるヒバ稚樹の伏条繁殖クランプの出現状態とその更新パターンについて, アイソザイム変異をもとに検討した。変異分析は5酵素種6遺伝子座によりなされ, 全サンプルを通じて66種類のMLG(multilocうs genotype)を得た。尾根部の稚樹のMLGグループでは, 同一MLGの稚樹がランダム分布するグループと集中分布するグループがあった。斜面部では, 同一MLGの稚樹が集中分布するグループがほとんどすべてであり, 伏条繁殖クランプが分布の単位になっていると考えた。斜面部の立木についても, 同一MLGの立木が数本ずつまとまって分布するグループが多かった。しかし, 同一MLGの立木と稚樹との間には, 明らかな分布重なり合いは認められなかった。これらの結果から, 斜面部林分でのヒバの更新には伏条繁殖クランプが大きく関与したことは明らかで, 更新過程ではクランプ内のごく小数の稚樹が立木へと成長し残りはすべて枯死するパターンが多かったと考えた。
著者
阿部 信之 橋本 良二
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.484-491, 2008-02-29

播種時におけるコナラ種子の乾燥が,芽生えの発達経過や成長量にどのように影響するかを調べた。播種から出芽までの期間は,無乾燥に比べ弱度の乾燥でむしろ短くなり,さらに乾燥日数が増すと長くなった。播種から出芽までの期間の長い芽生えでは上胚軸伸長期間や展葉期間は短くなった。しかし,播種から展葉終了までの全期間は,播種から出芽までの期間に依存していた。種子乾燥にともなう播種から出芽までの期間の増大は,種子の脱水率の増大で説明されなかった。種子乾燥がもたらす芽生えの成長量の低下については,播種から出芽までの期間の長期化と脱水率の増大がそれぞれ関係していた。乾燥にともなう不出芽種子の出現状況を考えあわせ,播種に際しては,乾燥日数で5日間,脱水率では10%に至らない取り扱いが,一応の目安になると判断した。