著者
池村 健 武久 洋三
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.55-60, 2015-01-25 (Released:2015-03-16)
参考文献数
2

目的:回復期リハビリテーション病棟において,夜間に療法士が係ることで,患者のADLや転倒件数などにどのような影響があるかを調査し,その必要性と可能性を検討する.方法:11の回復期リハビリテーション病棟に入院する患者を対象とし,夜間に療法士が介入した期間と介入していない期間を各3カ月間設定し,その期間に向上したADL点数を比較した.また転倒に関するインシデント件数の推移を調査した.加えて夜間に係ったスタッフにアンケートを実施し,必要性等について調査した.結果:療法士の夜間介入により,BIやFIMなどの向上点数が介入していない群と比べ高い値が示された.同時に転倒件数の減少も認めた.アンケート調査からは,療法士ならびに他職種間での夜勤に対する捉え方の相違がうかがえる結果となった.考察:療法士が夜間に介入することにより患者のADL向上や転倒減少など,良い結果に繋がることが示唆された.療法士の意識改革や業務上の問題点も残されてはいるが,療法士による夜間への介入はリハビリテーションを必要とする患者の入院する病棟における新たな可能性となり得ることが示唆された.
著者
武久 洋三
出版者
The Japan Geriatrics Society
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.209-212, 2010-05-25

平成20年10月23日,社会保障国民会議において発表された「将来の医療提供体制・介護提供体制の現状と将来像」から一般病床という病床区分が消え,近い将来には急性期,慢性期(急性期後期),介護期に分類されると考えられる.日本慢性期医療協会は,急性期病院を峻別化し,高度急性期病床以外を病院病床として統一した上で,平均在院日数・人的資源・病床面積の3要素で診療報酬を評価すべきと考える.各施設に求められる機能や理念を今一度見つめ直し,対象領域を明確にする必要があるだろう.<br> 厚生労働省の描く「改革シナリオ」では,高齢化の進展や有病率の増加,年間死亡推定数を加味し,医療・介護サービスの対象人数を現状よりも約300万人多く設定している.医療・介護体制は川上である高度急性期病院の定義から始まる.平均在院日数の短縮化に伴い,退院患者数と慢性期医療の必要性も倍増する.各施設に患者を当て込み,残りは居住系施設や在宅と考えなければ,事はシナリオ通りには運ばないだろう.<br> 療養病床の再編は急性期医療にも思わぬ歪みを生んだ.慢性期医療の縮小は急性期病院の崩壊を加速させる危険性を孕んでいる.高度急性期病院と慢性期病院は相補関係にあり,互いに連携の強化を求めている.実際に連携ネットワークが機能している地域では,着実にその実績を上げている.各医療機関が機能に合った患者の治療に当たることで医療費は適正化され,その機能を補完し合うことで今後激増する地域ニーズを受け止めることが可能と考える.<br> 時代は利益優先・経済優先主義の社会から国民が安心して暮らせる社会の構築へと移り変わっていく.国の施策が目指すべき方向は,子供たちや高齢者の尊厳を守り,将来の不安を感じることのない未来を築くことである.国民にとって必要な医療施策の提言とその実現を目指し,すべての医療福祉施設は「国民の命と健康を守る」との立場から一致協力する必要を強く感じている.<br>
著者
武久 洋三
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.239-242, 2011 (Released:2011-07-15)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

高齢者は複数の疾患を抱えており,治療が遷延し回復に時間を要することが多い.急性期病院では臓器別専門医による専門分野の治療が中心である.老年医学は老年患者の病態を把握した上で総合的に診るという機能があるが現在の日本の医療制度では,高齢者が脳卒中などを引き起こした場合には,まず急性期病院へ運ばれ治療が行われる.しかし急性期病院は平均在院日数の短縮化やDPC制度の弊害により,主病名の治療が一段落すると退院促進をすることが一般的である. 慢性期医療を担う病院では,主病名の治療を終えた各専門科の患者が慢性期病院へ紹介されてやってくる.慢性期医療とは,高度急性期病院で受けた治療後の患者の治療を継承するとともにその疾病や治療によってもたらされた身体環境の悪化(「医原性身体環境破壊」)に対する治療を総合的に行い疾病前の状態に回復させ,患者が施設や在宅療養に移行できるようにQOLを回復し病状の悪化を防ぐ機能を含め非常に広範囲な医療の概念が必要と考える.そのためには医学的治療だけでなくリハビリテーションをはじめ,看護・介護ケア,栄養ケアなど様々な方面からサポートしなければならない. 現在,慢性期医療を担う病院ではICUの入院患者と変わらない症状の患者を治療している.同じ医療区分1の患者であっても施設で対応可能な軽症患者から重症患者まで多種多様であり現在の診療報酬の医療区分の体系で患者状態を保険診療していくのは困難である. 15年後には,死亡者が現在より50万人も多い160万人になると推測されており,さらに病院・施設・在宅療養対象者が300万人も増えることが予想されているにもかかわらず国は今後病床数を増やさない方針であるため,在宅療養支援機能の強化が必要となってくる.今後は病院が地域包括医療センターとして地域包括支援センターの役割も併設しトータルで医療と介護をコーディネートしていく必要があると考える.
著者
武久 洋三 大和 薫 荒尾 徳三 武久 敬洋
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.347-359, 2022-07-25 (Released:2022-09-07)
参考文献数
28

