- 著者
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正富 宏之
百瀬 邦和
- 出版者
- 公益財団法人 山階鳥類研究所
- 雑誌
- 山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
- 巻号頁・発行日
- vol.21, no.2, pp.265-279, 1989
- 被引用文献数
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1
1.1989年4月28日から5月2日にかけて,北海道東部の十勝,釧路,根室および網走の各管内で,セスナ機と一部にヘリコプターを用いて,タンチョウ<i>Grus japonensis</i>の巣の分布と繁殖状況を空から調査した。<br>2.延べ飛行距離は約3,000km,延べ飛行時間は22時間48分で,上記調査期間の前後に,地上からの調査と聞き取り調査も併せて行い,空中調査を補完する資料を収集した。<br>3.十勝地方では8巣(全体の8.2%),釧路地方で52巣(53.1%),根室地方で38巣(38.8%),合計で1回の調査ではこれまでの最高の98巣(内3巣は地点未確認)を見つけたが,網走地方では個体•巣とも発見できなかった。<br>4.巣の分布状況はこれまでと基本的に変わりなかったが,新たな地点に営巣した例が各管内で若干みられた。同時に,開発により営巣の妨害されたと思われる箇所や環境条件の思わしくないところでの営巣も見受けられた。<br>5.最も接近した2巣の間隔を地形図上で測定したところ最短で400m,最長で17,100mあり,平均では3,101mであった。また,釧路湿原では湿原周辺部と中央部では巣の密度が前者で明らかに高かった。<br>6.空中調査時に繁殖活動をしていた番い(n=93)のうち,確実に雛連れのものは1例のみで,他はすべて就巣行動を示していた。<br>7.個体群の中の繁殖個体の割合は約70%と見積られたが,推定生息個体数283羽は越冬個体数のわずか63-68%でしかなかった。南千島へ移動するほかにどこで越夏する個体が多いのか,依然としてはっきりしない。