著者
正富 宏之 正富 欣之
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.223-242, 2009-11-30 (Released:2018-02-01)
参考文献数
90

北海道に広く分布していた留鳥性タンチョウGrus japonensis個体群は、生息地開発や狩猟により19世紀末には絶滅寸前まで減少し、20世紀半ばまでその状態が継続した。しかし、1950年代に餌付けが行なわれ、冬の餌不足解消により現在は1,300羽を超すまでに回復した。他方、生息地の湿原は既に70%以上が失われているため、個体数増加に伴い繁殖番いの高密度化と越冬群の集中化が進行し、餌や営巣場所を求めて人工環境へ進出する傾向が顕著となっている。これを容易にしたのが、長年の保護活動によるヒトへの馴れであり、その結果、ヒトとのさまざまな軋轢を生んでいる。そこで、従来の個体数増加に力点を置いた保護方針の再検討を行ない、ヒトとの共存を図る新たな将来像の構築が求められる。それには、現状をふまえながら、タンチョウにややヒトと距離を置く生活習性へ向かわせることを基本姿勢とする。その上で、過剰なヒト馴れを低減する方法を模索すると共に、生息地の拡大・保全・維持を行ない、遺伝的多様性の低さに配慮した個体数の増加を図りながら、集中化によるカタストロフィの危険を避けるため、群れの分散化を目指すことである。これは、従来のように一部のツル関係者や行政担当者でなし得ることではなく、利害を持つ地域住民の主体的参加が不可欠であり、その方策として順応的管理に即した円卓会議の設置を急ぐべきである。
著者
正富 宏之 正富 欣之
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.223-242, 2009
参考文献数
90

北海道に広く分布していた留鳥性タンチョウGrus japonensis個体群は、生息地開発や狩猟により19世紀末には絶滅寸前まで減少し、20世紀半ばまでその状態が継続した。しかし、1950年代に餌付けが行なわれ、冬の餌不足解消により現在は1,300羽を超すまでに回復した。他方、生息地の湿原は既に70%以上が失われているため、個体数増加に伴い繁殖番いの高密度化と越冬群の集中化が進行し、餌や営巣場所を求めて人工環境へ進出する傾向が顕著となっている。これを容易にしたのが、長年の保護活動によるヒトへの馴れであり、その結果、ヒトとのさまざまな軋轢を生んでいる。そこで、従来の個体数増加に力点を置いた保護方針の再検討を行ない、ヒトとの共存を図る新たな将来像の構築が求められる。それには、現状をふまえながら、タンチョウにややヒトと距離を置く生活習性へ向かわせることを基本姿勢とする。その上で、過剰なヒト馴れを低減する方法を模索すると共に、生息地の拡大・保全・維持を行ない、遺伝的多様性の低さに配慮した個体数の増加を図りながら、集中化によるカタストロフィの危険を避けるため、群れの分散化を目指すことである。これは、従来のように一部のツル関係者や行政担当者でなし得ることではなく、利害を持つ地域住民の主体的参加が不可欠であり、その方策として順応的管理に即した円卓会議の設置を急ぐべきである。
著者
正富 宏之 正富 欣之 富士元 寿彦 増澤 直 小西 敢 藤村 朗子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.1910, 2020-05-15 (Released:2020-06-28)
参考文献数
29

世界におけるタンチョウ Grus japonensis Mlerは、大陸個体群と北海道個体群の二つの地域個体群に分かれる。北海道個体群の道東から北海道北部への繁殖域の拡大を、 2003年から 2015年まで航空機により調査した。北海道の北端宗谷地方には、 1860年ころまで確実にタンチョウが生息していたが、その後 2000年代初頭まで、この種の出現記録はなかった。しかし、地上調査により 2002年に日本海に面するサロベツ原野地区で夏に 2羽を見つけ、翌年から飛行調査を行い、 2004年には営巣活動に続いて 45日齢ほどのヒナも観察した。また、 2006年にオホーツク海側のクッチャロ湖地区で初めて 2羽を目撃し、 2008年には繁殖を認めた。その後、 2014年にサロベツ原野地区で 3番い、クッチャロ湖地区で 2番いが営巣し、 2015年は北限となる稚内大沼地区でも 1番いが加わり、計 6番いが就巣し、宗谷地方の主要繁殖適地における営巣地分布拡大を確認した。その結果、 2004年から 2015年までに、ペンケ沼周辺で 13羽、クッチャロ湖周辺で 9羽の幼鳥が育った。これに伴い、宗谷地方の春 -秋期個体群は 2015年までに最多で 15羽(幼鳥を含む)となり、明確な増大傾向を示した。宗谷地方へのタンチョウ進出は、道東における繁殖番いの高密度化によるもので、収容力に余地のある道北の個体群成長は、道東の過密化傾向抑制(分散化)にとり極めて意義深い。しかし、個体は冬に道東へ回帰し給餌場を利用すると思われるので、感染症等のリスクを抱えたままであるし、 2016年以降の営巣・繁殖状況等も不明である。従って、道東と分離した道北個体群創設や越冬地造成等も含めた効果的対応手段策定のため、道北一帯で飛行調査を主軸とする全体的動向把握を継続的に行うことが不可欠である。