目的:慢性期病院において2010年と2020年の入退院先の変化を調査すること,および年齢,性別,入院時血液生化学検査値について生存期間への予後不良因子を明らかにすること.方法:対象は2010年と2020年の各年に慢性期病院12病院に新規に入院した症例とした.評価項目は年齢,性別,入院元,入院90日後の転帰と退院先,生存期間,入院時の血液生化学検査6項目(ヘモグロビン,アルブミン,総コレステロール,血糖,尿素窒素,ナトリウム).入退院先情報は2010年と2020年の10年間の変化を調査した.生存期間解析は,年齢,性別,6項目の入院時血液生化学検査値を使用して入院後の生存期間を解析した.結果:8,007例の新規入院症例を解析した.入院元の調査では,慢性期病院において2010年から10年間の経過で急性期病院からの入院は増加し,介護系施設からの入院は減少した.同様に入院90日後の転帰では,自宅退院と在宅系施設への退院は増加し,介護系施設への退院と死亡率は低下した.生存期間解析では,多変量解析において高年齢,男性,アルブミン低値,総コレステロール高値,尿素窒素高値,ナトリウム低値が予後不良因子であった.一貫して予後不良因子であった5変数(年齢,性別,アルブミン,尿素窒素,ナトリウム)でスコア化した生存期間解析では,5変数のスコアが生存期間に対して用量依存的に強く相関することが示された.結論:本研究において,慢性期病院の入退院先情報の調査を行った.慢性期病院において入院時の高年齢,男性,尿素窒素高値,ナトリウム低値,アルブミン低値は強力な予後不良因子であることが示され,入院後に水分電解質状態および栄養状態の改善を図ることの重要性が示唆された.
著者
武久 洋三 武久 敬洋 大和 薫 倉本 悦子 井川 誠一郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.107-113, 2012 (Released:2012-03-29)
参考文献数
13
被引用文献数
1

目的:脱水患者に対する間歇的な補液投与(以下間歇的補液療法と記す)の有効性を証明する.独自に作製した経消化管補液剤であるHeisei Solution Water(以下HSWと略す)の有効性を証明する.方法:当院および関連病院計13病院に入院した1,921例中脱水が疑われた375症例を抽出し,このうち36例に間歇的補液療法を行った.これらの補液投与経路を(1)経消化管投与(16例)(2)点滴投与(10例)(3)経消化管投与と点滴投与の併用(10例)の3群に分類し3群間のBUN/Cr比を比較した.結果:(1)(2)(3)のいずれの群でもBUN/Cr比は改善していた.3群間のBUN/Cr比改善に有意差は認められなかった.結論:間歇的補液療法は脱水治療に非常に効果的であった.HSWを使用した経消化管間歇的補液療法は他の投与群と同様に有効であった.
著者
武久 洋三
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.209-212, 2010 (Released:2010-07-05)
参考文献数
9

平成20年10月23日,社会保障国民会議において発表された「将来の医療提供体制・介護提供体制の現状と将来像」から一般病床という病床区分が消え,近い将来には急性期,慢性期(急性期後期),介護期に分類されると考えられる.日本慢性期医療協会は,急性期病院を峻別化し,高度急性期病床以外を病院病床として統一した上で,平均在院日数・人的資源・病床面積の3要素で診療報酬を評価すべきと考える.各施設に求められる機能や理念を今一度見つめ直し,対象領域を明確にする必要があるだろう. 厚生労働省の描く「改革シナリオ」では,高齢化の進展や有病率の増加,年間死亡推定数を加味し,医療・介護サービスの対象人数を現状よりも約300万人多く設定している.医療・介護体制は川上である高度急性期病院の定義から始まる.平均在院日数の短縮化に伴い,退院患者数と慢性期医療の必要性も倍増する.各施設に患者を当て込み,残りは居住系施設や在宅と考えなければ,事はシナリオ通りには運ばないだろう. 療養病床の再編は急性期医療にも思わぬ歪みを生んだ.慢性期医療の縮小は急性期病院の崩壊を加速させる危険性を孕んでいる.高度急性期病院と慢性期病院は相補関係にあり,互いに連携の強化を求めている.実際に連携ネットワークが機能している地域では,着実にその実績を上げている.各医療機関が機能に合った患者の治療に当たることで医療費は適正化され,その機能を補完し合うことで今後激増する地域ニーズを受け止めることが可能と考える. 時代は利益優先・経済優先主義の社会から国民が安心して暮らせる社会の構築へと移り変わっていく.国の施策が目指すべき方向は,子供たちや高齢者の尊厳を守り,将来の不安を感じることのない未来を築くことである.国民にとって必要な医療施策の提言とその実現を目指し,すべての医療福祉施設は「国民の命と健康を守る」との立場から一致協力する必要を強く感じている.