著者
櫻井 悟史
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.91-105, 2017 (Released:2018-10-31)

本稿では,なぜ日本は死刑を存置し続けるのかという問いについて検討する.特に1948年3月12日 の最高裁判所での新憲法下における死刑制度合憲判決に着眼し,当時の死刑/絞首刑と「残虐」観が いかなる関係にあったのかについて,占領期という歴史的・社会的背景(=「時代と環境」)から読み 解くことを目的とする. 分析対象は,アメリカ国立公文書館Ⅱの資料,当時の刑法学者たちの論文,アルフレッド・オプラー の回想,朝日新聞・読売新聞といった新聞記事である. 分析の結果,先行研究で指摘されるような占領期に死刑廃止の機会を逸したというよりはむしろ, 占領期という「時代と環境」が死刑制度を存置する要因の一つであったことが明らかとなった. アメリカではすでに絞首刑が廃 すた れて久しいことに鑑みるなら,死刑制度合憲判決が出された当時の 「時代と環境」は大きく変わったと考えられる.それゆえ,法学的な視点のみならず,歴史的社会的な 視点からも,死刑制度合憲判決における「時代と環境」を再考する必要があるというのが本稿の結論 である.
著者
櫻井 悟史
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

研究実施計画[A]にある、単著『死刑執行人の日本史-歴史社会学からの接近』についてのアウトリーチ活動の成果として、青弓社HPの『原稿の余白に』コーナーに、「殺人と<殺人>-『死刑執行人の日本史-歴史社会学からの接近』を書いて」と題したエッセイを書いたこと、立命館大学グローバルCOEプログラム「生存学」創成拠点HPの『研究の現場』コーナーに「死刑執行を思考する」と題したエッセイを日本語と英語で書いたことが挙げられる。研究実施計画[B]に挙げた、立命館大学大学院先端総合学術研究科公募研究会「歴史社会学研究会」の成果として、『歴史から現在への学際的アプローチ』を刊行し、その中で、「死刑執行方法の変遷と物理的/感情的距離の関係」と題する論文を書いた。ここでは、受刑者の物理的苦痛を減らすことで、執行する側の精神的苦痛をも軽減しようとしてきたアメリカ合衆国や中国にみられるような「文明化」とは違い、日本ではもっぱら執行する側の精神的苦痛の軽減だけを模索することで死刑執行方法が変遷してきたため、その変遷を「文明化」という枠組みだけでとらえることはできないことを、実際の日本の死刑執行方法の細かな変遷を歴史的に追うことで明らかにした。また、そこから現在の日本では、殺人から物理的にも感情的にも距離をとることで、殺人に対する抵抗感が極端に低いなか死刑執行がなされている可能性があり、このことを批判的にとらえるためにも、森巣博の死刑廃止論を再評価する必要があることも示した。研究実施計画[C]にある聴覚障害者支援についての研究成果としては、『聴覚障害者情報保障論-コミュニケーションを巡る技術・制度・思想の課題』を刊行したことが挙げられる。以上の計画とは別に、生活書院が発行する雑誌『生存学』にカフカの『流刑地にて』の読解を通じて、現行の死刑廃止論を批判する論考「殺人機械の誘惑」を執筆した。