著者
正岡 建洋 金井 隆典
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.116, no.7, pp.570-575, 2019-07-10 (Released:2019-07-10)
参考文献数
24

過敏性腸症候群(IBS)においてはその病態生理として,精神的ストレスや炎症,腸内細菌叢の構成異常(dysbiosis),消化管形態異常があり,それによって消化管運動異常,内臓知覚過敏が惹起され,その表現型として,下痢や便秘といった便通異常,腹痛という症状を呈していると考えられる.近年,便秘型IBSに対しては新規の薬剤が導入され,腸内細菌を標的とする抗菌薬投与,低FODMAP食や糞便微生物移植といった新規の治療も開発されつつある.今後は,これらの治療法を本邦の現状に即して最適化していくことが必要である.
著者
正岡 建洋
出版者
慶應義塾大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

一酸化窒素(NO)は生体内でメディエーターとして様々な作用を持つことが知られており,NO供与体であるsodium nitroprusideの投与で,摂食量が増加する報告や,NO合成酵素(NOS)の阻害薬(L-NAM)の投与により,摂食量,体重が減少する報告から,NOは摂食調節に関与していると考えられるが,その機序の詳細は明らかではない。我々はFunctional dyspepsia(FD)の患者で血漿グレリンが高値であることを報告しているが(Aliment. Pham. Ther.24:104,2006)、神経型NO合成酵素(nNOS)ノックアウトマウスでは著明な胃拡張と胃排出能の低下を呈する(Gastroenterology119:766,2000)ことや、FD患者へのNOドナー投与は胃運動低下を改善させる(Gastroenterology 118:714,2000)ことから、NOがFDの病態形成へ関与している可能性が示唆されている。本研究ではnNOSノックアウトマウス(nNOS<^-/->)を用いて、nNOS由来のNOによるグレリン分泌調節機構について検討した。nNOSノックアウトマウスの解析12週齢のnNOSノックアウトマウス(nNOS<^-/->:n=10)と野生型マウス(WT:n=10)を18時間の禁食後,解剖に供した。血漿中及び胃粘膜中のグレリン量はRadioimmunoassay、胃粘膜中プレプログレリンmRNA発現量は定量的RT-PCR、胃粘膜中グレリン陽性細胞数は免疫組織化学、血漿アディポネクチン、血清インスリン及びレプチンはELISA法で検討した。nNOS<^-/->では、WTと比べて摂食量、血漿中の活性型グレリン及び総グレリン、胃粘膜中の活性型グレリン及び総グレリン、胃粘膜中プレプログレリンmRNA発現量、胃粘膜中グレリン陽性細胞数は有意に増加した。血漿アディポネクチンはWTマウスと比べて有意に減少したが、血清インスリン及びレプチンは有意な変化を認めなかった。以上より、nNOS由来のNOが胃粘膜からのグレリンの産生及び分泌を抑制し、摂食調節に寄与する可能性が示唆された。