- 著者
-
武 倩
劉 冠偉
- 出版者
- 北海道大学文学研究科
- 雑誌
- 北海道大学大学院文学研究科研究論集 (ISSN:13470132)
- 巻号頁・発行日
- no.18, pp.49-61, 2018
『本草和名』(918年頃)は日本現存最古の本草薬名辞典である。唐の勅撰本草『新修本草』を範にとり,『食経』等によって増補され,千種以上の薬用動植鉱物を収録している。漢名を見出し語に,下に別名,万葉仮名和訓,産地を注記する体裁をとっている。漢名に和名を対照させたことが本書の大きな特徴で,国語国文学や博物学など幅広い分野の研究に貢献できる。本稿は,『本草和名』データベースに基づき,本書に記載されている薬用動植鉱物の漢名と和名について,考察を行った。考察に当たって,「松本書屋本」を底本に用いたが,「万延元年影写本」との間にある異文も合わせて提示した。『本草和名』は本草書にある薬の性味・効能・採取時節などに関する記述を省略するものの,薬の名称をなるべく多く蒐集しようとする特色がある。この点について、先行研究では断片的に指摘されているものの,詳しい検討はこれまでになされていなかった。そこで本研究では,本書所載の漢名を見出し項目の漢名と項目内の漢名に分けて検討を行った。まず,見出し項目を『新修本草』の編次に対照し,項目数を再計算した。そこから項目内の漢名を,データベースの活用によって,形式上分類・計量することが出来た。更に漢名列記の形式として「一名~」と「無標記」が最も多く,その他の形式には「並列式」「定義式」「部位別式」「地域別式」の四種類があると指摘した。これらの成果は,本書における漢名列記の形式を分析した初めての研究として注目に値する。本書に記載されている和名は,平安時代の語彙と音韻を反映する重要な語学資料である。関連する文献との比較調査によって,これからの国語学の研究に貢献することが期待される。本研究では,手始めとして,本書の和名に対しては,その注記率や万葉仮名使用状況を統計した。今後は,本データベースの改良に励むと共に,他文献データベースとの連携を図り,調査を進展させたい。