著者
正田 真利恵 黒田 直史 横澤 一彦
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.69-76, 2015-02-28 (Released:2015-04-16)
参考文献数
13

顔や視線は情報選択を司る顕在的注意,すなわち注視に影響する.本研究ではマジック動画観察時の眼球運動を計測することで,ヒトの顔や視線方向が,注視に強く影響することを検証した.動画開始時にはマジシャンの顔が注視されやすかった.またマジシャンが視線を向けた物体が,その後,持続的に注視されたことから,他者の視線方向が観察者の注視行動に影響した.さらに注視すべき対象を知っている2回目観察時においても,マジシャンが視線を向けた物体が長く注視された.そしてマジシャンの顔が遮蔽され,視線方向を視認できない場合にも本傾向は生じたことから,他者の視線は,観察者の注視行動に対して,頑健に影響したと考えられる.ただし他者の視線方向に対する注視の偏りは,動画の進展に伴い減衰した.以上より,他者の意図を正しく推測できて初めて内容が理解できるマジック動画を観察しているときには,事前観察に基づき注視行動を制御可能であっても,他者の存在から視線を逸らしにくいことが明らかになった.